第34話⁂葵の行方⁈①⁂


 


 高名な医師夏美は幼少期に、悪い事と知りながら父の愛人宅に度々遊びに行っていた。

 それは、弟辰也が多動で手が掛かる為、親に構って貰えない寂しさと、学校でも重大な問題を抱えていたからだ。

 お嬢様育ちで尚且つ美人で優秀な夏美は、プライドの高い一部の生徒から目の敵にされ陰湿な無視をされていた。


 目の上のたん瘤的存在の夏美を、快く思わかった一部の生徒達が権力を握っていたので、給食時間も輪に入れて貰えず、一人で食べる事が多かった。


 両親に悩みを打ち明けたくても父は仕事で帰宅が遅いし、母は母でお稽古事や弟辰也の事で精一杯なので、自分の事で心配かける事は出来ないと耐えていた。


 そんな時に、母には悪いと思いながらも、愛人宅の葵とは妙に気が合い、こんなに小さいのに、悩み事を打ち明けると、それなりの回答が帰って来る。


「お姉ちゃん学校で無視されているの。どうしたら良い?」


「大丈夫だよ!僕のおうちに来ればいいんだよ!それと……?僕が退治してヤルよ!」

 だから……どんなに辛くても葵に話す事で我慢出来た。辛抱できた。


 愛する家族にとんでもない秘密を抱えて、心苦しいばかりの夏美なのだが、それ以上に大切な存在になった葵。


 同じ兄弟でも辰也とは大違いで、読書好き?と言ってもまだ5歳なので絵本好きの葵だが……もう字も読めるので話が合う。

 性格も趣味も一致する大切な存在となった。


 だが?最近父と愛人宅に出掛ける時に限って………何か?異変を感じる。

誰かに………付けられている?


 跡を……果敢に付け狙う人影が…………?


 ◆▽◆▽◆▽◆▽

 実は…夏美の母光代は、大切に育てられたお嬢様なので、俗世にはとんと疎い女性で、人を疑う等とんでもない話。

 

 父の浩二は、この何とものんびりとした妻光代を、純粋培養された清らかな童女が、そのまんま大人になったような女と思って完全に油断しきっている。


 今までも都合のいい出まかせで、内緒にしている女性付き合いやカジノでの散財などの悪事の数々も、難なくクリア出来ているので、今回の愛人の事も逃れる事は容易いと、完全に高をくくっている。


 悪い夫なのだが、男前で副社長ともなれば放っておいても、女性から近づいて来るのも有るのだが、それでも…誰のおかげで今の地位に付けたのかという事だ。

完全に妻を舐め切っている。


 こんな事がいつまでも続く訳が無いのだが、好き勝手な出まかせで妻光代の口封じをして愛人宅に通っている。


 確かに妻は習い事を沢山しているので、少々の事は誤魔化しが効くのだが、実は…嫉妬深さは天下一品。


 愛人の事は薄々気付いている。


 ◆▽◆▽◆▽◆▽


 所で、高名な医師夏美と葵、更には椿辰也が同一人物とは一体何処から出てきた話なのか?


「実際に夏美の跡を付けて分かったが、弟辰也とそっくりでビックリしたヨ!」


「本当にそんな事ってあるのね?ましてや愛人の子とも、そっくりって事もあるのね?」

 それは奇跡的な事に、この3人は非常によく似ている。

 夏美は女性の割に身長が高いのもあって、化粧でもすれば三つ子と見間違うほどである。

「それじゃ四月某日この〔OUGI探偵事務所〕に現れた、最近巷を賑わせている『オオカミ怪人』を何としても捕まえて欲しいとの依頼をして来た麗奈と夏美が同一人物で、男性の方が椿辰也って事なのね?」


「多分そうだと思うのだけど?」


「だけど、直樹あなたが言っていたじゃない?麗奈は20年前の障害者交流会に、知的障害児の弟の付き添いで母親と一緒に来ていた性同一障害の、本当の性別は男性だって、それはどう言い訳が付くのよ?それから年齢だって麗奈は私達と一緒の筈。姉の夏美は5歳年上よ」


「でも?確かに夫の方は椿辰也と言っていたからな~?」


「ライオンの着ぐるみ姿の葵を〔オオカミ怪人〕と勘違いをして大騒ぎになって居たが、葵と高名な医師夏美、更には椿辰也を利用して何か恐ろしい犯罪を目論んでいるのじゃないの?だって…この3人は大企業の御曹司と御令嬢だから………金銭目的での誘拐という事も考えられる。実際障害児施設〔レインボー🌈〕は柳田組が裏で牛耳っているから何でも有りよ。それから………スナップ写真に写っていた辰也と葵が、同一人物だと私たちは思っていたけど………実際は本妻の子供辰也と愛人の子供葵2人いたのに、1人2役でどちらか1人がとっくの昔に消されているって事かもしれない。辰也はあの4月某日〔オオカミ怪人〕を探して欲しいと依頼して来たから、生きているという事は分かった。だが、この依頼は夏美の強い希望かもしれない……あれだけ葵と仲が良かったのだから………葵を懸命に捜しているが、どれだけ探しても葵が見付からないって事は、葵は消されてしまったのではと思い………?それで夏美は血眼になって葵〔オオカミ怪人〕探しを辰也に頼んだのか?それとも……辰也を装って………あの日現れた辰也は本当は、夏美だったのかもしれない………どうしてそんな考えをするかと言うと………実は…葵の母親も奥多摩町の自宅から姿が消えたのよね?ひょっとして嫉妬に狂った……夏美と辰也の母である本妻さんが何か?関わっているのかも知れない?・・・もう一度根本から調べる必要が有るわね?」


「それから…葵が怪我を隠すために着ぐるみを着ていただけなのに、何故障害児交流会に参加できたのさ?」


「あの障害児施設〔レインボー🌈〕が怪しいのよね~?それから………ああああ?辰也が多動症と言っていたけど………ひょっとして何らかの障害を抱えているのかも知れないわね?だから障害児施設には辰也が、入所していた可能性だって有るわね?」








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