ダズンローズ10 - いまあい

| 藤堂 京介



「〝…シュピ…」


キイィィ…


ダメだ。すぐ脱ぐ。食い気味で脱ぐ。脱ぐ気満々だこいつ。


あれから少ししたらシュピリアータの思念は消えていった。最後に、自由じゆーだーだーだー…と山彦のような残響を頭の中に残しながら。


…まあ、いい。


僕はとりあえず気絶してしまった女の子二人を屋内から連れ出すことにした。こんな襲われた場所なんて嫌だろうし。山賊のアジトでも連れ出してから汚物を燃やしてたし。


そして抱き上げた時に気づいた。


この抱き上げた姫と呼ばれていたこの子こそが、魔王トラウマ、永遠ちゃんだと。


中ボスじゃなかったんだ…


魔王の正体は姫だったんだ…


本クエストだったんだ…


脳筋を留年していたんだ…


違う違う。いや違わないか。


……正直、あの変な剣のせいか、過去のトラウマを刺激してこない。蕁麻疹も出ない。ただの可愛い子にしか見えない。けど…永遠ちゃんにビンビンにイキり倒してしまった…


はっず…どうしよう。


見事に違う上書きを僕自身にしてしまっていた…はっず。


とりあえず気を取り直し、永遠ちゃんをこの建物から出し、今はもう一人の女の子を抱えて外に出ようとしている。


屋内を出ると、建物の外壁に保たれるように座らせていた永遠ちゃんの横に女の子が立っていた。



「おこまり、解決、ランペイジ」


「…その解決方法はまずいんじゃないかな」



そう、絹ちゃんだった。永遠ちゃんの横にこの女の子も座らせる。二人とも並んで白目気絶顔だった。


絹ちゃんはどうやらこの周囲をウロウロと見張っていたらしい。喧騒に気付き、中に入る手段を探して、諦めて窓を割るために大きな石や金属の棒などを探しに行っていたらしい。



「永遠ちんをこんな目に…酷い。許さない」


「いや、それ多分…僕なんだよね」


「? だって…じゃあこの顔…でも、京介くんの魔剣は…すんすん。まだ顕現してない」


「……」


腰を屈めて股間の匂いを嗅がないで欲しい。顕現とか言わないで欲しい。今あの変な剣を顕現させたばかりだから。そのせいか、激っちゃってるから。


あれ? そういえば、そういうバフはやめてと随分昔にシュピリアータに言ったはずだから…なら純粋に僕の15歳がノーパンに反応してか。いたた。



「…触れずに?…すごい…流石。今度私もして。永遠ちんは任せて。更なる鉄槌を」



そんな事…まあ…出来なくはないけど…その辺の丸い手頃な石コロ、振動させちゃう?


いや、それは男女の間では無粋だ。僕はミニマリストなんだ。でも…まあ、絹ちゃんならいっか。アバンギャルドだし。まあ、今度ね。


今はあいつら男共だ。未遂とはいえ、またこんな事すると迷惑だし。


強姦未遂は重いし。


イキり散らかせた罪も重いし。



「ああ、ここはお願い。"檻"から───獣を出すよ」



絶対許さねー。


金網借りて───


縦連結ジェンガ、いってみるか。


んー左に曲がっちゃうかな。そしたらガシャーンが今度こそ披露出来るか。


スマートだな。





| 首塚 桜子



桔花お嬢様を見送ったあと、顔を上げすぐさま行動に移そうとした時だった。お嬢様と同じ様に裂けた穴に向かう女の子が二人いた。


大前女子の高等部と中等部の子だ。


お嬢様の邪魔をさせるわけにはいきません。そう思い、呼び止めようとしたら道を塞ぐように長い黒髪の女が立ち上がった。


随分とスタイルの良い大前女子高等部…マスクとメガネを外し…ホカホカしたメス顔が出てきて…


ズラを外すと、金髪が現れた。


「天養の光…姫」


和光エリカ。この天養では大きな力を持つ名家和光家の一人娘…火威ひおどし会長さんが敵視している大前女子、一年派閥の長。



「はーっ、ふーっ、はーっ、ふーっ…金網と鉄の壁では無理ですのね……ならば…。あら、わたくしの事をご存知ですの?」


「…ええ…和光。有名ですから。私は首塚です。スマホはあちらでお返し致しますので、どうぞお帰りください」


「くすっ。あらあら、京介さんのお力はご覧になって? この中から逃げられるわけないでしょうに。……嘉多家の…使用人風情が…大した態度だこと」



お嬢様だとバレていたか…京介さん?…和光エリカは…これは確信だ。この女はこの異様な現象を知っている…それにしても一年の癖になんと生意気なカラ……態度をしていますね…



「…何かご存知なのですか?」


「ふふ。それを申し上げるにはあなたでは足りませんわ。それより……ここからはこの和光エリカが仕切らせていただきますわ。さあ"花束"の皆さん! 京介様が戻って来られる前に! 草花の方々には…日差しが強いでしょうから確認を! 急いで!」


「「「はい、エリカ様」」」



和光エリカの掛け声とともに、二割…指結びオーガに動じなかった女たちが立ち上がった。和光に…仕込まれていた? 見たところ大前女子だけじゃなさそうなのに…それよりここから帰さないと。



「勝手なことをしない──」


「私、怒ってますの。私の京介さんを…言いがかりも甚だしく勝手に見せ物にした罪は重いですわよ。それに比べればここを差し出すくらい大した事はありませんでしょう? 何せこのわたくし、京介さんの幼馴染でもあり…女、ですの。…あ、あ!今の!今の!良い!良いですわ!」



色ボケしている…この和光エリカと指結びオーガが深く繋がってる? ならここの二割の女子も? 今…嘉多家の使用人は私をいれても五名…護衛は…無理か…足りませんね。



「こほん……このような奇跡を起こせる方を見ても…ここの責任者は…嘉多さんでしたか? …いったいどんな罰が…ああ! とても恐ろしいですわ…まあ、御口添えくらいならしてあげてもよろしくてよ? 何せわたくし、京介さんの女、ですから。あ、やはり良い! ですわ! …こほん。さあ───選びなさい」



わざとらしい…正直なところ、あの屈強な護衛をあんな目に合わせた男ですし…お嬢様がいったいどんな目に合うか見当がつかない…なら和光エリカの繋がりに縋るしかないか…



「どうか、お嬢様をお救いください。和光様」


「ふっ、よろしい。良い判断ですわ。では早速会場を整えます。嘉多家の使用人も私の指揮下に入りなさい。丁寧に纏めますわよ」



「それは…なぜ…でしょうか?」


「決まってますわ。罪には罰を! 京介さんが歩いた結果ですの! きっと今から薔薇が咲き乱れますわぁ! それに…あなた方が攫った眠らせ姫…彼女もまた京介さんの幼馴染ですし。知らなかったのですか? あらあら。恐ろしいことをするものですわね。彼女が嘉多家のせいで襲われたと知った京介さんは…嘉多家を…どうするのでしょうか…くすくす…」



眠らせ姫も! そんな! それに攫ったなんてそんな事はしていない! きちんと隣のネストに居ていただいて…だいたいこの周りには警護を…そうか…外もみんな指結びオーガに投入したから…なら私も…罰を…………うん?…案外詰って…貰える…なら…それはそれで良いかも知れません…あんなオスいないでしょうし。ならば。お嬢様に変なものを食べさせてはいけません。代わりに私が! 先に! 味見や…いえ、毒味役をせねば!



「和光様! 藤堂様に! 謝罪に向かっても! よろしいでしょうか!」



隣の市か…通えるかな…放課後はお嬢様の…なら休日デート…もうすぐ夏休み…一週間お休みをいただいて…避暑地にご案内して…目眩めくるめく初体験を…お嬢様とともに…はー忙しくなってきました。そうして……最終的に和光を引き剥がす策を考えねばいけません。


そう、腕枕をされながら!



「え、ええ。構いませんわ…急になんですの…。ただ…ひとつ忠告を。嘘には気をつけた方が身のためですわ」



なるほど、わかりました。


───嘘をつけば良いのですね。


貴重な情報ありがとうございます。和光エリカ。


指結び様! いま、会いにゆきます!

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