人救いクエスト
勇者の特技
雨の日曜日1
| 藤堂 京介
日曜日、朝7時。
時計はパチパチと薄目で確認した。
カーテンを透る光の少なさと、しとしとと降る雨の音にベルクァヘンプ自治区での雨季の始まりを思い出した。そう、あのミルク100%風呂のあいつだ。
昨夜も例のごとく、拘束の魔法をかけ枷をかけ就寝した。だから凄惨な現場にはなっていない。なっていないんだけど。
目覚めた僕を見下ろす人影が二つ。兄妹二人暮らしの家に、なぜか2名立っている。ホラーかな?
「ね、固まってるでしょ?」
「本当だ!面白い。ありがとう未羽ちゃん」
「ふふ、いいの。ちょっと愛香の気持ちわかるし」
愛香………?人影は未羽と愛香だった。いつの間にか仲直りしてた……?固まる……?ありがとう…?気持ちがわかる…?
「ごめんね〜朝早くにワガママ言って」
「幼馴染の朝の目覚ましイベントよね。いいよ、やって。した事なかったんだ。意外〜」
「……未羽ちゃん?それわざと?」
「何のことかしら」
「ふーん。まあ…いいよ。中学の時の話はやめとこ」
「そうね」
……宿屋の小さな女の子がしてくれてたやつかな?『勇者のお兄ちゃん起きて〜』…あれは…どこだっけ。
「京ちゃん、朝だよ!起きて〜でも起きなくていいよ〜…早く起きないと〜……」
「兄さん、朝よ、起きて。むしろ起きなくていいわ。……早く起きないと〜…」
確かルートニア、違うなルー、ルー、ルートのあ?違う。ル、ルー、ルー…
「「イタズラしちゃうから!」」
あ! ルーニノアだ! ルーニノアの街だ。懐かしいな、ぁっ! ……そうそうルーニノあっ! だ、 あの子元気かなあ"ぁッ!
◆
青い傘を差し、目的地を目指し、街を歩く。雨足は弱く、足下は気にならない。ガーデン用のレインブーツは、オリーブグリーンでお気に入りだった、はず。それより何より雨なのに魔法要らずで、便利過ぎてむしろ怖い。
アレフガルドの雨具といえば、外套一択だった。それしかなかった。足下や服がぐちゃぐちゃなのが堪らなく嫌だった。嫌だからと魔法をアレンジした。そんな事を思い出しながら、僕はファミレスに一人で来ていた。
今朝の侵入者達は仲良く僕のベッドで寝ている。本当に仲直りしていたようだ。しかし、愛香までおにぃ、おにぃ言ってたのは何故だろうか。
しかし、日曜日とはいえお昼だと言うのにまだ寝ている。けしからん。僕を起こしに来たのではなかったのか。まったく。勢いあまって違うミルク100%にしてしまったではないか。まったく。けしからん。回復魔法はナシだ。
まあいい。僕にはこれからしなければならないことがある。
さあ、現代の科学、その叡智の結晶よ。僕の前に姿を現せ!
「お、お待たせしました!、チージュINハンバーグ、ライスセットになりましゅ!」
「あ、ありがとう…?」
バイト、初日かな?店員さんは真っ直ぐした黒髪を小さなポニーテールにまとめ、華やかな佇まいの可愛い美人な女の子だった。
奥のテーブルからくすくすと笑い声が聞こえてきた。嘲笑うような、見下すような笑いではなく、親友の面白い様子が見れてほっこりしたような、そんな親愛を含んだ笑い声だった。
「またあがってるな」
「
その座席には二人の女の子がいた。どうやら友達みたいだ。少しハラハラしたような感もある。心配して見に来たのかもしれない。
「では。いただきます」
ついに、きた。この15歳の身体の求めるままに、駅近くのファミレスにハンバーグを食べに来たのだ。向こうにもハンバーグはあった。だけど、濃かった。駄目だった。だから気も抜けなかった。だというのにこちらではお腹への安心感がまさに、別格。
ああ、これが洋食。
本当は食べたかったんだな。
◆
「これが、科学か」
なるだけゆっくりといただき、現代に慣れるように味わう。懐かしさで満たされる。もう殺伐とした生活は終わったのだ。これからは普通の高校生活を……あれ?普通ってなんだっけ……?まあいい。目標などはこれからゆっくり決めれば良いのだ。モラトリアムだ。
朋花との約束もあるし、差し当たっては葛川達だな。とりあえず絹ちゃんとはるはるが調べてくれるようだから連絡を待とうか。
……面倒だな。
これが魔獣討伐クエストだとしたら一日。魔族から街を救うにしてもだいたい三日。なのになぜあんな小物に時間をかけねばならないのか。
……あ、討伐したら駄目なのか。
ややこしい貴族相手はどうしてたっけ。最初の方は確か、いろいろ思案して落とし所を探したりしてたけど、少ししたらアートリリィが仕切りだして、だったか。
それからはだいたい、さあ勇者様、今こそ悪に鉄槌を!みたいに最後のシュートが多かったからなぁ。だからそこに至る流れが具体的にはわからなかったけど、瞳の色を見て、まあ良いかと思って斬ってきた。あれ?
……もしかして、僕、脳筋?
そういえばそれから、たたかうしか選んで来なかった。
どうしよう。
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