第9話

 電信の力って凄いです。

 一週間後、お祖父様とお祖母様が唐突にこちらにいらっしゃいました。

 今いる場所は伝えていたこと、そして男爵家には連絡しないこと、をスペンサーが伝え送っていたおかげで、お二人とも直接フレライ会計事務所の方へといらっしゃいました。

 そしてそこでちょっとしたお手伝いなどしている私の姿を見た途端。


「マニュレット~! 大丈夫だったかあ!」

「ああ貴女だけでも大丈夫で良かった!」


 そう言われてお二人からぎゅうぎゅう抱きつかれてしまいました。


「私は大丈夫です。お母様のこと、お伝えできなくてすみませんでした……」

「何を言う。スペンサーも済まんな。下手に儂等に連絡すると、この子が危険だと思ってくれたんだろう?」

「はい大旦那様。あの時点でお知らせすると、お嬢様が知らせさせたと曲解して、何をするか判らない状態でしたから…… 後から考えたら、その状況をもお伝えしておけば良かったのかもしれない、と思いもしたのですが」

「いやいや、まあお前達の身の振り方もあったろう。だからしばらく待って欲しい、アダムズも居るから、本当に危険だったらさらってでも保護する、と後になってよこしたのだろう?」


 はい、とスペンサーは大きくうなずきました。


「娘のことだから、きっちり元の使用人達が虐められない様に、ちゃんと退職金を与えた上で解雇し、新しく入れ替えたろうし…… それに、マニュレットや、あの家のことは、お前良く知っているな?」

「はい」


 私はにっこりと笑いました。

 そして胸のロケットを出し、中身をお祖父様に見せました。


「おお、よく守ってきたな。どうする? すぐにでもあの男を追い出すこともできるぞ。何たって、あそこに今住んでいるのは、男爵家の血を一滴も継いでいない者ばかりだ。しかも年々利益を減らす様な!」


 スペンサーはきっちりその辺りも伝えていた様です。


「お母様はちゃんとある程度は私に金貨で残して下さいました。小部屋の方に」

「うんうん、あれはよく使い方を知っていた様だな。おお、今着ている服も、あれの昔着ていた服を仕立て直したものだな」

「皆さん柄が古いとかおっしゃるんですが、着心地が良くてつい」


 そう、一応あの後ナタリーについてきてもらって、「吊るし」の服を何着か購入したのです。

 ですがどうしても、やはりお母様の昔の服の方が、動きやすいというか、肌触りがいいというか。


「そりゃあそうだろう。その辺りですぐ買える様な品と、儂らが娘のために作った服では、普段着だって質が違うというものだ」

「ええ、だからもう数着持ってきて仕立て直したりもしたいのですが、今は、と思うと」

 するとお祖父様とお祖母様は顔を見合わせました。

「……そう言えば、せっかくこっちにやってきたのだから、久しぶりに招待状が来ている夜会に出てやってもいいな」

「そうですわね。気の置けないひとばかりですし」

 くすくす、とお二人は笑い合っています。


 何やら企んでいるかの様に。 

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