ほのぼの5 - 夢精

| 藤堂 京介



これはどういうことだろうか。


「あ〜も〜……てるし」


これはいったいどういうことだろうか。


「わたしの方が……だし」


最後の記憶はカラオケ店で、確か安藤さんと田代さんが未知瑠の曲を歌っていた…までは覚えている。


今…ここがカラオケ店ではないことはわかる。


そして、この体勢は…うつ伏せだ……


そうか……

僕は…負け…たんだな…


背中を晒すこんな…ザマは…カサンドラ大渓谷以来か…


おお 藤堂京介!

しんでしまうとは なさけない…。


違……わないか。


何だかわからないけど、死んだように寝たのは確かだ。


全然記憶がない。くそ、腑抜けたか…。


しかも目覚めれば何だかわからないものに顔が挟まっている。



「藤堂……起きた? おはよ」


「藤堂くん、大丈夫ぅ? おはよ〜」



いや、僕これ知ってる。何故か田代さんと安藤さんのおっぱいに顔から埋まっている。



「…お"はよぅ…これは…夢?」



これは…夢の中だな。


何せ、その二人のおっぱいに挟まれる意味がわからないし、歌っていないのに喉が枯れてるし。


金髪に近い髪色のショートカットで、少し肌を焼いている田代さんのおっぱいはマシュマロのようにむにゅっと柔らかく、大きな乳輪は薄い色素で似合っている。


同じような髪色で、ミドルカットで色白の安藤さんのおっぱいは跳ね返すような弾力で、小さなピンクの可愛い乳首だった。


みんな違って、みんな良い。


違くて。



僕は確かにふかふかベッドで寝たいと願っていた。だが、決してこんな素敵な枕に寝たいと願ったわけではなかった。


ましてや、あまり関わりのない二人だ。


そうか……


これが15歳の煩悩が見せる、やらしい夢か…疲れが相当溜まってたんだ。恐るべし位階1のへなちょこさ…つまり、つまりこれは夢精コースか。


仕方ないか。



………え、いやいや、結構ダメージでかいよ!


どうしよう! どこでしたかでダメージが全然違う! カラオケ夢精は嫌だ。電車夢精もノーノー。公園夢精は……永遠ちゃんと致した場所だから大丈夫か。もしかして自室夢精とか…は希望的観測すぎるか…



「ちゅ。夢なわけないし…藤堂すごかったんだから、ちゅ、打ち上げ」


「そうだよ、ある意味男の子の夢かもだけど。ちゅ、藤堂くんすごかったんだから…ちゅ。ありがと…打ち上げ」

 

「……」



夢じゃなかった。


夢だけどー、夢じゃなかったー


男の夢だけどー、夢精じゃなかったー


違くて。


背中にはタオルのような布団が掛けてある。どうやら三人で包まっているらしい。二人の気怠げな感謝のキスを額に受け、頭をさすりさすり、背中をさすりさすりされている。


…なんで?


最後の記憶。カラオケの時のなんだか決意を秘めたこの二人の表情……打ち上げってこういう…ことするんだ。


いや、絶対違うと思うけど…


とりあえず、しっかりと反射は切っていたから怪我とかは…大丈夫だった。


何故わかるって? それは簡単さ。すぐ確認出来たからさ。二人は大丈夫。僕も大丈夫。


だって三人とも真っ裸だしね。


いや……なんで?


どうやら、僕は安藤さんと田代さんの二人と致したらしい。気怠るく話す言葉とキスの雰囲気は事後だろう。


だとすると、避妊魔法は全然大丈夫じゃないな。



しかし、ここはどこだろうか。顔を上げ…れない! なんかおっぱいから顔を離せない! これがおっぱい枕の引力か…いや、頭押さえ込まれてるねこれ。


目だけ無理矢理動かすと、見覚えのある朋花の私物がチラリと見えた。



「こっちこそ……ありがとう。でも全然覚えてないんだけど…ここは…朋花の家?」


「もう、そういうの良いから。どう? Eはあるけど…ふかふかしてる?」


「なんか寝言でふかふかベッドに寝るんだって言ってたから。美月はDだよ〜ふかふか〜、ふかふか〜」


「……」



これが元世界のふかふかベッドだったのか…


僕はもうふかふか寝ていたのか。寝ながらふかふかしていたのか。絶対ふかふかになるんだって夢……叶ってたのか…


どっちかというと、おっぱいに埋まってるから話すとふがふがなるんだけど。


でも、なんてすんごいベッドなんだ。


僕の某もすんごい事になるなんて。


違くて。



「ねえ、その、ど、どーなの? クラスメイトにこんなの結構恥ずかしいんだから!」


「うん、感想欲しいな…こんなことしたことないし! 本当だし!」



頬を染め、照れながら懸命に僕の顔をむにゅりむにゅりとリズム良くマッサージしてくれる、田代さんと安藤さん。


これは……ふかふかの感想を答えねばなるまい。


ふがふがしながら。


だけど、これどういう経緯いきさつ



「すごく気持ち良いよ…ありがとう…すごくふかふかだよ…でも正直…何が何やら…愛香と朋花は?」


「〜〜こんな時に他の女の話する?! 信じらんない! この、この!」


「朝ごはん買いに出たよ! もー! えい、えい!」



田代さんのふかふかが激しくなった。負けじと安藤さんもだ。


他の女の話…そんなつもりはないが、それはそうか。勇者失格だな…いや、もう失格してたか。ぶち殺されてたか。


朝ごはんを買いにか。なら今は朝…あ、未羽に泊まるなんて言ってないな。これが朝帰りってやつか…どうしようか。


いや、スンスンするだけか……



ま、可愛いから何でもいっか。


すまない。ならば、仕切り直しだ。



「ありがとう、二人とも。もう一度───」


「いいの!? する! にんにんする! 朋花ちゃん良いって言ってたし!」

「愛香もね。ちょっとミー、先ににんにんするのわたしでしょ。あんたもう三回にんにんしたじゃない!」


「ええ〜、でも…てか、マーヤまだ彼氏と別れ──」

「別れたわよ…その、最中に…電話だったけど…つーか、あんただってB組の久本くんとキス──」


「ちゃんと電話したし!最中に! あ〜やめよやめよ、こんな時に他の男の話なんて信じらんな〜い」

「ミー! 先にあんたが! ぐ…それは、そうね! 一緒に仲良くにんにんしましょ!」


「ね、それが良い、それが良い」


「……」



二人とも何かまとまったらしい。けど、これ…何か不味くないかな。楓パターンじゃないかな。


それより酷そうな気もするんだけど。もう手遅れな気もするんだけど…


また異世界行くやつじゃないかな…僕みたいに…久本くんに傑出した才能が無いことを祈ろう。


にしても、愛香と朋花は良いんだろうか。また超絶濁らなけばいいんだけど。なんか日に日に回復掛かり辛くなってるんだけど。



「藤堂、早くにんにんしよぉってば」


「藤堂く〜ん、三人でにんにんしよ?」


「……にんにん?」



そうだ、にんにんする……って何?


忍者……かな。


懐かしいな…鉛か…随分と従姉妹に会ってないけど、多分にんにんなんて言おうものなら殴られてしまう。いや、今なら躱せるか…


けど、どういう意味? いや、ニュアンスでわかるけど、二人ともまさかのダブルくノ一? ダブルストーカーなら経験済みだけど…いや、それもおかしな話だ。


今まさに房中術くらってるから信じろと言うのなら建前として全力で信じてみるけど…


ま、いっか。


愛香と朋花がいないから、彼女達の言うにんにんが本当のところ何かはわからないけど、多分アレだろう。


瞳はイエスだ……うん? 


なら少なくとも五回も? 彼女たちの身体は大丈夫なのか… 経験人数…位階20以上なのか…?… ちなみにどういうカウント方式か教えてくれないかな? 僕? 君? どっち?



「私に二回藤堂が出し────」

「美月は三だし! 三回だし! 美月のがそんなに良かったん──」


「……愛香と朋花、それ以上じゃない」


「だ、だって…あの二人は経験者でしょ! それになんなのあの愛ちゃんのアレ…信じらんないし!」


「朋花もでしょ でもちょっと掴んだわ」



「……」



そんなにもか。全然気付かなかった…気になるフレーズはあったが、今は気付かないフリだ。


その回数…身体は大丈夫なのかな…僕の。

それ死なないかな…僕が。



いや……死など恐れない。僕は勇者だ。

求めには常に…答えてきた。


仮にもう答えた後だとしても、僕は知らない! 真夜中の出来事なんて全然知らないんだ!


そうだ、知らないことは学ぶんだ! 


ピロートークはこれからだ!



僕は、薄いタオルみたいな掛け布団を華麗に取り去り、全身何かでベタベタすることに気づいたが、気にせずキメ顔でこう言った。


「二人とも可愛くって辛いから、にんにんさせてくれないかな?」



そうだ、にんにんしよう。

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