第4話

 少女モリオンの話しは、カーネリアには信じがたい話しだった。モリオンは村外れの薬草の丘で薬草取りをしていた時に猛禽に襲われ、崖から落ちそうになったところを、ジェイドを乗せたネフライドに助けられたのだと言った。崖から落ちたモリオンの肩をネフライドが足で掴んで薬草の丘の上まで引っ張り上げ、傷を負ったモリオンをジェイドが手当てをしたのだ。そして卵泥棒の乗り物らしきものが薬草の顔に近づくと、ジェイドはモリオンにベヌゥの卵をモリオンに託し、ネフライドと共に卵泥棒を追いかけていったのだ。後から来る鳥使いに卵を渡すようにと、モリオンに言い渡して……。

「ジェイド達が行ってしまうと、私は卵を自分の頭侘袋に卵を入れ、この村の家禽、マダラウズラの背中に乗って家禽の小屋まで来たのです。生まれる可能性のない卵を抱き続けている雌のマダラウズラに、卵を託す為に。私は何とかマダラウズラの生命の無い卵と銀色の卵を捕りかえると、その後傷の痛みに耐えかねて気を失ってしまい、その後しばらく病室で寝るはめになってしまいました」

モリオンの話しをカーネリアは家禽の頭を撫でながら聞いていた。モリオンの知恵と行動力に驚嘆しながら……。

「有難うモリオン、良く話してくれましたね。今度は私が、自分達の事を話しましょう」

今度はカーネリアが、樹海でベヌゥの卵が盗まれてからジェイドが卵泥棒を追っていて行方不明になり、そのジェイドを探していてカーネリア達がイナの丘陵地帯に辿り着いた事を話した。

「油断していたのね。私達は、ベヌゥの卵を持っていく人間なんていないと思っていたけど、それが間違いだったのね。卵泥棒は自分達の手の届くところにあった卵、鳥使い以外の人間でも入れる樹海周辺部に産み落とされていた卵を見つけ、何の目的があるのか知らないけどさらって行った。でも幸いな事に、ジェイドは卵を取り戻したのよ。そしてその卵を貴方に託し、鳥使いを追いかけて行ってしまった……」

カーネリアはモリオンに話しながら自分の意識をモリオンに向けてみる。会う前からカーネリアの意識に現れたこの少女なら、鳥使い同士のように意識を、共有する事が出来るのではと思ったのだ。そしてカーネリアの意識がモリオンの意識に触れると、モリオンの表情が驚愕の表情に変わる。思った通りだ。モリオンの意識はカーネリアの意識と見事につながっていた。

「あなた、イドが使えるの? 私達がやっている事に驚いていないのね」

「ええ、母がよくこのような事をしますからそれよりイドって、何ですか?」

「私が今使った、意識と意識を繋げる力よ」

イドの力を簡単に説明しながら、カーネリアはモリオンの意識に鳥使いの村の様子を送り、モリオンの様子を見守る。モリオンは見た事も無い風景を上手く受け取ったようだ。樹海にある切株の形をした山の上にある村の様子や、その上の空を飛ぶベヌゥの姿を少女が驚きながら意識で感じているのが伝わって来る。カーネリアはさらに樹海に突然現れた卵泥棒と彼らが乗っている乗り物の姿をモリオンの意識に送った。そしてさらに卵泥棒を追いかけて行く、ネフライドに乗ったジェイドの姿を送る。

「卵泥棒って、とんでもない連中みたいですね」

モリオンには、やはりイドの力があった。カーネリアがイドを通じて送った光景を完璧に受け取っている。

「そう、とんでもない連中よ。でもジェイドは卵を連中が取り戻すのに成功し、卵泥棒の追跡を逃れようとしてこの村の前近くに来て崖から落ちた貴方を助けたのね。そして貴方に卵を預けた後、今度は卵泥棒を追いかけて行き、姿を消してしまった」

カーネリアがベヌゥの卵を抱く家禽を見ながら話すのを、モリオンは悲しい表情をしながら真剣に聞いている。カーネリアの悲しみを受け取ったかのように。そして小さな声でぽつりと言う。

「私が崖から落ちなければ、ジェイドはネフライトと樹海に帰れたのかも……」

「貴方のせいじゃない、モリオン。ジェイドは無事に卵を持って帰って来ても、また卵泥棒を追いかけて行ったはず。それに私はジェイドが生きていると信じているのよ」

モリオンの悲しい言葉を聞いたカーネリアは、強い口調でモリオンに言い返す。

「それにね、イドを通じて微かだけどジェイドの意識を感じられるから。もしかしたらイドを使えない状態にあるのかも知れないけど。しかし私達もうかつだった。あの乗り物が空を飛んでいるのを、何度か見付けたのに、こんな事件が起こるまであまり警戒しなかったから。」

カーネリアとモリオンがそんなやりとりを続けていると、突然オリビンが口を開く。

「今度あいつらを見付けたら、必ずとっ捕まえてやる」

オリビンの大声が鳥小屋に響くとそれに合わせるように、マダラウズラ達が大きな鳴き声を上げ、モリオンは慌てて落ち着くように家禽達の意識に呼び掛け、マダラウズラ達を静かにさせる。

「でも今は、この親切な鳥さんに守られている卵の事を考えなくては。私が見るところ、まもなく孵化が始まりそうね」

家禽達が静かになると、カーネリアは家禽に抱かれているベヌゥの卵を見ながらモリオンにこう告げる。家禽の羽根の下の卵は、小刻みに動いている。孵化が近い証拠だ。

「本当ですか? もうすぐ卵の雛に会えるんですね」

モリオンは真剣な表情でカーネリアに聞き返す。

「モリオン、雛が生まれるのを見たいの?」

「はい、とっても」

モリオンは本気で雛が生まれるのを見たいようだ。しかしベヌゥの孵化に立ち会えるのは、鳥使いと鳥使いになる予定の者だけだ。鳥使いの村以外の人間がベヌゥの孵化を見るなど考えられない事だ。でも夕暮れがモリオンを家に帰す口実を作ってくれた。

「解ったモリオン、でも今はとりあえず家に帰ったいいわ。貴方を此処に長居をさせて、彼方の家族に怪しまれたくないから。暗くなるまでに、家に帰らないといけないでしょ。卵の様子は、私達が見守るから」

外が薄暗くなって来ているのにモリオンを小屋に止めていたら、この村の誰かが探しに来るだろう。だから今、モリオンを家に帰しておいた方が良い。そんなカーネリアの考えを、直ぐモリオンに伝わったようだ。モリオンはカーネリアに頷くと床から立ち上がり、鳥使い達を残して小屋から出て行った。これで一安心だ。後は無事に雛が生まれるのを待つだけだ。

 モリオンが鳥小屋から出で行った後、カーネリアはイドを使って他の鳥使いの意識と繋がりながら、ベヌゥの卵を抱く家禽を見詰めた。自分の意識を通して、多くの鳥使い達が盗まれた卵の様子を見る為にだ。家禽の様子を見ながら村を出て今いる鳥小屋に来た経緯を鳥使い達の意識に伝えると、鳥使い達の驚きが伝わって来る。そしてさらにカーネリアが家禽にベヌゥの卵を抱かせた少女モリオンの事を伝えると、鳥使い達の驚きはさらに大きなものとなった。特に現役の鳥使いで長老の一人でもある年配の鳥使いビルカの意識は、モリオンやベヌゥの卵を抱く家禽への興味に満ちている。

[なんと言うことだ。樹海の巨鳥ベヌゥの卵が、樹海の外にある村の家禽に守られているとはなぁ]

長老ビルカがモリオンへの興味を露わにする一方で、多くの鳥使い達の意識は、不安を訴えている。

[早く鳥使いの村に卵を持って帰らないと……ベヌゥの雛が樹海の外で孵化するなど、とんでもない話だ]

多くの鳥使い達は、ベヌゥの卵が自分達の目の届かない場所で孵化するのを恐れていた。ベヌゥの雛は誕生と同時に、他のベヌゥの中から自分のパートナーを選ぶ習性がある。鳥使いはその習性を利用し、鳥使い候補の少年少女をベヌゥの孵化に立ち会わせ、ベヌゥの雛とパートナーの絆を結ばせる。それなのに樹海の外の村の、それも家禽の前で孵化したとなると、雛はベヌゥとも鳥使い候補の少年少女ともパートナーの絆を結べなくなる。

[兎に角早く、卵を村に持ってこられないかい]

切羽詰まった鳥使い達の心の声が、意識を通じてカーネリアに届いて来る。

[村に持って帰れたらいいのだけど、もう遅いみたい。卵にひびが入り始めた]

蹲る家禽の下の卵にひびがあるのを見つけて、カーネリアはもう卵を、樹海の村に持って行かれなくなったのをイドで伝える。卵にひびが入ると、手を触れずに雛が誕生するのを待つしかない。カーネリアとオリビンは、このまま家禽の小屋で雛の誕生を待つ覚悟を決め、樹海にいる鳥使い達の意識に伝える。

[私達は雛が無事に孵るまで、此処で見守っています]

盗まれたベヌゥの卵の孵化が近いのを知り、鳥使い達はかなり動揺していた。なにしろ鳥使いの歴史始まって以来の出来事が、いま起ろうとしているのだから。

[仕方ない。二人に見守ってもらうしかないだろう。ただし、雛が生まれたらすぐ、誰にも見つからないように連れ帰るのだぞ]

イドを通じて伝わった長老ビルカの指示を受け取り、カーネリアとオリビンは頷く。そう、盗まれた卵から誕生する雛をちゃんと成長させるためには、鳥使いの村に雛を連れて来る事が何よりも必要だ。ベヌゥの卵を守ってくれたとしても、この小屋にいる家禽はベヌゥの雛を育てられないだろうから。樹海の村に連れ帰り、パートナーになる鳥使い候補の少年少女と合わせるのが得策だ。

[頼んだぞ、カーネリア、オリビン]

カーネリア達にそう言い残すと、長老ビルカの無意識は、他の鳥使い達の意識と共にカーネリアから離れて行く。これから先は、カーネリア達の判断に任されたのだ。とは言っても、イドの繋がりが完全に切れたわけではない。カーネリア達とほかの鳥使いとの間には弱いながらもイドの力が働いといて、カーネリア達やひびが入り始めたベヌゥの卵を見守っているのだ。カーネリアは樹海の村にいる鳥使い達や、何時の間にか小屋の傍まで来ているブルージョン達の存在を感じながら、家禽の下で孵化しようとする卵を見守り続けた。

カーネリアとオリビンが小屋の床に座って見守っている前で、銀色の卵のひびは少しずつ広がって行き、やがてその中から雛の嘴が覗くようになっていく。卵の中の雛が懸命に外の世界へ生れ出ようとしているのだ。雛が動くたびに卵の裂け目は大きくなって雛の姿が露わになっていき、やがて鳥使い達が見守る前で卵から、銀色の羽毛に覆われた雛が誕生した。

「生まれた!」

われた卵から転がり出た雛を見て、カーネリアは思わず静寂を破って喜びの声を上げ、オリビンに顔を顰められた。

「誰にも見付からないように雛をここから連れ出さないと。モリオンには後でイドを使って知らせればいい」

小声で話すオリビンに頷くとカーネリアは、さっそく雛を保護すべく、ベヌゥの雛と家禽が居る柵に近づいていく。生まれたてのベヌゥのパートナーになれるのは、まだ自分のパートナーのいない人間やベヌゥだけだ。既にパートナーがいる鳥使いやベヌゥは、生まれたばかりの雛のハートナーにはなれない。雛を抱き上げても大丈夫だ。雛を連れ出し、誰の目にも触れないようにして鳥使いの村に連れ帰ったら、鳥使いのベヌゥになれるかもしれない。雛が村に到着するまでに、鳥使い候補たちをベヌゥの離着陸場に集めてくれさえすればだが。しかしカーネリアが家禽の元から雛を抱き上げようとしたとき、モリオンが鳥小屋に駆け込んできた。

 鳥小屋に入って来たモリオンは、ゆったりとした上着を羽織って、自分の頭多袋を肩に掛けた姿で入って来た。イドでモリオンの意識を探ると、夜明けまで雛と一緒に小屋に籠っていても、村人には日課である朝の薬草取りをしていたと誤魔化せるように上着と頭侘袋をもってきたらしい。モリオンは小屋にはいるとカーネリア達には目も暮れずに雛いる囲い前に行くと、暫く銀色に輝く雛を見詰めた後、家禽が柵の下に放り出したベヌゥの卵の破片を拾い、小屋の片隅に置かれた古い寝藁の中に押し込む。藁に押し込まれた卵の殻が粉々に崩れて見えなくなると、モリオンは家禽の囲いの柵の扉を開け、策の中へと入って行く。

「どうした、モリオン」

ベヌゥの雛に近づくモリオンを見て、鳥使い達は顔を引きつらせた。このままでは鳥使い達とは縁の無い村の少女が、ベヌゥの雛のパートナーになってしまう。とんでもない事が起ころうとしていた。

「モリオン、待て!」

オリビンが囲いに入ろうとするモリオンの腕を掴み、囲いから離そうとしたものの、モリオンは少女らしからぬ力でオリビンの手を跳ね除け、囲いに入ると扉を閉めてしまった。

「ベヌゥの雛に触れられるのは、鳥使いの一族に生まれた者だけだ。モリオン!」

オリビンは大声を上げ、モリオンの行動を阻止しようとする。これ以上、静かにはしていられなかったが、遅すぎたようだ。鳥使いの声に振り向いたモリオンは、目に涙を浮かべながら、ベヌゥの雛を抱いて敷いた。こうなれば鳥使い達には、これ以出来る事は無い。柵から身を乗り出し、家禽と雛、そしてモリオンを見る以外には。

「カーネリア、オリビン……」

雛を抱えたモリオンが小さな声で自分達に呼び掛けるのを鳥使い達は、ただただ驚きを持って見る。こともあろうに鳥使いの一族でない少女が、生まれたばかりのベヌゥの雛を抱き上げてしまったのだ。しかもモリオンに抱き上げられた雛は、羽毛から虹色の光を放ち始める。これはベヌゥの雛がパートナーを受け入れる時に放つ光だ。鳥使いの一族以外の人間がベヌゥのパートナーに選ばれると言う、鳥使い達が恐れていた事が起こってしまった。もうこうなれば、パートナーとなった人間とベヌゥの雛を黙って見るしかない。しかしカーネリアは、虹色の光に包まれる雛と少女の様子をみているうちに、ある考えを持つようになっていく。

「オリビン、もしかしたらこれでよいのかもしれない。あの子のために……。あの子がモリオンを選んだのよ。間違い無いわ」

自分の考えをオリビンに話しながら、カーネリアは、モリオンに抱かれた雛を指差す。

「ほら、見て。あの雛の羽毛の色を。あの娘と雛が、パートナーになったのよ、確かにね。この光がなによりの証拠よ」

カーネリアは、厳かに言う。

「それ、どういうことですか?」

光に包まれた雛を抱きながら、自分の身になにがおこったのかも知らないモリオンが、カーネリアに尋ねてくる。

「貴方はこの雛と、一生を共にする事になったのよ」

「えっ、どうして……」

カーネリアの言葉にモリオンは絶句する。いきなり一生大きな銀色の鳥共に暮らすと聞いて、鳥嫌いな村に生まれたモリオンがびっくりするのも仕方ない。しかし生まれたての雛が虹の光を発する時は、いずれは自分の背中に乗り、生涯を共のする人間と出会った時なのだ。

「さぁ早く、柵から出てきて。話したい事があるから」

モリオンはカーネリアに促され、雛を抱いたまま片手で柵を開けて出で来ると、雛を床にそっと置いてから柵の前に座り込む。カーネリアは銀色の雛と一緒のモリオンを見て、何時の間にか、自分が今のパートナーと出会った時のことを思い出していた。


もうあれからどれだけの月日が経ったのだろうか。それはカーネリアがまだ思春期に入ったばかりの少女の時のことだった。他の少年少女達と一緒に、ベヌゥの孵化に立ち会ったのは。

少年少女達がベヌゥの巣を真似て作られた人工の巣の前に立つと、十数個ものベヌゥの卵が、巣に敷き詰められた落ち葉の上で、静かに孵化を待っていた。みんな親から見捨てられ、鳥使い達によって村の孵化場に運ばれてきた卵だ。鳥使いの村のある山の中腹にある洞窟の奥に作られた孵化場は、じめじめして蒸し暑かった。しかも薄暗い。鳥使い達候補の少年少女達は、光を放つ石の明かりの中で、卵の孵化を待っていた。

きちんと並べられた卵は熱を帯びた枯れ葉に温められ、みんな孵化を前にしてごそごそ動いている。中にはもう殻にひびが入っている卵も……。カーネリアはひたすら雛の誕生を待つ。一緒に居る少年少女達もみな同じだった。みんなこれから始まる雛との暮らしが待ち遠しかったのだ。今ここでで、一生涯のパートナーが決まるのだから。

じっと卵を見詰めるカーネリアの傍で、雛達が次々と誕生し、すぐに子供達に抱き上げられていく。パートナーが決まったのだ。そんな中でカーネリアは、周囲を気にせず卵を見詰め続ける。もうそろそろ、生まれてもいいはずだ。そして……

「生まれた!」

懸命に殻を破り、生まれ出てきた雛にカーネリアの視線が行く。そして雛と目が合うと同時に、カーネリアは雛を抱き上げていた。

[ヨロシク……]

雛の体躯から虹の光が走り、若いカーネリアを包む。その瞬間、生まれたばかりの雛がカーネリアに呼びかけたのだった。他者には聞けない心の声で。

[ヨロシク、ヨロシク、ヨロシク……]

雛の声は、カーネリアの中で緩やかに木霊した。カーネリアが、その声に答えるまで。 

「よろしく!」

この瞬間、新しい人と鳥とのつながりが生まれたのだった。


 あの時と同じだ、今起きていることは。雛を抱くモリオンの姿に、カーネリアは過の自分を重ねた。しかしモリオンの立場は、ブルージョンの孵化に立ち会った時のカーネリアとは全く違っている。カーネリアは将来の鳥使いとして、樹海の村で生まれ育っていた。それに対してモリオンは、鳥と何の関係のない村で生まれ、今まで巨鳥ベヌゥの存在すら知らずに成長している。ところが運命は、この少女に鳥使いになる巡り合せ、密かに用意していたのだ。はたしてこれから、この鳥と人とに何が起こり、どうなってゆくのだろうか? カーネリアは少しの期待と共に、大きな不安も感じていた。彼らが、一人前のベヌゥと鳥使いになるための試練を思って……。

「カーネリア、オリビン……私……どうかしたみたい? こんな事をして。いじめるつもりじゃないのに」

雛の横に座り込んだモリオンはかなり動揺しているようだ。鳥使い達に懸命に言い訳をしている。

「落ち着いて、モリオン。あなたは何も間違ったことをしていないわ」

カーネリアはモリオンを落ち着かそうと、モリオンの傍にオリビンと共に腰を下ろしてから話し掛けるが、モリオンは余計に混乱したようだ。突然、思わぬ言葉を口にする。

「いじめているんじゃない! この子には私が必要なのよ! この子には……」

この子には自分が必要とモリオンは口走った。そうこれから先、モリオンが抱いている雛はモリオンを必要として生きて行かなければならないのだ。モリオンがパートナーとなったのだから。モリオンはこれから自分が抱いている銀色の雛と暮らす事を、既に感じとっているのだろう。

「そうよ、モリオン。この子にはあなたが必要なのよ。ほら、この子をよく見て!」

カーネリアは、真っ直ぐに雛を見据えながら、モリオンに向かって話し続ける。カーネリアがじっと雛を見ていると、モリオンも銀色の雛に目を移した。

「さあ、よく見て、分かった」

「カーネリア……」

「これはね、モリオン。あなたこの子のパートナーに選ばれた証しなのよ。あなたは鳥使いにえらばれたのよ」

愕くモリオンにカーネリアはモリオンの疑問に答えるべく話し出す。

「ベヌゥはねえ、モリオン、生まれるとすぐに行動を共にするパートナーを選ぶの。自然のベヌゥだと、雛は親や先に生まれた兄弟、あるいは他の成鳥をパートナーに選ぶわ。しかし私達と暮らすベヌゥは、人間をパートナーにするの。そしてベヌゥのパートナーの人間は一生涯を、鳥使いとして働くの」

「一生涯を!」

カーネリアの意識に、モリオンが感じた衝撃が伝わって来る。モリオンは自分が故郷を離れねばならないのを感じている。

「私……これからどうしたらいいのかしら」

モリオンは不安にかられて鳥使い達に訊く。

「わからない。でも、鳥使いの修練を受けなければならないのは確かね」

これは鳥使い達にとっても、大変なことだったのだ。まさか、彼ら一族以外の人間が鳥使いに選ばれるなどとは、カーネリアもオリビンも思ってはいなかった。しかし確かにモリオンは、ベヌゥの雛からパートナーに選ばれたのだ。そしてこの事は、鳥使いの一族でないモリオンが、鳥使いの村に住むことを意味している。はたしてこの娘は、うまく鳥使いになれるのだろうか? カーネリアは暫し考えた。そして……。

「モリオン」

この娘には本当のことを伝えよう。カーネリアは心を決めた。

ベヌゥと接触したモリオンが、これからも何も知らないままでいられるとは、とても思えないのだ。

「これから私の言うことを、しっかりと聞いてね。あなたにとっては、とても大事なのだから……」

カーネリアは、モリオンの目を真っ直ぐ見据えながら語りだす。


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