ダズンローズ6 - レイパー

| 永瀬 永遠



「で、堀北六花ほりきた りっかちゃん、先輩? だっけ。恋のアポストル? なんなのこれ? ここで嘘流してるわけ?」


「ひぃぃぃぃ言います! ぐすっ、言いますから! もう蹴らないでください! ぐすっ…私達は…昔、男に酷い裏切り方をされて…それで…ぐすっ、このサイトで裏切った子を探して…ついでに他の酷い事をした男子にもいろんな方法で…探し出して天誅してて…ぐすっ……」


「んで、なんで藤堂京介なわけ?」


「…最近…っすん、サイトにすごく名前が上がるんです…上限の100まで達したのは初めてです! これは今までで一番の悪かも知れません…絶対そうです!」


「あんたらがなんかされたわけじゃないっしょ?」


「けど! …可哀想じゃないですか…裏切られた女の子達が…それに六花も…私達みんな初恋の子に裏切られて…」



「あんたらの初恋とかどうでも良いし…さっき言ったけど、嘘だって。これ見る限り、絶対違う目的でしょ…」


「今から絶対裏切られる子が! 絶対出てきます! ですから!」



「ふー。あのね、わたしも暇ってわけじゃないの。ヒヨコとかタマゴとかの本、買わないといけないの」



「…お料理…ですか? ヒヨコの…活け〆? 流石…私、そんなの無理です」


「あんなふわふわしたやつ首マワして〆るとか猟奇的か。可哀想か。ちげぇーよ。赤ちゃんの本だし。え……名前とかピヨ介って付けたら…あ、ダメ。うわ、わたし今想像したら何か鳥料理全般ダメな感じになる…なんて名前を本につけるし……つかまだ?」


「ふふ、眠らせ姫でも冗談を言うんですね。もう少しです。今日は全員揃いませんが…」


「…まあ、良いんじゃない? その代表が書き込みしたやつ吐くんでしょ」


「無理矢理はダメですよ! …ひとまずはクリア…」



聞こえてるし……こいつ、何か企んでんのか。あ、飛び道具メモリアル五寸釘しかない…まあ、なんとかなるか。





「なん、ここ」


電車を乗り継いで辿り着いたのは、鎌田。ここら一帯は工場地帯で、その入り組んだ先にある青い建物に案内された。


この辺りは不況で倒産が相次いだとこだっけ。割と有名だ。周りは全部…廃工場か。おっきな声を出しても無駄か。



「名前は特に無いのですが、ここはネストと呼んでます。まだ誰も来てませんね」


「巣か。んで、だれがねむりたいわけ?六花ちゃん先輩?」



まあ、恋のアポストルは全員女子って話だし。大丈夫か。なんか企んでる感じはするけど。


「いえ! 眠らせたいのは藤堂京介。にっくき女の敵、オークキングいたっ───」


「人のダーリンに何て名前つけるし。だからこの書き込み違うって言ったじゃん」



恋アポの藤堂京介欄には+100とあり、中に入ると書き込みの数はその倍以上あった。しかも想い人を探してる感じはなく、私怨って感じがほとんど。ダーリン何に巻き込まれたし。昔からよく巻き込まれて……あれ?



「痛ぁぃ…でも…こんな必死な様子の書き込み…」


「…ちゃんと見るし。だいたいこれ仇うちっぽいし。あれ…なんかマジのやつもある…それにまだダーリンのスケ、10人くらいだし。しかも多分そいつらそんな事言わな…」



「やっぱりオークじゃないですか! クズ! きっと殴ったり、蹴ったりして昏倒させてからズルズルと暗い部屋に連れ込み、意識の戻らないうちに襲ったんだわ…恥ずかしい写真まで撮ったりして…絶対避妊もせずに…なんという…汚らわしい…人の姿をしたモンスター…姫も庇わなきゃいけない理由があるんでしょ! 六花にお話ください! 私達、恋のアポストルが守ります!」


「…」



それ逆だし。全部私がしたし。汚らわしいのむしろわたしだし…そう他人に…言われたら、なんかだんだん悪い気がしてきた…しかもダーリン、小学生の時より…弱くなってた気がする…そんなダーリン…京くんを…わたしは……あれ? 何か小さな時は…弱味を盾に京くんを…わたし…あれ…



「あっ……そっか…ごめんね、京くん…」


「急に…どうしたんですか?…話してくれるんですね! さあ!さあ!」



なんで今思い出しへこみしてる時に煽るし……このっ



ガチャガチャ────



「永遠よぉ よくも弄んでくれたな…」



ネストの扉が開いたと思ったら、弾除け後藤が入ってきた。いち、に、合計六人…こいつら三年と二年の先輩舎弟じゃん…あんま学校来てないやつらだ。



「恭くん、こいつ? 何、激マブじゃん。本当に良いの?」

「永遠ちゃーん、ごめんねー、恭のやつ拗らせちゃってさー」

「男ってやつをわからせないといけねーて、恭がさー」

「おー、もう一人いんじゃん。こいつもうちの学校のやつ? 恭くんどーする?」


「……一緒にやるか。騒がれると面倒だしな」


「やりい!」



…こいつらの獣欲の目…マワす気か…レイパーにクラチェンかよ。ザラタン見習えし。何考えてるし。すぐバレるのに…あー、同じ先輩だから堀北六花の繋がり?



「…これ、六花ちゃん先輩の仕込み?スマホいじってたけど」


「違う! 違います! 何ですかこいつら…キョウクン? まさかこいつが藤堂京介!」



お前もか。弾除け後藤だよ。今はレイパー後藤だよ。しかも他の二人はあんたと同じ学年の同級生だろ。まあ私服だからわからないか。こいつの仕込みじゃない…なら…報復か。



「永遠が入れ上げてたのそいつだろ? 恋アポってやつに載ってたぜ」


「俺の彼女に調べてもらったんだ〜永遠ちゃん湊小でしょ? こいつ有名人だよね〜何人も女の子に言い寄られてだけど結局一人だけ選んで……あれ?ちゃんとしてるじゃん?クズなのは俺たちでした!はい鍵閉めたっと」


「何?永瀬ちゃんフラれたのに初恋拗らせてたの〜?ははっ、ダサー。もう諦めたら? それにそんな暴力的で足癖悪い女あっちも願い下げだって」


「うーわ、ダサっ」


「ダッサーい」


「……」



そんな事…わかってるよ。京くんに避けられてたの…記憶に蓋してたし…愛香に盗られた時に蓋したんだった……ちゃんと適切な距離感にして…


小さな時…あんな目に合わせて…



「は、男をわからせてやる。こいつの怖いのは足技だ。あんまり近くに寄るなよ」


「はいはーい。なら先ずは…こいつからだ! おーっと。ハイハイ、暴れない暴れない。ちょっと手押さえとけよ。マスクとメガネを取りましょーね。おお! こいつもマブいじゃん! ラッキー!」

「つか、こんな奴いた? 何年?」


「いや、いやー! 離して! 助けてあーくん!」


「あん?彼氏か?すげー燃えるんですけど。永遠ちゃん、じっとしてないとこいつ、殴っちゃうよ?」


「ひっ!」


「…その子には乱暴しないで。わたしを好きにしていいから…」



これは…罰、かな…ならわたしだけで良いよ。


昔の事思い出したら咄嗟に反応出来なかった。


小さな時、みんなが京くんに言い寄ってたの我慢ならなくって、でもわたしは素直じゃなくって。いっつも脅してた…んだった…ははっ、それが返ってきたんだろうな…


巻き込んでごめんなさい。六花ちゃん先輩。



「ふん、そんなの信じられるかよ。そうだな。パンツ脱げよ。したら足技使えねーだろ」


「………わかった」



小さな時、わたし京くんのパンツ、みんなの前でズリっと下げてた…どうしても見たくって構って欲しくって……こいつらみたいな顔してたのか…京くんこんな気持ちだったのかな…



「駄目です!姫!ひ、ん──、ん───」


「はいはーい、黙ってストリップ見ようね。後で同じことするから予習しときなよ。ぶはっ、姫だって。頑張って姫───!ははっ」



「…脱いだ、離して」



「おおー素直な良い子じゃん! あれ、何その色気ないパンツ」


「な、なんだ! その毛糸のパンツは…っ、そ、その下もだ」


「恭くん、狼狽えてんじゃん。あれ見せパンだよ。まーまー最初はさせてやっからさ。任せなって」


「永遠ちゃんが毛糸のパンツが見せパンとか。ダッサ。高一だし仕方ないか〜今度先輩がもっと色気のあるのプレゼントするからねー」



…お腹冷やしちゃいけないって思って、あったかいの履いてた。それを…ダサいとか…辛い…ぐすっ…



「ほらどーしたー、脱ーげ、脱ーげ」


「あらら、永遠ちゃん泣いてるじゃーん」


「脱ーげ、脱ーげ…おおっ! いただきました!ノーパン姫の完成でーす!」


「おー純白じゃん。ウェディングじゃん」


「まあ今からパコパコ姫だけど!ぶふー」


「ん──、ん──、」



「………ぐすっ」


京くん、ボコっておんなじ事したのが返ってきたんだろうな…ごめんね、京くん。ごめんなさい。京くん。こいつらにマワされたら京くんの気が晴れるかな…



「ほら、スカート捲れよ。したらこいつ離してやるよ」


「………」


「おお素直。あとすっこし、あとすっこし」


「あとすっこし、あとすっこ…止まってんぞ。あくしろ。こいつ殴んぞ?」


「んん! ん──、」


「……京くん…助けて…京くん」



「恭くん、なんか助けてって言われてるよ〜ってか別のキョウクンかーつれーわ、これつれーわ」


「永遠ぁ、どこまでもコケにしやがって! 煽りやがって! 俺が剥いてやる! おらぁっ!」


「たすけて! 京くん! いや──! やめて! いや!」



いや!やっぱり京くんだけがいい! 誰にも見られたくない! でも足が出ない! 暗器もない! 五寸釘はいやっ! こんなヤツに! 助けて京くん!!



キィィィィ────────ン



「はは、叫んでもここには誰も来ないよー…お、お、何か…ハウリング音が…?」



後藤に飛び掛かられ、わたしが叫んだその時。


鋼鉄の壁が、音もなく、弾け飛んだ。


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