史上初、人魚族のエロビデオを撮った男

ヒダカカケル

史上初、人魚族のエロビデオを撮った男

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 真っ暗な部屋の中、あかあかと明るい画面の中にはある光景が映し出されている。

 舞台は、誰しも。男なら誰しもが一度か二度は見たことのある天窓から日が差す屋内プール。

 “あのプール”って言えば分かってくれるだろうよ。


 そこに、主役となる泳いでいる女の子がいる。

 優雅に――――いや、優雅どころじゃないよ。

 ガチだよこれ速い速い速すぎる、追いきれてないよ追いきれてない。

 端から端までほんの数秒しかかかってないでやんの。


 そして上がってきたのは、ゆるく巻いた栗毛の美少女。

 なんとも目の毒な豊満極まるおっぱいには男の夢が詰まっているし、きゅっと締まったウエストもたまらんだろうね。


 そしてプールサイドに腰かけた彼女にインタビューが始まるわけだ。

 だいたいの男はトバすけど、もう、この作品ではそうはならんだろうさ。


「――――魚住うおずみあゆ、十九歳です♡ バストは93cmで、Gカップです♡ 特技は……えっと、遠泳です。主に太平洋から南インド洋を少々……」


 洋、じゃねぇんだよ。

 フザけんなよ、和モノ洋モノとかじゃないよ、ガチの“洋”の話してんじゃないよアダビデの冒頭で。


「好きなタイプは……優しい人です。あ、港に茶葉の箱とか捨てない人がいいです♡」


 歴史ネタ挟まなくていいんだよ。

 しかもまた海ネタだし。芸風とか出さなくていいから。

 これはね、出して・・・もらうための映像なんだからさ。


 挨拶が遅れたが、俺の職業は監督だ。

 さっきちょっと言っちゃったけど、男性諸氏なら必ず世話になるたぐいの映像の監督で――――いちおう、ベテランなんだと思う。

 おかげさまでちょっとしたハズレ地のタワマンのそこそこの高層階には住めてるしな。


 で、そんな俺に舞い込んできたオファーというのが。


 “人魚を女優にしてAVを撮ろう”という話なのだ、これが。


 簡単に背景を説明すれば、去年ほどか。

 正真正銘の“人魚”という種族が発見され大騒ぎになり、おおかたの人々が思っていたよりあっさりと融和、なごやかな関係性を人類との間に築くことができた、まではいい。

 その中にどうもおかしな人魚がいて、なんと驚くべきことに、AV女優になりたい、と言ってきたのだ。

 実際会ってみると確かにかわいいしスタイルも抜群、しかしその下半身は当然――――よく脂の乗った。

 うん、とてもよく脂の乗った、艶めくような魚のそれなのだ。

 別の意味でおいしそうというか。

 もし彼女の上に刺身を盛り付けたらそれは女体盛りという呼び方であってるのか、とか。

 ハシを滑らせて「おおっと、こんなところにおいしそうな赤身が……」なんてオヤジギャグを言ったらのちのち社会問題になって燃やされたりしねぇか、とか。

 いろいろ考えてしまいそうなほど不安な気持ちに駆られるのは、俺がまだ未熟なせいなのかもしれん。


 そして俺が今、真っ暗な部屋で。

 どれだけ飲んでも全然酔えない安ウィスキーを流し込みながら見つめているのが、プレスされてきた作品サンプルというワケだ。

 現在時刻、夜十時。

 零時には配信サイトでリリースされる予定だ。

 完全新作5000円。強気な価格設定は、こいつが人類史上初の“人魚モノ”だからか。

 だが、この土壇場にいたってまだぬぐえない気持ちがある。


 ――――これ、売れるのか?


 ともかく、俺の不安を打ち消してやろうと思って、あんた、少し話を聞いてくれ。

 話は……撮影の時に、遡るんだ。




*****


「あゆちゃん、緊張してる?」

「え、へへ……はい、少し……」


 妙に聞きごたえのあるインタビューを終えて、とうとうカラミだ。

 某国の原潜に見つかりかけただとか、マリアナ海溝にたまに浮上して姿を見せる〇×※▽だとかの話は流石にカットして、ともかく、ともかくここまでは漕ぎつけた。


 プールサイドでイチャつくようにカラみ始めるこいつ。

 見た目こそどうしようもない肌黒の金髪チャラチャラ野郎だがとにかく人懐っこくてナイスガイ、性格良し。

 俺と組んで仕事をする事が多い男優の、マルコス吉田よしだ

 年間出演本数五百本、相手がたとえ三桁体重だろうがゴリ腹筋のアマゾネスじみた外国人だろうが仕事をこなすプロ中のプロだ。

 この類を見ない企画に踏み切ろうと思ったのも、こいつが手を挙げてくれたというのが大きい。


 今、場面は冒頭のイチャイチャ前戯シーン。

 プールサイドに腰かける女優、芸名“魚住あゆ”ちゃんを背後から、そのド迫力のマーメイドバストを揉みほぐしながらの一幕。


 うむ、確かに素晴らしいおっぱいだ。

 撮りつくした俺でさえ羨ましいほどに柔らかそうなサイズ、ここまではいい。

 やがて貝殻ビキニを外して、ゆっくりと唇を寄せてイタズラするように吉田が更に攻める。


「きゃんっ……く、くすぐったいですっ……もぉ……♡」

「だってさぁ、こんなおっぱい……ちゅーちゅーしたくなっちゃうじゃん?」


 うん、流石。

 世間ズレしてない人魚の女の子を手籠めにする感がちゃんと出ている。


「やだぁ……そんなに吸っても、海のミルク出ませんよぉ♡」


 “海の”いらねぇだろ、今なんつったお前。

 意味が違っちゃうんだよ、噴き出しそうになってんだよ、カメラの河井くんがさ。

 今さ、絶対画面ブレたろ?


「へへ、残念♪ あゆちゃんの海のミルク、飲みたかったなぁ、ナマで♡」

「やだ、もう……あゆの海のミルク、ナマでなんてだめですっ……♡」


 やめろよ黙れよ連呼するなよ。

 加熱すればオーケーなのか? 生はダメなのか?

 河井くんがプルプルしてんだよ、漏れてんだよ、笑いをこらえて“ンフッ”ってなってる声がさ。

 吉田さ、お前なんで平気なの?

 なんでそんな平然とエロれてんの?



*****


 そして次の場面、プールサイドにあるマットに横たえさせたあゆちゃんにいよいよエッチな責めを施すわけだけどね。


 ……いや、デケェよ!

 頭から尾っぽの先まで合わせたら2mはとっくに超えてんだよ。

 朝の豊州市場の光景なのよ、これ。

 帽子なんかカブってくるんじゃなかった。

 競りに参加してるみたいな気分になってきちまったじゃねぇかよ、オイ。


「ふふっ……えっちな気分になってきちゃいました……♡ 私、食べられちゃうんですね……♡」


 だからやめろよお前マジで、そういう――――


「ほら、あゆちゃん。自分で広げてみせて? あゆちゃんの、エッチな場所♪」

「やぁん……♡ もぉ、恥ずかしいですよぅ……」


 くぱぁ、と恥ずかしがりながら指で広げてみせる。

 それはまぁいいけど、場所がさ。

 魚部分に少し入り込んだ、人間でいうところの太ももの付け根、外側にぱくぱくと開いて見せる。


 なんていうかあのね、エラなのよ。

 鰓蓋えらぶたの部分をね、こう、逆さのチョキでさ。


「どこ見られてるか分かる?」

「やっ……恥ずかしくて、言えませんっ……♡」

「言ってみてよ、ほら。もっと恥ずかしい事するんだし平気だって♪」

「……♡ え、エラ……の、中……奥まで見られちゃってます……♡」


 まぁ、わかんなくはないのよ。

 体の粘膜の中見られてるワケだし、恥ずかしいのかな、とは思うさ、そりゃ。


「あゆちゃんのエラの中、真っ赤に充血してんね。こんなにヒクヒクして酸素取り込んで、期待してんだ? やらしーね♪」

「はい……ひゃあぁっ!? え、鰓蓋っ……そんな……やめ、てぇ♡」

「こんなに鰓蓋、固くコリコリさせちゃって……エッチだね」


 吉田お前すごいよ、やっぱり。

 なんで合わせていけるんだよ、それ。

 普通にエロくなってるよ、エッチだよちゃんと。

 でもな、正直グロいのよ、エラの内側って。

 いや人間のアレもわりとグロいもんだけどさ…………。


「だめぇっ♡ 鰓蓋クリクリしないでぇっ♡ やめてぇぇ……っ」


 性感帯なのか?

 マーメイド的にはそれ、Gスポットとかポルチオとかそういうアレなのか?

 わかんねぇよ、どういう感情で見ればいいんだよ。


 ……ん、何だ、アシスタントの的場くんが耳打ちしてきて……。

 “エラの中、モザイク修正入れたほういいんでしょうか”じゃねぇんだよ。

 俺が知りてぇんだよ!


「らめっ♡ もぉ、やぁっ……出ちゃうっ……出ちゃうぅっ……♡」


 やがて、どこからかは想像に任せるが、あゆちゃんはまさしくまな板の上の鯉のようにイってしまい――――潮を吹いた、んだと思う。


「あーあ……潮吹いちゃうぐらい気持ちよかったんだ? ほら、あんなトコまで飛んでるよ」

「いやぁ……♡ もぅ、許してください……♡」


 イヤなのはこっちだよ。

 あのさ、スンっっっっっゲェ磯の匂いがすんのよ。

 何ここ、浜?

 潮っていうか、エッチな匂いっていうか、潮風の匂いがやばいの。

 そういえば母ちゃん元気かなぁ。

 母ちゃんの煮魚食いてぇなぁ、夏は帰ろう。

 いやそんな場合じゃねぇよ。気を取り直せ、今はとにかく撮影だ、やり切れ、一個のプロとして。 


「あゆちゃん感じやすいんだね。ほら、こんなにおいしそうな汁……」

「やだもぉ……見せないでぇ……♡」


 ……しかしあれさ、思い出したことがあってね。

 昔の話でさ、“ハマグリ女房”ってのがあったじゃん。

 あの汁さ……いいダシ、取れんじゃねぇかな、って……。



*****


 さて、色々あったが本番の部分だ。

 ちなみに人魚、海生哺乳類や一部の魚類みたいないわゆる“交尾”はしないんだそうだ。

 だから、まぁ、相当するのはコレなんだよね。


「んっ、ぃっ……んぅぅっ……出ちゃうっ……♡ 出ちゃいます……あゆの、卵さん出てくるのぉ……♡」


 まぁ、今のところ問題はない。

 こんな美女の人魚がね、羞恥心を煽られながらカメラの前で産卵する光景、確かに見ようと思えばエロく見られはするけど。

 思ってたようなツブツブ感はなくて、どちらかといえばウミガメっぽいのは絵面的には救いだ。

 集合恐怖症にはツラい映像にはならなそうだから、ぽんぽんと出てくるピンポン玉ほどのそれはちゃんとエッチだからいい。


「は、恥ずかしいですぅ……♡ 産卵、見ちゃだめぇぇ♡」

「ふふふ、あゆちゃんの産卵でみんなシコシコするの想像しなよ。 みんなさ、あゆちゃんのタマゴにぶっかけてはらませたくてたまんなくなっちゃうね?」


 なるかなぁ……。


「やぁん♡ だめぇ♡ 今日は、危険日だからぁ……卵にかけられたら、できちゃいます♡」


 あるの?

 卵に危険日とか安全日とかあるの?

 かけていい日とダメな日があるの?


「へへっ……それじゃ、いただきまぁす♪ あゆちゃんの卵、妊娠させちゃおっかな♡」

「あぁんっ♡ もぉ、ダメだって言ってるのにぃ♡」


 吉田ぁ。

 お前すごいけど、吉田。

 頼むから吉田、ちょっとだけ声落としてくれってば。

 お前がプロなのは分かったから、ちょっと考えをまとめさせてくれよ。

 なんでお前そんなに人魚のツボ分かるんだよ。

 完全にメスの顔してるよあゆちゃん、ちゃんとエロビデオが成立してるよ、ちゃんと。


 吉田ぁ……。



*****


 とまぁ、こんな具合に撮影は終わったわけだ。

 打ち上げに行く気も起きないぐらい疲れたけど、吉田はさっさと次の現場に向かいやがった。

 確かヤツの次の仕事、あれか。

 泥酔したお堅いお局OLを介抱するフリしてチャラ男が――――ってヤツだったか。

 あいつシャワー浴びて落ちるのかなぁ、体に染みついた磯の匂い……。


 ……あらためてグラスを傾け、事後場面を映し出す画面を見ても、まるで酔いが回る気配がない。

 不安で不安で仕方がない。

 寝酒にすらなってくれねぇんだ、これが。


 と――――失敬、どこからか電話だ。

 何何……って、当の女優本人、あゆちゃんからだ。

 悪いが、出させてもらうぞ。


「あっ……もしもし……監督さんですか?」


 電話の先の彼女の声は、ずいぶんと心配そうだ。

 それもそのはず、これから彼女のあられもない……あられもない? んん……まぁ姿が、世界に向けて放たれるワケだ。

 それで眠れず、ついこちらに電話をしてみた、というところだろうか。


「いえ、その……やっぱりイヤ、とかじゃないんです。……私……ちゃんと、えっちな女の子に、見えてたかな、って……」


 更に話は続く。


「わたし、ドン臭くて……いつも海流に呑まれちゃったり、よそ見してて潜水艦にぶつかっちゃったりして、海底ケーブルにヒレ引っ掛けたりとかして……そんな私でも、何か変われるかな、って……でも、私なんかで本当にみんな、喜んでくれるかなって……」


 ――――大丈夫。きっと売れるよ、あゆちゃん。


「えっ……?」


 ――――大丈夫、俺がついてる。もしもダメだったら、次だ。次を撮ろう。何せあゆちゃんは人魚史上初のAV女優なんだから。


「……はい」


 そう、俺のすべき事は分かっているはずだ。

 こんな健気なコに、暗い声なんか出させちゃいけないんだ。

 大丈夫、きっと売れる。売れるんだ、絶対に。

 ひとまずリリース直後、とにかくSNSで宣伝だ。

 今の時代は、ただ撮るだけじゃなく俺にだってできる事はたくさんある。


 絶対に負けんぞ、ダテにエロビデオ撮ってきてねぇんだよ、こっちは!







*****





 そして、めちゃくちゃ売れた。






*****


 ――――あれから一年。

 あのマーメイドビデオ、“現役人魚AV女優誕生! 魚住あゆ、危険日ぶっかけ孕ませ懇願”は爆売れした。

 今や売れっ子になった彼女を見ると誇らしい反面、どこか寂しくもあるのが事実だ。

 売れたが――――もっと更に何かを引き出せたんじゃないか、と。


 もうひとつ、世界に変化があった。

 なんと――――今度は人馬一体の種族、ケンタウロス族が発見されたのだ。

 俺がなんでこんな唐突な事を言うかというと、見ての通り。


「わ、私の名は……アルニャト、と言う……」


 ――――本名でいいのか?


「ま、間違えた! 芦名あしなふみか、です。その……折り入って、お願いが……」


 面接と打ち合わせだが、その相手は見ての通り。

 馬の半身を持ち、その首のあるべき部分からなんともイカすパツキンのチャンネーが生えているのだ。

 いかにも気位の高そうな顔つきと、馬部分の芦毛あしげが何とも涼し気で。

 これがAV女優希望者、なんてのはとても信じられまい。


「ぜ、是非……してみたい事が、あって、だな……」


 調べてみたが、ケンタウロスは交尾を行う哺乳類だ。

 つまり、ナニとナニを睦ませ合うきちんとした行為が撮れる。

 人魚のときのような困惑はないだろうから、今回はドンと構えていられる。

 そう、思っていたのに。


「き……騎乗位、というのを……してみたい……っ」


 ――――んんっ。


「そのな……男の上に、はしたなく、跨って……自分から腰を振って、淫らに……だな……」


 真っ赤になりながらぽつぽつと呟く彼女を横目に、俺は手元の書類に目を落とす。

 芦名ふみか、体高262cm。体重――――438キログラム。


「私も、あんな風に……求めてみたくて……」


 438キロ。438キロの騎乗位に耐えられる男優を探せと?

 438キロの杭打ちピストンに耐えられる人類を見つけてこいと?


 もう、やだ。





 お願いですから、人類同士のAVを撮らせてください。














※ちなみに超がんばって見つけた。










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