第29話

 じゃあせめて水!

 しかし瓶入り水は、栓がしてあります。

 栓抜きやその他、金属の王冠を開けたことがない彼女は、壁にそれを打ち付けます。

 やがて、瓶の首の辺りが衝撃に耐えられず割れてしまいます。

 何とか水は飲めそうです。

 ですが、気をつけないと、ガラスの破片で口を切ってしまいます。

 いえ、切ってしまいました。

 みじめでみじめで、彼女は泣きだしました。

 それでも、ともかく水は飲みました。

 そしてその一方で、ワインの方はまだコルクですから、開けられると思ったのではないでしょうか。

 抜くのではなく、押し込んで、彼女はこれは成功しました。

 だけどワインは、夜会でもそうそう沢山飲んだことがある訳でもないのです。

 瓶に口をつけて、ワインを少し呑んだ後、またショードブレッドの缶に取りかかります。

 そうしているうちに、とっぷりと日が暮れます。

 この部屋には灯りがありません。

 と言うか、基本的に小部屋に灯りは置いていません。

 火事が起きたらまずいですから。

 従って、彼女は闇の中に取り残されることとなります。

 そして冷えます。

 何か布は無いか、と探します。

 月明かりの中、木箱の上に掛かっていた布や、ワインの緩衝材をかき集めます。

 そして床の上に直に眠ります。


 缶が開かないまま、まる二日経ちました。

 その間、空腹を紛らわすために、水とワインだけ腹に入れていた訳ですから、トイレに行きたくなります。

 トイレと決まった場所がなければ、専用の便器に出すのが普通ですが、それすらありません。

 仕方がないので、部屋の隅に垂れ流します。

 そしてひたすら缶を開けようとします。

 ただ、それでも木箱の角に叩きつけた時、少しだけ開きそうだったので、彼女は必死でそこだけを狙います。

 腕が痛いです。

 普段使わない筋肉ですから。

 手も痛いです。

 そうこうしているうちに、急にすかっ、と缶が開きました。

 彼女は出てきたショートブレッドを貪り食います。

 食べても食べても、止まりません。

 喉が渇くので、また水の瓶の口を割ります。

 唇が切れます。

 ワインも腹に入れます。

 腹一杯になったら寝て、そうしたら昼間でも寝てしまい、今度は夜、ずっと眠れません。

 何処かから隙間風が入ってきます。

 音がします。

 その音自体に恐怖します。


 そんなことが、三日続いても、何の音沙汰もありません。

 そうしたら、再び彼女はどんどん、とひたすら扉を叩き出しました。

 鍵がかかってるなら、その鍵の作りがどうなっているか考えることができなかっったのが、おそらくは彼女の最大の悲劇でしょう。

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