魔法使い2

| 三之宮 聖



「…こんな事、本当は言ってはいけないとは思うのですけど」


「待って待って、京介くん脅す気!?」


「多分、京介さん呼び出せます、よね」


「たはー、言っちゃったー!わたしも思ったけどさ〜」



照明をつけた詩乃うたのがぽつりと切り出した。すかさず琉璃が先を読んで反論した。


強力なカードが手に入った。多分みんなそう思ってしまったのだろう。

あんなに不思議な事が起きたのに、頭の中は京介君のことしかなかった。


高校に入ってからの京介君と愛香との別れ、確執。暴行。そして魔法。


だけど、私は引き締める。今日の出来事が衝撃的すぎて、みんな暴走するかも知れないから。



「みんな。今の気持ち、軟着陸させましょう」


「え?」

「聖ん、どうゆー意味?」


「いまみんなは興奮してるけど、妄想を滾らせても個々バラバラになるとアドバンテージが消えるわ。だから、魔法使いカードは使う。けど京介くんを脅したいわけじゃない。だからあくまで京介君が自発的に円卓のみんなに近づいて来るように使う」



「できるかしら?」

「なあ?」



「あくまで方針よ。そもそも、これは京介君がCGとか合成とか否定してしまえば消えてしまうくらいのカード。ましてや脅しても心象が悪くなるだけ。みんなに間違って欲しくないのは、私達が小さな頃から望んでいることは京介君とのアオハル、胸キュン。だから魔法使いは一旦置く。だいたい京介くんが魔法使いだろうが、勇者様だろうが、私達の気持ちは変わらない。私はそう。みんなもそうよね?」


みんなの目を見渡して聞く。みんな黙って頷いてくれた。これならまずは暴走しないだろう。



「真面目な顔で胸キュンゆうな」


「だよね。聖んの面白いとこだけど。でもそれ本心だし」


『ご主人様ですっ!』



純と瑠璃と奈々が茶化して私の出した真剣な空気をいい意味で良くしてくれる。奈々は魔法使いであっても勇者であってもご主人様なのだろう。


ホッと一息着いた時、タブレットのなかの未知瑠みちるがバッと立ち上がり、カメラから離れて踊り出し、綺麗なターンを決め、歌いだした。


『〜わたしのかれは、まほうつかい〜♪』


「まだ彼じゃないだろ!」

「浮かれてますわね」

「気持ちはわかりますけどね」


横に座っていた琉璃も立ち上がり歌い出す。こちらも振り付け付きだ。実は一番身体を動かすのが得意なのが琉璃だった。キレが違う。スカートからパンツも見える。


「こいのまほうに、いっぬっかぁれて〜♪ん〜♪」


「繋げるのかよ」

「ルーリー、器用だから」

「相変わらずキレッキレッですわね」

『アイドルでもなかなかいないよ』


すかさずリリララがハモる。相変わらず阿吽の呼吸だ。小学生の時と違い、オドオドとした態度では無くなっていた。きっと恋のおかげだ。


『『こころに、あいのひーが、ともる〜♪』』


「うわ、ハモりすごい!」

「タブレット二台でハモるとか意味わかんない」

『皆さん上手です〜』

「なんで即興歌詞なのにハモれるんだよ」


放っておいたらいつまでも続きそうなテンション上げ。まあ、私もそうだけど!比喩じゃなくキラキラしてるなんてずるいよ、京介君…。すき。



「でも、本当に綺麗でした……効果は別としても、私にもかけてくれないでしょうか。あたまナデナデ。ひかりキラキラ…」


「そうですわ!どうすれば頭をナデナデしてもらえるのかしら…小学校以来撫でられてもらえてませんのにっ!」



詩乃はトリップして乙女が見せてはいけない顔をしていた。エリカは過去の自分に文句をつける。私もかけて欲しい…まあ、全員か。



「つーかさ。…永遠とわに会わせた方が良いんじゃね?」



純が出した提案。浮かれていたみんなが、瞬間我に帰る。ここにはいないかつての仲間のことをみんなで思う。



「わたしはっ!…反対かな」


「京介くんが気に病むかもしれませんしね」


『そう、かも…』



琉璃はすかさず反対するが、葛藤もあるのだろう。言ってみたけど後悔していた。そんな感じだ。みんなも思い思い口にした。


「け、どさ。俺、ずっと心配でさ。あんなんなっちまってからここにも来なくなってさ。あんなに頑張ってたのに。みんなも永遠が一生懸命なの知ってただろ」



それはそうだ。一番の頑張り屋なのはみんな知っている。だから折れた時の反動が大きかったんだろうと、みんなそう思っている。



「またみんなと俺は一緒がいい。笑いあって、愛香の文句言って。ブラコンにも腹立てて。そこに永遠もいたじゃん」


「純…」

「絹子さん。今の永遠さんはどうされてますの?」

「ギャルみたいなヤンキー。強面と付き合ってる」

「ほら〜ほっときゃいいじゃん。もう円卓抜けたんだよ、きっと!」

「それは!あんなことがなきゃあいつは…」


私はこれ以上は議論させたくない。みんな永遠が離れた理由はあの事故だと思い込んでいる。


私は違う。永遠は円卓のみんなから離れるために事故を利用したと確信していた。


あのサイコパスがそんなメンタルしてるわけないじゃない。



「……今日はここまでにしましょう。永遠の件、絹子に任せましょう。絹子、頼めるかしら?とりあえず、方向としては私と琉璃がきっかけを学校で作るわ。都度変更があるかもだけど、こまめに円卓チャットで連絡する。純も。いい?」



永遠の本心は揺らいでなんかいない。絶対にあいつは心変わりなんてしない。身体がへし曲がろうが、目的を達成させるためには手段を選ばない。


だから永遠とわとは永遠に分かり合えない。だからここにも来なくなった。ぬるく見えたのだろうから。私のアオハルと永遠の妄執。相容れないわ。



「…わかった」


純も可哀想に。

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