……だから、すぐ終わると思っていたのだ。


 こんな友達ごっこみたいなことなんて。


 きっと彼みたいな人は、私といてもすぐにイライラして仲良くなるどころではないだろうと、だから、連絡先のことも諦めてくれるだろうと思ったのに。

 視線の先に駅前のロータリーが見えてくる。学校からそんなに離れていないこの駅はこの時間、帰宅する学生でいっぱいだ。

 その人だかりから、チラチラと視線が波のように刺さってくる。

 最近ではもう大分なれたけれど、倖と放課後遊ぶようになってから時折こういう視線に晒される。組合せが不思議で面白いのだろうなと予測はつく。けれど、あまりにも不躾にじろじろと見られるのは苦手だった。

 倖くんも、きっと気づいている。

 けれど何も言わないし、何も変わらない。

 彼はいつも通りスタスタと駅前まで歩いていく。

 すると突然ピタリと足を止め、やおら自分の足元をジッと見つめはじめた。

 そうしてガバリッとしゃがみこみ、ものすごいドヤ顔で振り返ってくる。

 りんは倖の奇行に戸惑いつつも、少しだけ眉を顰めてそれを見ていた。

「なんですか?」

 問いかけるも返事はなく、倖はただゆっくりと右手を掲げ、りんの鼻先数センチのところで何やら銀色に光る丸いものを突きつけてきた。

 近い。見えない。

 むこうが離れる気配0なので、りんが一歩下がった。

 あぁ、500円玉。

「何飲む?」

 倖は自動販売機に拾った硬貨を投入した。ためらいも何もないのがいっそ清々しい。

「……私は遠慮しときます。」

「何が遠慮だ。どうせ共犯者なんだから飲めよ。あ、それとも俺の一推しドリンク飲むか?」

 誰がいつ共犯に。

 半眼になるりんをよそに、倖はいそいそと自動販売機の商品を指でたどる。倖の目がキラリと光った瞬間に後ろからピッとりんがボタンを押した。

「あっ!!何してんだおまえ!」

「気がかわったんです。ご馳走さまです。」

 唖然としている倖を後目に取り出し口からオレンジジュースを取り出す。つぶつぶがおいしい、一般的な飲み物だ。

 プシュッと缶をあけ一口飲んだ。

「せっかく俺のおすすめ、飲ましてやろうと思ったのに。」

 口をとんがらかせてごねる倖に、りんはジト目で抗議した。

「どうせ、そこらへんの一般的でない飲み物を飲ませる気だったんでしょ?」

 倖の指がうろうろとしていた一帯をりんは指差した。 

「一般的じゃないなんて、失礼だな。甘酒もコンポタも全部ちゃんとうまいぞ。」

 じゃあ、自分が飲めばいいではないか、と言う間もなく倖はコーラのボタンを押した。

「……自分だけコーラ飲むつもりだったんですか。」

「んなわけねーだろ。変なもの飲むときは一緒に飲まなきゃ面白くねーだろ。」

 いま変なものって言った。

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