檻2 - 肘撃ち姫

| 初芝 朋花



身体がじんじんする。

お腹の奥もじんじんする。


火照った頬は急に好きピがKISSするから…


『心に身体を委ねて』


好きピはそう言った。

途端にあんなにも恐れていた葛川と下出が矮小に見えた。


瞬間、私は飛び出し、二人の頬を殴った。


呆気にとられ、無様な顔を晒す二人。


ああ、なんだ…こいつら偽物だ。


愛香の話は、ほんとだったんだ。


メグミ、私、やるわ。





今日のお昼休み。ミーとマーヤに初えっちの話を聞き出した。二人ともやっぱり痛くって未遂だったようだ。


私の体験を伝えたら墓穴を掘った。


「そんなわけないじゃん! ファンタジーかょ! 痛くって途中で頬張ったし!」

「それな。妄想乙。うちも一生しなくていいし」


「……ヤッてないじゃん、二人とも」


「あ!」

「う!」



やっぱりね。なんて思った。

でも確認したかったのはそんな事じゃない。


愛香と好きピと私の共演ビデオ。愛香が帰っても繰り返し見ていた。身体には元気がありあまり、何度果てても追いつかないくらいだった。その時の違和感。


あんな剛直がすんなりと入って来た時の違和感。


最初はあんなに解されたからかなとか思ってたけど、徐々に不思議に感じてきた。


好きピには何かある。


さっきの廊下。愛香の前で不安を口にした時の撫で撫で。明らかに細胞が喜びの声をあげていた。


そう、私は意識を少しずらして観察していた。元々根暗な私は幼少の頃から人の観察をずっとしてきていた。それなりに見る目には長けていると自負していた。


それを初めて自分に意識を向けてみた。


そうしたら、髪ツヤッツヤ。頭超スッキリ。心に爽やかな風が吹いた。細胞が喜んでいた。これだ、初めて撫で撫でされた時はこれだったんだ。


やっぱり好きピには何かある。


だから、……メグミもきっと助かる。





そして体育館裏での、葛川と下出が見てる前での顎クイからの突然のKISS。そして求愛の鼻ダンス。撫で撫で付き。…しゅき。


唇が離れ、名残惜しく思った瞬間、身体中から立ち昇るジュワっと点火したような火照り。私が吐き出したい欲求の全てが叶うということが、何でも出来てしまうということが…わかる! 


『心に身体を委ねて』


あは。


あは、あは、あはははははは!



「いっでぇ! こいついきなり殴るとか…狂ってんのか? ぶびゃ」


「おれの口から血が… どうなるかわかってんの? …初芝さ、ん? ぎゃっ!」


「あっはーん、しゅごい…」



きんもちいぃー。何これ。何これ。何これ。葛川と下出の動きが超スロー! 亀! 


これが…好きピの力の正体……

KISS…つまり、私の愛の大きさを力に変える能力…?


───だからこんなに力が…?


チラリと好きピを見る。

笑顔でうんうん頷いている。


そうなんだ。やっぱりそうなんだ!


とりあえず二人。


メグミンの無念…好きピとの愛のPOWERで圧倒してやる!


メグミ! やるよ! メグミ! 


……でも、メグミの事をクズ共に教えるのはまだだ。


さっきの中田の話。好きピのお友達? が動いているし。邪魔しちゃいけない。


後で何友達かキッチリ聞かないといけない。



…蹴ってもみたいけど……こいつら如きにパンチラするわけにはいかない…見せて良いのは好きピだけ… 手は…後で使ってあげたいし汚したくない。なら…でも、これ、野蛮かなぁ? 好きピ、引くかなぁ…可愛くないかなぁ。あんまり見ないでね…



「お前っ!! ブホォ! 狂ってんのか!」


「あは、おっそ。何、クズのくせにノロマとか。狂ってんのはてめーだろ。クズ川物語、読んでこいよ。…やだ。京ピ、そんなにじっと見ないで! 恥ずかしいよ〜」



「おれの血が! ボファ! また血ぃ?!」


「血くらいでなに狼狽えてんの、ダッサ。あーしらならいつもの事だっつーの。あ、京ピ、やっぱり見てて、見ててね。私の初めて、見ててね! あは! 絶対上手くするからぁ! あっはー!」



「………」





| 藤堂 京介



ちょっと、込め過ぎたのかもしんない。


初の飛び込み営業ゆえに力が入りすぎたのかもしんない。


ま、いっか。


何より楽しそうだしね。うんうん。さっきの陰鬱な表情なんて似合わないよ。素敵だよ。輝いてるよ。羽ばたいてるよ。いいね! その調子だ! そう、抉るように! そこだ! いけっ!



「にゃ、んで、女ごと、きにふべっ!」



──おーっと朋花選手、掴もうとする葛川選手の手を叩き落とし、そのまま縦に構えた肘で下から顎に肘鉄ぅー! どうやら長く楽しむためか手加減気味だぁー!


「ぐじょぉ!」


堪らずたたらを踏む葛川選手! 悔しさを口にするぅー! ただただ無様ぁー! イケメンが台無しだぁー!


そしてそこに後ろから下出選手が朋花選手に掴みかかるが、つ・か・め・な・いぃぃー! 


「ごのぉ! 何で掴めない!」


「あっは」


五感を強化された朋花選手は空間を完璧に把握しているぅぅ! 夕暮れが始まる中、無邪気に笑い、悪漢を軽やかに躱す姿は例えるなら、そう! まるで夜の舞踏会に舞い降りた可憐な姫っ! 両の肘を撃ち振るう、肘鉄の姫だぁぁぁ──!!

 


「くそ、くっすんは……もう駄目か、クソッ! やってやる!」


「朋花ぁ! 舐めやがって! お前は犯して壊す! ごらぁ!」


「あは、あはっはっはー。いやーん、京ピ、怖いよ〜」



葛川選手、下出選手の攻撃、その全てが、空振りぃぃ! その全てが、空間を支配している姫の前では無駄無駄無駄ぁぁぁ──! 



「なん、で当たらない! べがっ!」



朋花選手、下出選手の攻撃を回転しながら躱し、そのまま横からぁーやっぱり顔に肘打ちぃー! 綺麗に決まったぁぁぁー! 尻餅をつく下出選手ー! 膝が笑ってるぅぅぅ! 姫の前では頭が高いぃぃぃぃ!



「ぃやん。京ピ、見え…た?」



そして朋花選手、フワリと舞うスカートを押さえ……ない! そのまま両の肘を正面に構え口元をグーで隠したままチラリとこちらを見ての一言は絶妙ぉぉの匙加減んんん! 初めての戦闘にも関わらず、華を添えるアクセントにも工夫を惜しまないぃぃ! あざといなんて言わせないぃぃぃ! まさに姫! ああ、これが、これが初芝朋花の真の姿だぁぁぁぉぉぉー!


しかし彼女の肘への拘りはいったいなんなの

か! いったい彼女の肘には何が宿っているというのかぁぁあー!! すでに彼女の両の肘には綺麗に血の花が仲良く咲いているぅぅー! はっ!! つまり朋花とは! そういうことだったのかぁぁぁぁー!!



「───べぎゃ」



そしてやっぱり最後は顔面肘打ちフィニッシュぅぅぅー! 葛川選手も朋花選手の攻撃に堪えきれず尻餅をつくぅぅー! 姫の前では、頭・が・た・か・いィィィィィッ!!!


正確な肘鉄で相手を少しずつ削り、とどめは相手の力も利用した肘打ちでフィニッシュ──!……つまり、


今宵はぁ────肘撃ち姫の爆誕だぁぁぁぁぁ────




いや、違くて。


朋花とはーとかじゃなくて。


今宵はーとかじゃなくて。


あまりにも綺麗に肘しか使わないものだから、つい拙いながらも脳内実況してしまった。


こう、恥じらいながらスカートに配慮している姿もまたGOOD。しかし、随分と肘に拘るんだな。これはポンポンとか持せたくなるな。


でも、初めての飛び込み営業の割には顧客満足度は高そうだ。うんうん。僕にとっても初の営業成果だしね。うんうん。


後は…商品の使い心地とかかな?



「朋花、…どう?」


「しゅっごく、気持ちいー! あっはー! 快・感んんっ……ほらクズ共、早く立ちなさいよ」


「うぐぅぅ」

「ひぃぃ」



「………」


うん。この昂りは、アレだな。

後で、アレだな。


ま、いっか。


索敵で探る。体育館には人は居る。

重機の裏には人は居ない。


火照った身体のケアも、セーフティーゾーンの確保も完璧安心サポートだ!


思う存分、やっちゃえTOMOKA!


GO GO TOMOKA!


いけいけTOMOKA!



「あっはぁ────!」


「ひぃ────」

「も、う許してく──」





朋花は一頻り満足したのか、2度、葛川と下出をダウンをさせた後に、僕の方を向いてピタリと止まった。


右の太腿に左手を添え、そのままスルスルと制服のスカートをたくし上げだした。


右の肘は構えたままだ。


……身体を捻りSラインを描くとか…


肘の血も気にならないくらいまんざらでもない。


あと少しで、パンチラするところまででピタリと止め、右拳を口元に当てながら、こんな事を言い出した。



「はぁーっ、はぁーっ、はぁー…、ねえ、京ピィ……身体が、奥が、じんじん、じんじん……火照って、ね? しょの…ね?…」



ごくり。



「………れ "タイダプ"」



ぶっ倒れてる二人に拘束かけたから大丈夫。

そして、索敵でも大丈夫。洗浄も大丈夫。


そして、下が土でも大丈夫。


我が社のスタンダードプランにオプションで入っている、立ち技。


……まあまあ好評なんだ。



ちょっと重機の裏、行こっか。





そうしてスッキリとした僕は、薄らと意識を取り戻した葛川と下出に言う。



「葛川くん、下出くん。"檻"だっけ? そこに案内してよ」


「……ぅ、ぅ、う」

「………ぉぁ、ぅ」


「しゅきー…、しゅきー…」



息も絶え絶えな、3人。


……僕の初営業、失敗したかなあ。

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