プレオープン【お帰りなさいませご主人様♡】




「…ん、あれ?」


 目を覚ますとそこは先程の通学路では無い場所だった。

いや、正確には見覚えのあるような風景だが来たことは無いとハッキリ言える場所。

人通りもなく静かである。

地面にそっと置かれていた体を起こし少し歩いてみる。外見はキレイめなのだがまるで何年も放置されたかのような電車の駅、一応動いている様子はある。

僕のいた地元には絶対なかった高いビル。横浜や東京を思い出す。

改札のすぐ横に直結してショッピングモールなのか?ビルがくっついている。中に人のいる様子もないので、それには入らず辺りを歩いてみると「アキバハラ」と書かれた駅看板を見つけた。


「…アキバ…ハラ?まてよ、秋葉原じゃなくて?」


確かによく見てみると修学旅行の事前学習で調べた街並みにどこか似ている。


「…修学旅行…あ!僕!修学旅行の日なのに学校へ向かう途中で確かトラックに轢かれて!」


辺りを見回しよく考えてみると、日本語ではあるがアニメなんかで見た近未来的な宙に浮かぶ掲示板。見たことのない道路の車線の区切り…電信柱の無さ。まさか…

「これってタイムスリップ?」


 しばらく辺りをフラフラと歩いていると分かったことがある。ここは僕の知っているセカイの秋葉原ではないのだろう。

まずは、名前もアキハバラではないし。思い描いていたメイドさんのビラ配りどころか、メイドカフェなんて一件も見当たらない。人もいない。電気屋さんはあるけれどやっているのか怪しい。そして、僕の調べて知っている広末町の辺りにはどう見ても…

「えっちなお店…ぶ、ぶるせ…ら…リフレ…でり…へ…」


 ガタッ


そんな…清純可憐なアニヲタの聖地…秋葉原は…ここにないのか…。彼は膝を落とし憧れの頂点から絶望の底まで叩き落とされた。というよりは、高校生には早い大人なピンクの世界に足が産まれたての子鹿なのだ。

更にはそれらの店もやっているのか分からないほどに静かすぎるのだ。


このままでは行くところもなく、訳もわからない世界に取り残されて食べるものもないまま息絶えるのでは無いだろうか。

終わった

人生二回目の終了。死んだことすら本当に死んだのか確証もないが今度は本当に苦しい思いをして死んでいくのが目に見えている。




「あんた、なにしてるわけ。汚らしい」




 背後からツンとして、でもって可愛らしい声が聞こえてきた。

振り向くと赤髪にツインテール、キリッとした目鼻立ち。白いワンピースが映えて、とても美人な女性が立っていた。

「あ、あの!ここ何処なんですか!?今何年ですか!人が全くいないけどどう言うことなんですか!」

余りにも人がいるという安心感とどことなく頼れる雰囲気からどっと言葉が溢れだす。まるでお母さんに会ったかのような気分だ。


「え、ちょ、大丈夫なの?頭おかしい!?え…っと、ここはアキバハラで4058年、そりゃ人が居ないのは法律でアキバハラは一部区域ごと文化財に指定されてそれっきり観光意外は放置だったけど一部に入りきれずに取り残された部分が夜の街として裏で発展していってたんだけど、最近その法律がなんか知らんけど解除されたって感じ?…なに?どこから来たの?アメリカ?韓国?中国?」


 丁寧に答えてくれるが頭にはてなマークがぽっかり浮かんでいる。要するにこの街は夜の街なので昼間はほとんど人が居ないと…更に最近までは人が立ち寄るところでもなかった区域ばかりの様だ。彼女が話していることに嘘はなさそうだしほっぺをつねっても痛いから現実だろう。そうするとかなり未来に飛ばされてしまったようだ。


「ねぇ、もぉいいかしら?とりあえず早く立ち上がりなさいよ。何が染みてるかも分からない街なんだから」


さようならと言わんばかりに手をひらひらとさせて歩きだそうとする彼女がもう片方に持っていた紙を落とした。その紙が風で僕の顔へと張り付いたのだ。


「うわっ…なんだこれ…メ…イドカフェ?え、メイドカフェがここにあるんですか!?」


手からすり抜けたチラシを気づいていなかったのだろう、ハッとした顔で近づいて力強く奪う。


「やめて!返しなさいよ!」


「メイドカフェがあるなら連れて行ってください!行きたいんです!」


「馬鹿じゃないの!?こんなの何千年も昔に無くなってるわよ!保護された店が一店舗形として残ってるだけよ!」


「そんな!!!僕のいた世界じゃ普通にありふれてアキバといったら萌えの聖地!メイドカフェ!なんですよ!!!」


「あほか!いつの話よ!歴史オタクか何か!?そんな古代の話なんてされてもわっかんないわよ!!」


 どうやら本当のようだ。自分のいたあの日本はここでは古代とされているらしい。

でも、ならなぜ彼女はメイドカフェのビラを持っているのか。おかしいのではないだろうか。


「じゃ、なぜビラを!無いはずのものを!」


「れ、レプリカよ!博物館からもらってきたの!」


「え?」


「条例が撤回されたからには、もうすぐこの街は新宿の歌舞伎町の次に大きな夜の街になる。だから今のうちから新しいことを初めて一発逆転するのよ。メイドカフェをこの日本に一店舗しかない【化石】を今ここで復元するわ。お金しか今の私がかけれるものはないの」


真剣な顔と光がない瞳が印象的だった。だから何故か嘘をついた。


「僕、歴史オタクです。メイドカフェに詳しいです!もしよければ力になれると思います!僕も行くところがないし後はのたれ死ぬだけなんです!!本気です!」


一瞬困った顔を見せたがすぐにまた顔が戻った彼女は淡々と、力強く告げた


「私は織田一花、メイドカフェのオーナーになる女よ。貴方の衣食住を保証する代わりに…」








…貴方、妖精になりなさい!





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