禁断の恋2 - 遭遇

| 藤堂 未羽




昼休み。あの動画はついに学校中に浸透していた。1-Cの誰もかれもが小声でヒソヒソしていた。


この分じゃあ京介は呼び出されるかもしれない。動画でモザイクがないのは京介だけだったし。


由真と響子と一緒に食堂に行く際に1-Aを少し覗いてみた。


多分、葛川くすかわの狙いは愛香をぽつんとボッチにさせて、向こうから媚びてくる、みたいなストーリーだと思う。


無駄なことを。


相手はあのサイコパス愛香だ。そんなメンタルなんてしていない。そういう点では信頼していた。


ただ、流石に肉体的なイジメがあれば見過ごせない。腐っても、いや、腐り落ちたとしても京介の幼馴染なんだから。


三人で京介を廊下側から探してみた。


私は愛香も探す。



「…居ないわね」


「やっぱり居づらいのではないですか?」


「もしかしたら食堂かも」



あれだけ昨日はケロっとしていたから普通にコンビニかと思ってたけど、やっぱり食堂かも。愛香はもしかしたらトイレか、校舎裏か。いや、ないか。



「まあ、心配しても仕方ないわ」


「本人がいませんしね」


「あー京介くんを癒したいよー」



「わたしもです」


「三人でね」




| 葛川 翔



「っち」


「くっすん聞こえるって」


「…ちゃんと情報封鎖してたんだよな?」


「それは間違いないよ」



昨日の動画は成瀬愛香には流れないように慎重に事を運んだつもりだった。


何も知らない成瀬愛香が、周囲の小声の合唱によって不安を大きくさせ、俺以外の連中が冷たく当たることで俺だけだと無意識に刷り込む日が、今日だった。


仕込みが空振りしそうでつい舌打ちが出ていた。


今はもう昼休みだ。未だに成瀬愛香は来ていない。メールもSNSも反応しない。


昨日はやり過ぎたのか?藤堂京介をそこまで大事にしていなかったはずだったが、違っていた?


これでも時間をかけて調査したのだ。あまりに関係のないやつとコラボ動画を出してもさして罪悪感は刺激されない。


その点では幼馴染の藤堂京介が一番適任だった。よれた制服にぼさっとした髪の陰気なやつ。


同中の奴に聞いたところ中学3年の時には成瀬愛香とはすでに疎遠になっていた、という話しだった。


だいたい幼馴染なんてその辺にゴロゴロ居るんだから、大袈裟に考える方がおかしいだろ。


その藤堂京介も休んでいた。


流石にやり過ぎたか。最後の一撃で沈めたのが随分効いたか。今まで絡んだ奴らの中じゃ、体力もあり、根性はあった方だと思ったが、見込み違いか。


成瀬愛香が見ていないところで、かなり痛めつけていたからな。


成瀬愛香は藤堂京介に何の感情も持っていなかったが、藤堂京介は違った。


確実に恋慕していた。それに気づいて腹が立ち、いかに成瀬愛香が俺に惚れてるかを刷り込んでやった。


シモに頼んで作った適当なコラ画像を見せながら。


あの情け無い表情は傑作だった。画像をばら撒くと脅せば簡単に呼び出しに応じ、殴っていた。昨日もそれだ。


これは計画の見直しか…うん?


「あれは…」


「あーCのトップ女子三人組だね。かわいい」


「アイドルでも売り出せそうじゃん」


「それな」



たしかに。一人一人見れば成瀬愛香に及ばないが、三人集まると随分と華やかだ。


シモが各々教えてくれる。



「誰がタイプ?俺カチューシャ」

「狭川響子ね」


「俺は黒髪ボブメガネ」

「浅葱由真ね」


「俺は…真ん中だな」

「流石くっすん」


「何が?」


「あの子がランキング3位の藤堂未羽だよ」



確かに。左右二人よりあたま一つ出ている。自分の魅せ方をわかっている歩き方だ。



「3位か…まてよ?藤堂?」


「あーこっちの藤堂とは関係なかったんじゃね?」


「同中だけど、転校生だったみたいだしな」


「同い年だと普通双子だしな」


「まあ、全然似てないか。兄妹なら面白い事が出来たのにな」



身内がエサなんて、ボーナスタイムだ。

お互いを庇う兄妹のキズナ…を普通にぶち壊す愉悦…いかんいかん。



「…よし、一旦愛香は置いといて、行くぞ」


「はいよ、リーダー」


「いいじゃん、いいじゃん」


「それな」



とりあえずちっと粉かけとくか。







私達は食堂の四隅の端の方で食事を終え、食堂内を見渡していた。



「そう言えば気になっていたのですが」


「何?」


「京介さんと成瀬さんは結局今はどうなっているのですか?」


「どーもこーも。最近見る限りじゃ、まだ京介が追いかけてるように見えてたけど、昨日の件でどんな心境なのかは」


「そうですか」


「そうなんだね」



昼休憩も半ば、京介は食堂にもいなかった。まあ、慌てない。今日の私は心に余裕があるから大丈夫なのだ。



「それにしても…あんなにお似合いでしたのに」


「湊小の王子と姫、だよね。懐かしい」



「ちょっと」


「あーごめん、でもちょっとくらい浸らせてよー」


「私と由真はいつも木でしたから」



この二人は、男女を見てカップリングを妄想するのが趣味だった。元々私も根暗だから根本は理解できるが、そのカップリングはダメ。



「木からはキラキラして見えてたんだよー」


「思い出補正もあるでしょうけど」



「京介くん格好良かったなーって。…もちろん今も、その、素敵だけど」


「ええ。こんな事言ってはダメなんでしょうけど、未羽が友達になってくれなければ当時は近づくなんてっ!そんなことっ!わたしっ!どうなっちゃうの!…みたいな心境でしたから」


「少女漫画読みすぎ」


「いいじゃないですかっ!」

「そうだよっ!」



この二人は王子様系少女漫画のことになると急に推しが強くなるのだ。はー、やれやれ。



「やれやれみたいにしてるけど、だいたい、未羽の本棚の方がやばいからね、京介くん引くからね」


「…私も人のことはあまり言いたくありませんが、未羽さんのはその、ガチっぽくて…その」


「なんでよっ!いいじゃない、禁断の恋!」


「ぇえ〜」

「ぇぇ…」


「何よ」



「ま、まあ、現実は現実ですし…」


「そうそう現実にそんな事…ね?」


「……」



本当に二人はわかっていない。至高とは障害を乗り越えた先にあるのだ。ただの平凡なボーイミーツガールに価値などないのに。わかってない。やれやれ。


ふと、ふいに、声をかけられた。



「ちょっと良いかな?」


「誰?」


「あれ、俺知らない?葛川って言うんだけど」



そうそう、こんな平凡な押し売り営業ボーイミーツガールなど。


価値なんてないない。

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