エピローグ
真希が電光掲示板の得点を睨んでいる。
最終第五セット、14対11でアメリカに日本が負けている。
アメリカがマッチポイントを迎えたところで、日本がタイムを取った。
「まさかもう諦めた人はこの中にはいないよね」
日本のキャプテン、不動さんが全員を見てから言った。
「当たり前ですよ」
莉菜が即答する。
「真希ちゃんは」
不動さんが真希を見つめた。
「諦めたように見えますか」
「いや、全然」
真希はボトルの水を一口飲んだ。
「いつも言ってるでしょ。私がこのチームを勝たせるって」
私は観客席から真希を見ながら祈っていた。
私の目の前で真希がオリンピックの金メダルを懸け戦っている。さらにすっかり角が取れ丸くなった莉菜と、不動さんもいる。
真希が東王大学に進学したら莉菜がいたらしい。なんやかんやあってすっかり仲直りしたと真希が嬉しそうに報告してくれたときのことは忘れられない。それからたまに三人で遊んだりもした。また三人一緒にいられるときが来るとは思ってなかった私は、本当に幸せを感じていた。
不動さんは数年前に、真希とバレーをしたい一心で、必死に練習しバレー界に復帰した。ベテランの意地を見せ、再び日本代表キャプテンに返り咲いた。
私は県外の大学に進学した。医者を志していたが、真希を見ていてスポーツ医学に興味を持った。私はその道に進み、スポーツドクターとして日本代表の試合に同行している。
真希は大学で莉菜とともに輝かしい成績を次々打ち立て、卒業後は実業団に入り腕を磨き、日本のエースとなった。
その真希が、真希のチームが負けようとしている。
私は祈った。真希が負けるところは見たくない。真希が負けて悔し涙を流す姿を見たくない。そんな真希を見るのは、最初で最後のインターハイ一回戦だけでいい。
勝ったよと、嬉しそうに報告する真希が見たい。勝って真希の笑顔が見たい。
タイムが終わり真希たちはコートに戻った。
不動さんが、莉菜が、真希が立て続けに得点を重ねて、同点に持ち込む。
世界一までもう少し。
私はさらに力を込めて祈った。
アメリカがタイムを取る。
高校生の頃から真希が世界一になることに疑いを持ったことはない。それでも現実にもう少しでそれに手が届きそうとなるとやはり緊張する。
試合が再開される。
真希が決め、残り一点。
真希、勝って。
そして、最後の一本、真希が決めた。
私はその場で飛び跳ね、気がつけば涙が流れていた。本当に、本当に、勝った! 私が信じた真希が勝った! 私の大事な、大好きな人が世界一だ!
「奈緒!」
真希が私に向かって大きくVサインを作っていた。
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