第20話 釘を刺す
なんとなく納得だ。慧也もホストだったから、あの彼に似ていると思ったのだ。ホストをやっていた理由も同じで借金だった。
「美波さんは、ホストに入れ込んでたことをご主人にバラされたくないんです。彼女のご主人、お勤め先の偉い人なんでしょ?美波さんと美優さんのご主人がどういう経緯で知り合いなのか、そこまでは俺にもわからないんですけど。」
美波のご主人が化粧品会社の上役の人だと言うのは、美優も聞いている。
それにしても、あの美波がホストに入れ込んでたというのは知らなかった。保育園でみかける彼女は、小奇麗だけれども、遊んでいそうなタイプには思えなかった。
「この店は先輩のお店です。ワケを話して一時的に借りました。俺はまだとても店を持つなんて無理です。後一ヶ月以内に、美優さんを落とせなかったらお返しすることになってました。」
「・・・なるほど、そうだったの。」
美優はゆっくりと、そう呟いた。
その夜、美優は美波に電話をかけた。メッセージの前置きもなくいきなりかけたので驚いたのか、彼女はコール三回で電話を取る。
『どうしたの、美優さん。何かあった?』
『いきなり電話してごめんなさいね。今日、榎本慧也と話してきたの。美波さんがわたしの主人のスパイだったことは、なんとなくわかってたんですけどね、理由がずっとわからなくて。でも、今日慧也くんに聞いてわかった。』
開口一番に一気に捲し立てる。相手に口を挟ませない。
『ちょ、ちょっと・・・な、なんの、はなし??』
『今更そういうオトボケはいらないので。慧也くんに迷惑をかけるのはもうやめて下さい。彼はあなたと縁を切りたいと思ってる。あなたのご主人に、あなたが何をしたか告げられたくなかったら、これ以上彼にもわたしにも必要以上に関わるのはやめて下さい。』
『美優さん、本当に、どうしたの・・・』
歯切れの悪い言葉が返ってくる。いつもの美波らしくない。
もしかしたら、近くに美波のご亭主がいるのかもしれない。
だったらなおさらに好都合だ。
『今、お家の電話にかけたら、きっとご主人が出てくれますよね?』
『やめてっつ!ふざけないで!!』
スマホと家の電話は回線が違うから、両方に電話がかかることは無いわけではない。美優が、スマホと自分の家の回線の両方からかければ済むことだ。
『もう二度と慧也くんにもわたしにも関わらないと約束出来ますね?』
『・・・わかった、わかったから・・・、主人には』
モデルのように凛とした彼女が、情けない声を出している。
美優は電話を切った後に、美波の番号を着信拒否し、メッセージアプリもブロックした。
ふう、と声に出してため息をついた。
次は、遠く離れた夫の番だ。
ストーカー気質の、面倒くさい男。美波からの連絡が行く前に、美優自身から連絡をつけなければ。そして、釘を刺さなければ。
メッセージアプリを起ち上げる。美優と秀紀は滅多にこれを使わないが、新婚の頃は、たくさんやり取りしていた。
”わたしはあなたの不倫の証拠を持っています。今後も今の生活を続けたいのなら、これ以上わたしに干渉するのはやめて下さい。そうでないと、知らせなくてもいい人に知らせることになります。”
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