美味しいものは一緒に食べたい 4月28日
金田から連絡が来たのは杏梨が職場でお昼ご飯を食べているときだった。
金田: 美味しい苺大福をもらったが食べるか?
スマホに出たメッセージに杏梨の心が踊る。
わーわーわー!金田さんから連絡きたよーー!!嬉しすぎる!
杏梨: いちご大福大好きです!
思わず、金田さん大好きです!っと打ちそうになったが思い止まった。
金田: 仕事終わりに届ける。家の場所教えてもらえるか?
お家に来てくれるのーーー!?初めてだ!
高なる胸の鼓動をききながら、杏梨はそっこー家の住所を返信した。
その日杏梨は仕事を素早く終わらせて定時に上がった。早く帰って部屋の掃除をしたり、万が一食べるかもしれない夜ご飯を用意するためだ。
急がないと。仕事っていつ終わるのかな?
何が好きだろう?
どんな格好で待ってたらいいのかな?
帰り道は自然と早足で歩いていた。
買い物を済ませ、
念のための夕御飯を作り、
部屋を念入りに掃除して、
一旦お風呂に入り、
念のためのボディチェックをして、
可愛い部屋着を着た。
メイクは薄めに仕上げてすっぴん風にしておいた。
夕御飯は定番だが和食。外食が多そうな金田には家庭料理が良いかと思い、肉じゃが、ほうれん草のごまあえ、お味噌汁、ひじきの煮物、れんこんのきんぴらごぼう等定番を用意した。
部屋着は前開きチャックのパーカーにキャミソール、下はショートパンツ。
靴下はもこもこでパーカーもやわらかい素材のものを選んだ。金田も思わず触りたくなるかなと思ったのだ。
脚も普段はショートパンツは金田の前で履かないので、思いきって肌見せしてみた。
こういう時のために、日頃からスクワットやストレッチを頑張ってきたかいがあるというものだ。
かれこれ20時位から杏梨はずっとそわそわしていたが、金田から【遅くなってごめん、今から向かう】と連絡が来たのは22時だった。
ピンポーン
がちゃっ
「金田さんっ!!」
杏梨はそのまま飛び付きそうな勢いでドアを開け満面の笑みで金田を迎えた。
「杏梨遅くなったな。じゃっ、これ生ものだから早めに食べてな」
小さな紙袋を杏梨に手渡して金田はそのまま踵を返して帰ろうとする。
「えっ!もう帰っちゃうんですか?」
杏梨は思わず金田のスーツの背中に手を当てた。
「もう遅いし明日ちょっと早いから」
杏梨の心が暗くなっていく。
やっと会えたのに。寂しい寂しい寂しい……嫌がられるかな? でも……でも……
「いちご大福一緒に食べたいです!一緒に食べましょう?」
背中に当てた手に思いを込める。
すると金田は意外そうに返事した。
「一緒にって……1個しかないぞ? 」
紙袋の中を見ると普通のものより大きめのいちご大福が1つ入っていた。
「半分こしましょう?もう少しだけ……一緒にいたいです」
手でスーツを掴む。
行かないで、行かないで、寂しかった……
「ん……ちょっとだけな」
金田は仕方なさそうな顔をして杏梨の家に上がった。
「あっ、金田さんはお茶何がいいですかっ?緑茶? ほうじ茶? 玄米茶? それともコーヒー? この時間だからカフェイン入ってない方がいいですかね? むぎ茶ですか……?」
こんなに遅くなるとは思っていなかったので用意した飲み物がほぼ全てカフェイン入りだった。誤算だ。
「何でもいいよ」
悩みながら冷蔵庫のむぎ茶を出す。唯一カフェインレスだ。金田の安眠を阻害してはいけない。
紙袋からいちご大福を出した。いちごがつやつやと大きくてとても美味しそうだ。
容器を開けると、ふぁんといちごの良い香りが漂った。
「金田さんっ、これすごい美味しそうです。
いちごがつやつやでとっても良い香りがします~」
「美味しいって太鼓判押されて出されたから、食べずに持って帰ってきたんだよ」
いちご大福を慎重に切る。金田の分は大きめにして、沢山食べてもらおう。
ピンクのガラスの皿に1つずつ盛り付けた。
甘党な杏梨は買ってきたお菓子をお気に入りのお皿に乗せて、気分を上げて食べるのが好きだった。
「おまたせしました!」
大きい方を金田の方に置く。
金田は二つの大福をじっと見つめ皿を置き換えた。
「甘いのすきだろ? こっち食べな。切るの苦手なのか? 」
大福は半分どころか、2対1くらいの切り分けになっていた。
「えっだって金田さんのだから…」
「俺は杏梨に食べて欲しくて持ってきたんだけど、いらない?」
「いえ、いただきます…」
ぱくりと先に食べる金田に続いて杏梨も大福を口に入れた。
いちごっあまっ
いちごの甘味が口に広がる。餅もしっとり滑らかで美味しい。
う~ん、美味しー!!!
思わず顔がほころんでしまう。
ふと金田をみると既に食べ終わり杏梨をじっと見ていた。
やばいっ、アホな顔してたかも?
飲み込み終わってから、できるだけ上品に言う。
「とても美味しかったです。ごちそうさまでした」
その言葉にこくりと頷くと金田は冷たいむぎ茶を一気に飲み干した。
「んじゃ邪魔したな」
すたすたと廊下を歩いて玄関に向かう。
「えっ、もう行っちゃうんですか?」
慌てて後を追いかける。
「明日早いし杏梨も仕事だろ?」
寂しい心など微塵もなさそうな顔で言い放つ。
「あと夜は冷えるんだから脚出すな。寒そうだ」
金田は杏梨の剥き出しの脚をちらりとみてそう言った。
ぱたんっ
そして金田は後ろを振り返らずに帰っていった。
滞在時間約10分弱。
これがしばらく会っていなかった彼女への仕打ち?
他に男作ったことに関して気にならないの?
ほんとは遅い時間に甘いもの食べたりしないんだよ?
自分から指1本も触れてこなかったし、杏梨からも背中を触れた位しか近寄れなかった。
金田さーーーん!かえって寂しいです…
しゅんとしながら杏梨は食器を片付けるのだった。
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