悪魔の討伐

ウォーⅢ

ウォー1

| 藤堂 京介



この世界に帰ってきてから怒涛の週末を終えて、週の始まり月曜日。


アレフガルドも同じ週七日だったから特に違和感はない。多分昔の召喚勇者が広めて大教会が後押ししたんだろう。


枷にも慣れてきた。レベル1での魔法の違いも認識出来た。多分電車もオッケー。これなら買い食いも気軽に楽しめるはず。勉強? 知らない子ですね。


まあ、なんとかなるだろう。


それに、昨日は朝から幼馴染と義妹によるデュエットアタック。からのカウンター。


昼はハンバーグを食べに行ったら横スクロールのモンスターハウスに半グレ素直パンチ。ドロップした宝箱の中身は薬物。


夜は捕虜の解放に、エプロン全裸にお馬さんごっこ、最後はゾンビアタックにカウンター。絹ちゃんのメガスマッシャーと盛りだくさんだった。


それもこなせたんだ。

まあ、なんとかなるだろう。



今朝は愛香と未羽と三人で登校する予定だった。


昨日の夜、未羽は愛香の家に泊まってくるから朝待ち合わせしましょう、とメッセをくれていた。


愛香の家はそんなに離れていないけど、親御さんと面識とかはあったのだろうか。全然知らなかったんだけど。


昨日の朝は愛香と未羽はとても仲良くしていて、一緒に三人で仲良く(意味深)もしたけど、そもそも二人の間の確執は長かったような……泊まりとか仲良くなってもそんなにすぐさま行くものだろうか。


ま、いっかと流し、肉体の枷も魔法による拘束も無しの、帰還後初めてのびくつかない就寝を味わったのだった。


ベッドって、良いもんなんだな。


しみじみ感動していた。この帰還後の週末、そんな事を考えている余裕はなかった。何とは言わない。


異世界では、今日は土の上だ! とはしゃいで喜んでいた文明未開人の僕だったけど、まあ、ハートにズッキュンだった。石造りの床なんて土が出るまで何回剥いだか。出なくて壁を何回殴ったか。


特にダンジョン、てめーはダメだ。何勝手に元の姿に戻ってんだよ。戻ろうとするんだよ。半分石に埋まっちゃっただろ。戻すんだったら下に土を用意すんなよ。期待しちゃっただろ。芸が細かいんだよ。


それ自体が罠とは恐れ入る。


そう呟いたらローゼンマリーがそれは罠じゃない、ネタだ。何回目だ。いい加減にしろ。そう言っていたな。半分石畳から顔を出すように埋まって寝ている僕にツッコむのはいつもローゼンマリーだった。


海水浴場とかでよく見る光景だからいけるんじゃないかと……石か土の違いでしかないわけだし……石砕いたら土みたいなものだし。


まあ、最後の方は魔法でなんとかしてたけど。


そんな事を思い出しながら、歩いて最寄り駅の天養駅まで向かっていた。


肩にぶつかりそうなサラリーマンさんの通勤も邪魔しなかった。なぜなら、おかしら一味を使って身体に覚えさせた、躱しても反撃しない方法、名付けてストロング0を有効に活用したからだった。


やはり亀は良い。コックローチとは訳が違う。僕は亀派だ。亀のおかしら派だ。また来てくれよ、カメコー諸君。もういらないか。


そうやって死傷者0を達成し、駅に着いた。


僕はやれば出来るんだ。


……なんか違う風に聞こえるな……。



まあいい。


そうして待ち合わせ場所に向かう。


自由像前で待ち合わせね! と未羽のメッセには書かれていた。自由像……確か駅前広場の卑猥な銅像のことだったはず。


勇者にエロと芸術の違いは通用しない。


そして15歳のイマジンを舐めるなよ。

あれは卑猥だ。必ずだ。


長い髪をした全裸の少女が、跪き、両手で尻たぶを掴み、広げた彫像。に、自由とな。


ファンタジー歴五年の僕をもってしても芸術の意味はわからなかった。卑猥としか……異世界すぎる。


もっとも、召喚前は気にもしなかったけども。意外と溢れてるんだな、この国。あ、ほらここにも裸婦像が。


アレフガルドでそんなモノを公共の場所に建てようものなら大教会に討伐されてしまう。そう言う意味では、あちらの公共の場での貞操観念は割と厳しかった。その反動か、娼館は多種多様な趣きに溢れていた。



そうしてたどり着いた卑猥像の前で屯している、愛香と未羽と朋花に……聖と瑠璃ちゃん? 登校を待ち合わせるくらい仲…良かったっけ?


しかも愛香と未羽がギャル化した姿だった。


なぜに? 


朋花と聖は記憶そのままだ。


そして瑠璃ちゃんがまあ、元気。


「京介くぅーーん! おっはよぉーー!」


声、朝からおっきいなあ。近くのサラリーマンとかビクッとしたじゃん。まあ、元気なのは良い事だね。離れているから手を上げ応えて近づいた。


「おはよう、みんな」


「京ちゃんボーン!」

「ちょりーす、兄さん」

「お、おはよ、き、京ピ」


…ギャル三人から朝の挨拶を受ける。この三人には姿なり言動なりツッコミを入れるべきか…


三人ともスカート丈は短く、靴下が見たこと無い厚みをしていた。ローファーに覆い被さっているほどに…なんかそんな魔物、ユーリンゲンにいたな… そんな靴下売ってるの? 暑くない? 寒冷地装備だよ? それ。


そんな事を考えていたら聖と瑠璃ちゃんが声を掛けてきた。



「きょんくん、おはよう。一緒に行くわよ」


「瑠璃もねー。よろしくー!」



あれ? 聖はそれでいくの? 昨日はひーちゃんはやっぱり止めて、って言ってなかった? こっちもひーちゃんって呼んだほうが良いのかな。いや、これは…



「…きょんくん……? 何、聖ちゃん、まだ諦めてなかったの? それに瑠璃ちゃんまで…わたしに対してなめぷじゃね? ウケる」


「あ、いたの愛香。わからなかったわ、そんな格好……何? グレタ?」


「ポーズなのは認めるし、グレてないけど…まあ、飽きさせない工夫? っていうか〜? ね、京ちゃん? スカート? ちょっち短く? したよ…ね? 尊い?」



大変お似合いですとも。この聖に対する悪ぶった背伸び感、見たことのない髪色。少し頬を赤らめながらの辿々しいギャル初日の恥じらい演出……天才かな?



「…なに、その余裕な態度…腹立つ。あ、そうだ。私、昨日きょんくんとお馬───」


「あー! 似合ってるよ! 愛香…可愛いよ」


「ん〜京ちゃん、だいしてる!」


ひーちゃんの話をインターセプト! 朝っばらから言わせないよ! 何? だいしてる?


「そだよ、わたしだって土曜日さ───」


「あー! 似合ってるよ! …未羽も。でもどうしたの、その格好?」



瑠璃ちゃんの話もボールカット! そして僕はそのままドリブルして未羽にパスをする!

ヘイ、パス!



「愛香にいろいろ聞いたの。今までのこと。工夫とか。私には無かったものだから、勉強ちょべりぐ」


「……そ、そうなんだ」



……ダメだ。アレフガルドの言語すらマスターした僕だけど、多分ギャル語だろうけど、正解なのか誤用なのかもわからない。正解だったとしても意味はわからない。


ギャル語か…元世界は本当に異世界すぎる。


それに、愛香はいつもの事だとしても、この変に気真面目な義妹の突飛な行動に何もせずに応援すべきか、正すべきか…お義父さんに何と言えば…あ、言えない事だらけだった。


ま、いっか。


聞かれるまでは置いておこう。


言動はともかく、まあ可愛いし。髪はメッシュ、だったか。大きめに左右に二本入れていた。



「未羽ちゃんさ〜、さっきから言ってるけど語彙力」


「何よニーツ、文句チョベリバ?」


「……」


やっぱり義妹だけニュアンスが違うような…まあ、あまり詳しく無い上に、元世界をまだ5日。ギャル世界五分。流れに身を任せよう。


僕は学んだんだ。



「………ま、まあ。みんな。そろそろ電車乗ろう。学校行こう」


「うん…京ピとあーし、ずっしょだし!」


「京ちゃん、わたしもずっしょ〜」


「兄さん、あげみざわ〜」



…多分うちの義妹だけ、ギャル/レベル1だな。…後でやっぱり止めよう。


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