【R-15】悩み相談 5月13日②

 ちゅっ……ちゅっ


 杏梨はそのままそうたにキスされていた。


 いつの間にかそうたが近くにいて、抱き締められている。


 流されない……。


「っん、そうた、金田さんに頼まれたの?」

 キスの合間に顔を背けて杏梨は聞いた。


「うん、金田さん、しばらく杏梨に会えないからって」

 背けた顔に手を添えられて再びキスされる。


「電話かけても出ないし、なに言っても大丈夫の一点張りだし、これは大丈夫じゃないなと思って。甘えさせにきたよ。杏梨ちゃん」

 口許で囁くそうたの息が杏梨の唇にかかる。


 そうたの唇は杏梨の唇を飲み込んだ。舌が優しく吸われる。杏梨を抱き締めるそうたの手が、杏梨の身体を優しく撫でる。


 杏梨はもう抵抗しなかった。もう抵抗したくなかった。



 くちゅっ、ちゅっちゅっ

 静かな音が部屋に響く。会話はなかった。


 気持ち良さで杏梨の目がとろんと落ちてから、そうたはキスの合間を作り、杏梨の頭を優しく撫で、ほっぺたや頭にキスをした。


 そして、また深いキスを繰り返す。


 何度それを繰り返しただろうか、杏梨はようやく話し出した。


「……金田さんていつも金田さんでぶれないの。私にも媚びない、ペースを乱さない」

「うん」

 そうたは話を聞きながら、杏梨の頬や首にキスをする。


「でも、私は……自分に自信がなくてだから頑張って、メイクして、走って」

「うん」

 頬を撫でる。


「自信がないから努力して、見た目だけでも自信持てるようにして……頑張れは自分を好きになれる気がして……」

「うん」

 潤んできた杏梨の目元にキスをする。


「でも、そんな嘘でごてごての私なんて金田さんは好きになってくれない!

 ありのままの自分を好きになって欲しくて、ありのままの自分になろうと思ったけど、なれないの。もう自分がわかんない」


「それで1人で悩んでたの?」

 杏梨はこくんと頷いた。


 そうたは杏梨の身体をゆっくりとソファーの上に押し倒した。杏梨の胸元に顔を埋めながら聞く。


「それで、杏梨はどんな風にありのままの自分になろうとしたの?」

 そうたの身体が杏梨の身体を温かく包む。


「えっと、好きなだけケーキを食べようとしたら、食べられなくて結局走りたくなっちゃって、

 だらだらしようとしたら、結局ヨガして本を読んじゃって、

 料理も自分の好きなもの作ればいいのに、金田さんの好きなもの練習しちゃって」


「……っ、うん」

 心なしかそうたが震えている気がしたが、杏梨は気にせず続けた。


「メイクも……仕事中はやっぱりちゃんとしなくちゃだし、休日もすっぴんはなんか嫌で結局しちゃって……

 気づいたら新色の口紅見ちゃってるし。

 スキンケアもさぼったら、後々後悔しそうでこわいからいつも通りやっちゃったし。


 なんか全然ありのままの自分になれなくて、もう自分が何が好きかもわかんないの!


 金田さんはいつもマイペースでそのまんまでそんな金田さんが好きなのに。私は金田さんみたいに自分のままでいられないよ!」


 杏梨は恥ずかしい胸の内をさらけ出した。

 そうたは、杏梨の胸の上で思い切り震えていた。


「そうた?」

「っくくっ、杏梨、ぶぶっ……はははっ」

 そうたは思い切り笑っていた。


「何で……笑うの?私真剣に悩んでるのに!」

 杏梨は顔がかぁーと熱くなるのを感じた。


 こんなこと誰にも言わないのに……


「杏梨、

 おばかちゃんで可愛すぎて……やばいっ」

 そうたは杏梨の口に思い切りキスをした。

 そのまま深くしていく。


 杏梨はそうたの身体を押し退けようとしたが、軽く体重をかけられて動かなかった。


「……そうたぁ」

 キスの合間に杏梨が悲しそうな声を出すとそうたは口を離してくれた。


 そうたは杏梨の目を見ながら、諭すように言葉を紡ぐ。

「ありのままの自分って……、ついつい頑張っちゃう杏梨もそうだよね?


 見た目きれいでありたいのも杏梨の気持ちでしょ?

 結局メイクもスキンケアも好きなのは杏梨だし

 料理好きなのも杏梨自身

 身体動かすのも好きでしょ?

 ずっと頑張ってきたから、ちゃんとする癖も抜けなくて、それも全部杏梨だから、無理に変わらなくていいんだよ?

 金田さんのことが大好きで、好かれたくて頑張っちゃうのも杏梨自身の意思だよ。杏梨がそうしたいからそうしてるの。

 金田さんはちゃんとそんな杏梨もみてるし、そんな杏梨だから付き合ってるんじゃないかな?」


 そうたの手が杏梨の頭を撫でくりまわす。


「無意味な自分探しして、中二病かっ!賢いのにおばかちゃん過ぎて可愛すぎて、俺が辛いよ~」


 そうたはまた笑い始めた。


「えっでも、私、自分に自信なくて……こんなんじゃ金田さんに……」


「自信がないなら、俺がつけてあげる。


 杏梨が自分を好きになれないなら、その分俺が杏梨の好きなところ教えてあげる。


 許可もらってるから、遠慮しなくていいし俺もしないよ?」


 そう言うとそうたは杏梨の服に手をかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る