帰りたいんだ、何としても。
テツノシン
第1話 プロローグ
長かった。とにかく、ここまで長かった。
彼らが一つにまとまるなんてことは終ぞなかった。
彼らは集団としてバラバラでチグハグで、互いが互いに自分の利益を優先するため、互いの足を引っ張り合うことは当然であり、時には殺意を持って相手を邪魔したりもした。
もしも彼らがテレビの中の芸能人で、彼らの様子がテレビで中継されていたとしたら、おそらくほとんどの視聴者は、彼らの足の引っ張り合いに辟易としていたに違いない。
だが、だがである。
彼らは27年の月日をかけ、ついに100層まで辿り着いた。
そして、拙い連携ながらも、そこに居た敵を打破するに至ったのだ。
彼らはひとしきり喜んだ。
未だ喧騒の止まぬ中、度重なる論争の末、今回の攻略の総大将を務めることになった、若々しく力強い瞳をした男、ローグが仲間の一人に語りかけた。
「やったね。本当にここまで長かったよ。」
「ああ。まあ、なんだ、いざここに至ってみると帰ってからが色々と不安だな。」
「うん。向こうじゃ9年か。僕のことみんな覚えてくれているか少し不安だよ。」
「俺もだ。お互い、笑顔で迎えられるといいな。」
「うん。そうなることを願っているよ。それにしても9年か。僕たちは魔力のおかげであんまり老けてないけど、父さんや母さんはだいぶ変わってるだろうなあ。」
「そうだろうな。俺は、あんなに可愛かった娘がどんな変貌を遂げているのか不安でしょうがない。」
「まあ、真っ直ぐ育っているかもしれないじゃないか。」
「まあ、な。だが嫌な予感がするんだよ。」
「和磨の悪い予感はとてもよく当たるからね。でもまあ、何と言ったって、あっちじゃそうそう死ぬことはないからね。」
「確かにな。そう考えると幾分かましか。」
「そう思いたいよね。—————さてと、そろそろ行きますか。この世界の最終地点へ。」
「ああ。だがまあ、まだ謎が残っているってのが不安なんだよな。」
「まあね。でもそれは結局僕たちの危機感を煽るためだって結論に至ったじゃないか。」
「だがなあ、、、、。」
「はいはい、まあそれももうすぐ、行けば分かることだから。ほら、一応今回の攻略の総大将ってことでみんな待ってくれてるから行くよ。」
「ああ、それもそうだな。」
彼らは100層の敵、いわゆすボスモンスターを倒したことで突然現れた高さおよそ10メートル、直径3メートルほどのロンドンの時計塔のような建物へと歩みを進める。
ある者は笑顔を輝かせながら。
ある者は歓喜の涙を流しながら。
ある者は仲間とこれまでのことを語り合いながら。
また、ある者はここに居ない者を想い涙を流しながら。
そうしてたどり着いた先、彼らの先頭が壁面に埋められた液晶パネルに1メートルのところまで達した瞬間、液晶パネルに
「おめでとうございます。
あなた達は当迷宮「第一の迷宮」をクリアしました。
クリアに伴いクリア報酬を選択することができます。
報酬は以下の通りです。
・能力(下記のいずれか1つを選択可能)🔽
・外部への通信(一人につき30分)
・現実世界への道
今後とも皆様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。」
との表示が。
途端、辺りは騒めき出し、動揺が広がっていく。
そんな中、流石は総大将と言うべきか、動揺から立ち直り、誰よりも早く覚悟を決め、パネルに触れる。
すると、周りの者はじっと彼のことを注視し、様子を見守る。
ローグは、パネルを操作する。そして全ての欄を隈なく確認する。
その様子をその場にいた全員が見ていた。
彼らはこの世界の真実に一歩踏み込んだ。
そして、彼らは————————
------▽------
一週間後
ローグは今回の攻略の成功を祝い、盛大に開かれた宴会で乾杯を音頭をとった後、仲間たちと宴会に出された料理や酒を嗜んでいた。
しかし、そこはどこか少し暗い雰囲気がまとわりついていた。
「おい。」
「ああ、なんだい?」
「お前は正直、間に合うと思うか?」
「さあね。でも間に合わせるより他にないことも確かだよ。」
「ああ。なあ、おい、やっぱりこんなことしてる暇なんてないんじゃ——
「ああもう!またあんたはそんなこと言って!何回目だと思ってるの!?あんたがそんなことばっか言うから話し合って明日以降は予定をキャンセルして遠征に行くことになったんでしょ!」
「……そう。一日二日も大して変わらない。和磨の頭は悲しいことになっている。」
「うるせえ、アミュ、ワン!誰の頭が悲しいだって!?」
「ははは。3人はこうして30年近く一緒にいてもあんまり変わらないね。」
「おい、ローグ、それは一体どういう——————
夜は更けていく。
あの後、得た情報が情報なだけに一般には非公開とされた。
情報を知らぬ者は当然のように浮かれ、この宴会を心の底から楽しんでいるようだ。
また情報を知る者でも今夜ばかりは楽しもうと馬鹿騒ぎをしているものが多くいる。
そして、時刻が日付が変わろうとしていた時、突如それはこの世界の全員に聞こえてきた。
ピンポーン
「只今、世界歴27年0ヶ月2日23時46分を持ちまして、この世界はクリアされました。
それに伴い、これよりクリア達成者を除き、現在生き残ってる全プレイヤーの強制ログアウトと世界の解体を開始します。
長らくの間、この世界をご愛好いただき誠にありがとうございます。
皆さまが現実世界に戻られてからも、ここで得た様々なことを活用し健やかに過ごされますことを心より祈っております。」
ピンポーン
「……おい、ローグ。これはどういうことだ?」
「…分からない。いや、アナウンスの通りなんだろうとは思うけど、まだあれから1週間しか経っていない。まだどこのクランも動き出していないし、現実的に考えて、あり得ないはずだ。」
「……つまり、どういうことなのよ。」
「……考えられるのはただ一つ。誰も知らないパーティーか、あるいはクランか。彼らが私たちがちんたらやってる間に残りを全て片付けた。」
「なんだって!?そんなことあるわけないだろう!!」
「…でも、そうとしか考えららないのも事実だよ。でも、いや、まさかそんな。もしそれが真実なら、それは偉業どころの話じゃない、文字通り神業だ。そうだったとしたら、彼らから見た僕たちはなんて滑稽な存在なんだ———————
議論は尽きない。
しかし、現に一人また一人と強制ログアウトが行われ、ついにはあたりに誰もいなくなってしまい、世界は端から砂の城のように解体され、消えていくのだった。
------▽------
時は遡る。
彼らが「始まりの迷宮」をクリアして1日後の早朝、十人程のプレイヤーが「始まりの迷宮」クリア直後に現れた、一つの迷宮の前に集っていた。
そのプレイヤー達は円陣を組んで、隣のプレイヤーと手を繋いでいた。
が、何故か所々隣のプレイヤーと手を繋がず、間隔を開けている所もあり、見る者に不完全な印象を抱かせる円陣を組んでいた。
されど、そのプレイヤー達は全員、その瞳に幼子であればたちまち泣き出すような強い意志を灯していた。
また、その体躯には無数の傷跡が見え、微塵も弱さなどは感じられない。
そんな異質なプレイヤー達の中にあって一際異質。その身に纏う服以外の全てが真っ白。
顔、手足、髪、爪など、人体の全てがこれでもかというほどの白。
この世のどんな白より、白い。
そんな白のプレイヤーを、他のプレイヤー達は鉄さえ溶かしてしまいそうな熱い眼差しで見ていた。
白は目を閉じていた。
息を穏やかに吸い、吐く。再度吸い込み、吐き出す。
目を開く。当然のようにそれすら白。
そして、白が一言。
「…よし。行こうか。」
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