どうぶつ王国!

夕日ゆうや

第1話 疑問編

 ここにはたくさんの動物たちがいる。

「カバさんや、カバさん」

「なんだい? ラッコくん」

「どうして大きな口を持っているの?」

 ボクはカバさんの大きな口に興味津々だ。

「それはね。天敵から襲われないためだよ」

「そうなんだ。確かにその大きな口なら敵も逃げるだろうね」

「そうなんだよ」

「ところで、体の毛が生えていないけど、紫外線とかに弱くない?」

「大丈夫。おれっちはネバネバした汗をかくから」

「なるほど。そのピンク色の水分は汗なんだね。それで紫外線や乾燥から身を守っているわけだ」

 ボクは納得いくと、嬉しそうに頷く。

「そういうラッコくんは、いつも同じ石で貝を器用に割るよね? どこから持ってくるの?」

「ボクにはポケットがあって、そこにお気に入りの石を隠しているんだ」

 えっへんと胸を張るボク。

「寝る時は海藻か、友達の手を握って流されないようにしているんだ」

 ふふんと自慢げに言うボク。

「そうなんだ。かわいいね」

「か、可愛い?」

 ボクは投げかけられた言葉に驚く。

「いやいや、生活の知恵と呼んでほしいね」

「そんなことを言えるのは君ぐらいだよ。動物園に訪れる人々はかわいさで決めるからね」

「そ、そうなの?」

「新人の君は気づいていないか。ここではかわいさが指標になるんだよ?」

「へ~」


「ゴリラくん、ゴリラくん」

「なんだ?」

「なんでうんちを投げているの?」

「これは求愛の意味と、威嚇の意味があるんだ。人間たちには威嚇しているのさ」

 野太い声で応じるゴリラくん。

「へぇ~。面白いね。同じ行動なのにまったくの逆とは」

「いいだろ? 俺たちは俺たちの好きなように生きるのさ」

「握力もすごいよね? 何キロ?」

「500キロくらいかな。仲間は400キロって言っていたけどね」

 ゴリラは照れくさそうに笑いを浮かべる。


 ボクは園内をゆったりと歩いて回る。

 でもすぐに疲れてしまい、水のあるホッキョクグマのところにたどり着く。

「すごい毛並みだね。手入れは大変でしょう?」

「そうなの。こう見えても透明な毛で空気の屈折で白く見えるのよ」

「そうなんだ。じゃあ、シロクマとも言うから肌は白いんでしょ?」

「それが地肌は黒なの。ほら、足の裏とかがよく見えるでしょ?」

「本当だ。黒い。でも、こんなところまで毛が生えているんだね」

「そう! これで氷の上でも滑らずに歩けるの。でも子どもうちは滑ったものよ」

 うふふっと機嫌良さそうに笑うホッキョクグマ。


 ボクが歩いているうちに、みんなから注目を浴びているジャイアントパンダくんのところにたどり着く。

「パンダくんは人気あるね」

「そうなんだ。僕はこの園内の看板娘、もとい看板息子らしいんだ」

「客寄せパンダという言葉もあるもんね」

「その話、しないで」

 冷たく突き放すパンダくん。

「ごめんよ。かんに障ってしまったようで、悪かった」

「もう、いいけどね。いい年したおっさんが竹を持つだけでも人気がでるんだもの」

「でも竹を持つのって難しくない?」

「そこで七の指があるんだ」

「え。普通は五本指だよね?」

「うん。でも僕たちパンダは五本の指の他に二つのこぶがあるんだ。これで竹を持ってもぶれずに食べることができるんだ」

「へー。進化ってすごいね。ボクも指ふやしたい」

「まあ、人気者になるのも辛いよ。四六時中監視されているからね。休まる暇もない」

「プライベートがないものね」

 ボクは得心いくと、パンダさんとお別れする。


 ボクは園内を歩くこと数分。

「イルカくんは格好いいね」

 イルカくんを見つける。みんなの人気者。頭も良く、争いを好まない大人しい性格をしている。

「そう? ぼくはそんなに格好いいかい?」

 漂うかっこよさ。気品溢れる笑みを浮かべている。

「うん。素敵だと思う」

「そうかな。でも、君も素敵だよ、ラッコくん」

「そうかな? こうして歩くのは苦手なんだ。でもスタンプラリーがあるから」

「それで各地を巡っているのかい?」

「うん。商品のキーホルダーが欲しいんだ」

「ふふ。それは楽しみだね」

「ところでどこを向いているんだい?」

「ああ。ごめん。実は視力が弱くて」

「そうなの? それじゃあ不便でしょ?」

「でも代わりに超音波で位置を確認できるんだ」

「すっごーい! ハイテクだね!」

「そうかい? ぼくとしては本当の世界を見てみたいものだけど」

「そうだ。ボクは海でイルカくんと出会ったよ。大きかった」

「どのくらいの大きさだったの?」

「確か5メートルくらいの赤ちゃんイルカだったかな?」

「4メートル以上はクジラ。それ以下がイルカって呼ばれているのは知っている?」

「そうなの? じゃあ、ボクが見たのはクジラ?」

 ボクは驚き、声を張り上げる。

「そうなるね。君は初めてイルカと話しているわけだ」

「そっか。初めまして」

「こちらこそ。初めまして」

 なんとも初心なやりとりにドキドキしてしまう。


 そろそろスタンプラリーも終盤。

 見えてきたのはペンギンコーナー。

「ペンギンさん久しぶり」

「おうよ! わいになんか用かい?」

「どうせならみんなとお話したいと思って」

「いいぞい。なんでも話してみせい!」

「前に調べたけど、足の骨が折りたたまれた状態だから、ずっと空気椅子に座っている感じなんでしょ? 大変じゃない?」

「そうでもないぞ。わいらはそのために筋肉の付き方が違うんだ。それに泳ぐためには邪魔でしかないからな!」

 がはははと笑い飛ばすペンギンくん。

「ちなみに呑み込んだ魚を戻さないために、口の中はギザギザの突起があるんだ!」

 そう言って口を広げるペンギン。

「ホントだ。とげとげしている!?」

「ふふん。すごいだろ?」

「あなた、油売っていないで、少しは手伝いなさいよ!」

「おっと。ハニーからのお叱りだ」

「そう言えば、ペンギンくんは生涯同じ相手と添い遂げるんだっけ?」

「そうだよ。わいらは固い絆で結ばれているのさ!」

「ダーリン早く!」

 言い慣れたダーリンに照れるボク。

 なんだか羨ましい関係だな。

 そう思ってペンギンコーナーを後にする。


 お次はレッサーパンダ。

「パンダとついているけど、ジャイアントパンダくんとは親戚なのかい?」

「違うよ。ホントは自分が先にパンダってついたんだけど、大きい方のジャイアントパンダと分けるために〝レッサー(ちいさい)〟とつけたんだって。人間てわがままだね」

「そうなんだ。そう言えば前にレッサーパンダが立ち上がる動画が流行ったね」

「そう! あれは自分たちレッサーパンダなら誰でもできるんだけど、自分から進んではやらないんだ」

「ふーん。どういう時にするの?」

「それが警戒しているときとか、周囲を見渡すときにするんだ。骨格からして立てるようになっているんだよ!」

 嬉しそうに立って見せるレッサーパンダくん。

「ホントだ。すごーい。ボクもできるようになりたい!」

「やってみたら?」

「こう、かな?」

 ボクも後ろ足で立ち、前足を浮かせる。

「そう! できるじゃないか!」

「えへへへ。ボクにもできたよ!」

 嬉しさでそのままぴょんぴょんと跳ねる。でも、

「疲れるね」

 すぐに息を荒げる。

「慣れが必要だね。さあ、そろそろ最後のスタンプだよ!」

「そうだね。ボクは最後にコアラさんのところに行くんだ!」

 気合いを入れ直し、コアラさんのいる場所にたどり着く。


「やあやあ、待っていたよ。ラッコくん」

「君がコアラくん? ずいぶんと眠そうだね」

 その間にもふわあああとあくびをかくコアラくん。

「そうなんだよ。なんでわたしが眠いのか、分かるかい?」

 急な問いに答えられないボク。

「なんでだろ? 疲れているから?」

「さあ、この正解はみんなが考えて、からかな」

 コアラくんが意地の悪い笑みを浮かべる。

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