蜘蛛の伝言

あれは逢魔時おうまがときだったのか

山入端やまのはに日が沈み

夜に移行する前の明るみに

主のいない大きな蜘蛛の巣をみつけた


通り雨が残した雨粒の

消え入りそうな儚さを眺めていると

予告もなく一陣の風が吹いてきた


蜘蛛の巣が揺れて

よじれた


精緻に編まれた蜘蛛の糸の上で

転がされた雨粒が

見えない手で並び替えられた

「サ・ヨ・ナ・ラ」


その言葉を口にしたとき

また風が吹いて

よじれて


もう一度見直した時には

ふつうの蜘蛛の巣にもどっていた


「さようなら」

私の中で誰かがささやいた


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16817139554833541611

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