第6話 対面
落ち着いて話をする為に一階にある和室へ移動する。
実親だけ全員分のお茶を用意する為に台所へ向かった。
トレイに麦茶の入ったグラスを載せて和室に移動すると、四人はテーブルを挟んで腰を下ろしていた。
実親はトレイをテーブルに置くと、空いている座布団の上に腰を下ろす。悟の隣だ。
悟の対面に皐月が、実親の対面には千歳の妹が座る形となった。
そして千歳は長方形テーブルの短辺に当たる場所に腰を下ろしている。実親と妹の斜めで、所謂お誕生日席だ。
「では、改めて自己紹介でもしようか」
「そうしましょう」
悟の提案に皐月が賛同する。
実親と千歳がクラスメイトというまさかの展開に驚きや興奮が場を占めていたが、なんとか事前に打ち合わせていた段取りに軌道修正しようと二人は目配せしていた。
まだ夫婦になっていないが、既に阿吽の呼吸である。
そして各々自己紹介していく。
実親以外の四人は既に何度も交流を重ねているので、主に実親に対しての自己紹介だ。
悟の再婚相手である女性の名は
彼女は穏和な性格が垣間見える柔らかい表情で「よろしくね」と挨拶する。
千歳の妹の名は
相対していると自然と表情が柔らかくなるような天真爛漫な笑顔で、「よろしくです!」と元気よく挨拶する姿が微笑ましい。
「私のことは知ってるし飛ばしても良いでしょ」
最後に残った千歳は顔見知りなので名乗る必要はないと言う。
「そうだな」
悟と皐月も構わないと頷く。
「それにしても二人がクラスメイトだったなんて本当に驚きね」
「全くだ。世間は狭いな」
互いの連れ子がクラスメイトだったという事実に奇跡的な巡り合わせだと、皐月と悟は感慨深そうにしている。
「寧ろ何故親父は気付かなかったんだ?」
実親の疑問は尤もだ。
悟は何度も千歳と会っている。
自分の息子と千歳の通っている高校が同じだと気付ける機会はあった筈だ。
「そういえばどこの高校に通っているのかは聞いたことなかったな……」
「確かに千歳が制服を着ている時には悟さんと会ったことないわね……」
悟は千歳に高校生活について尋ねたことはある。だが、通っている高校の名を耳にしたことはなかった。
皐月も娘の制服姿を悟に見せたことはなかったと思い至る。
「漫画みたいにクラスメイトと兄妹になって恋に落ちる展開とかある!?」
瞳を輝かせている咲綾が期待と興奮を内包した表情で、千歳と実親の顔を交互に見つめる。
「何言ってんの」
「いたっ!」
千歳が咲綾と頭を小突く。
「漫画の読み過ぎ」
「えぇー」
唇を尖らせて抗議の眼差しを向ける妹の姿に、千歳は溜息を吐いた。
「あら? 私は応援するわよ?」
「母さんまで何言ってんの……」
皐月は自分の娘と義理の息子になる二人が交際しても構わないと言い出す。
千歳は一層深く溜息を吐く。普通は世間体を気にして反対するところだろうと思った。
「魅力的な話だけど、万が一喧嘩別れでもしたら面倒なことになるよ?」
実親は咲綾に優しく語り掛ける。
脱色している金髪からわかる通り千歳はギャルだ。
派手な見た目とフレンドリーな性格も相まって誰とでも分け隔てなく接し、人気者でクラスの中心にいる女子である。
男子からの人気も高く憧れている者も多い。
紫苑と同じで学園の美少女の一人に数えられている。
実親にとっても千歳と交際するのは魅力的な話だ。
性格良し、顔良し、スタイル良しの千歳相手に魅力を感じない男などいないであろう。
「確かに……お姉ちゃんとお兄ちゃんがぎくしゃくするのは嫌だな。気も遣うし……」
円満に別れれば問題はないが、必ずしも円満に終わるとは限らない。仮に喧嘩別れでもしたら家族にも迷惑が掛かるだろう。
咲綾は姉と兄が別れた際のことを想像して辟易する。
実親はお兄ちゃんと呼ばれたことに心を鷲摑みにされ、咲綾に対する好感度を密かに急上昇させていた。
「ふーん、魅力的な話なんだ?」
「ん? そりゃそうだろ」
「そんな恥ずかし気もなく即答されるとは思わなかった……」
千歳は実親が魅力的と言ったことに対して揶揄うつもりで問い掛けたが、予想外にもすぐさま肯定され、逆に自分が照れる羽目になってしまった。
赤面した顔を隠すように背けてしまう。
「ふふ。仲良く出来そうで安心したわ」
娘達のやり取りを見守っていた皐月は微笑みを浮かべる。
連れ子同士が仲良く出来るかは再婚する上では避けて通れない課題だ。
その点、三人は上手くやっていけそうだと安堵した。
「そうだな」
悟も首肯する。
「それにしても、よく皐月さんみたいな美人がうちの親父を選びましたね」
「おい」
腕を組んで頭を傾げる実親は疑問に思っていたことを呟く。
悟は息子の言い様に苦笑し肘で小突いた。
「あら、美人だなんて実親君はお上手ね」
頬に手を当てて微笑む皐月は殊の外嬉しそうだ。
皐月は目鼻立ちがはっきりとしており、実年齢よりも若く見える。
服の上からでもわかる主張の激しい胸部と臀部。
男なら自然と視線が行ってしまう美女だ。
「親父には勿体無い」
実親はこれと言った特徴のない父が良く射止めたものだと感心し、数度頷いた。
「ふふ。悟さんは素敵な方よ?」
皐月はすらすらと悟の魅力を述べていく。
「真面目で誠実、何事も一生懸命取り組む努力家で、人を気遣える優しい人。何より、私のことを大切にしてくれるもの」
「皐月さん……」
皐月の言葉に悟は照れ臭そうに笑みを浮かべ、互いの右手をテーブルの上で絡ませて見つめ合う。
「二人の世界に入っちゃったじゃん」
見つめ合う皐月と悟の姿に呆れた千歳は溜息を吐いて苦言を呈す。
「ママ達は本当にラブラブだよね」
幸せそうな母が自分のことのように嬉しい咲綾は笑みを深める。
「娘の前でくらいは遠慮してほしいけどね……」
「なんかすまん……」
自分達の前でイチャつくのは勘弁してほしいと肩を竦める千歳に、全く同じ気持ちになった実親は藪蛇だったと気付き申し訳なくなった。
満足するまで悟と見つめ合った皐月が口を開く。
「改めて、これからよろしくね。実親君」
「よろしくね、お兄ちゃん!」
皐月が流麗な所作でお辞儀をし、咲綾は笑顔を向ける。
「ま、とりあえずよろしく」
千歳は複雑な心境であったが、母の幸せそうな表情を見ると空気を壊すことは出来ず、照れ隠しなのか髪を掻き上げながら言葉を紡いだ。
「こちらこそ父共々よろしくお願いします」
実親は皐月に向けて会釈する。
「ふふ。確りしているわね」
実親の対応に感心した皐月が微笑む。
「一先ず挨拶はこの辺にして、家を見て回りますか」
「そうね」
悟の言葉に皐月が頷く。
今回皐月達が来訪した目的は顔合わせと、家を下見することだ。
これから暮らすことになる家の内情を把握することで、転居する際に必要な物、不要な物を分けて荷造りすることが可能だ。
また、事前に各自の部屋を決めておくことで荷運びもスムーズに行える。
「それじゃ案内しよう」
悟が立ち上がり、一同を先導するように歩き出す。
「俺は部屋にいるよ。何かあったら呼んでくれ」
実親は部屋に戻ることにした。
全員で行動を共にしても邪魔になるだけだ。なので自分は遠慮しようと思った。
その後、実親は部屋に戻り、女性陣は悟の案内のもと家の中を見て回った。
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