第157話 アンデの事情


 ダンッ


 お互いが後ろに飛び退いて距離を取る。


「ふう……」


 今の一瞬の攻防で息をする隙もなかった。やはりこの大魔導士を継ぐ者との戦法は俺と似通っている。大魔導士から継承した力とスピードで敵を翻弄しつつ、敵に的を絞らせずに魔法によって敵を攻撃する。


 訓練をする前の俺だったら、このスピードについていくことができず、こちらの魔法はすべてかわされて、いいサンドバッグになっていたところだった。


 ……というか相手が強すぎるだろ! 相手はまだ全然本気を出していないだろうし、下手をしたら本当に大魔導士の力を超えているかもしれない。中ボスも挟まずにいきなりラスボスを相手している気分だぞ!


「……その力、魔法、戦い方、間違いない」


 ん、なんだ、また質問タイムか? こっちは今の攻防だけでまだ心臓がバクバクしてるから大歓迎だぜ。もう少し息を整えさせてくれ。


「……貴様の師とは大魔導士ハーディだな?」


「……ああ、そうだ」


 まあこちとら先程はサーラさん達に真の大魔導士を継ぐ者って言っちゃってるしな。もう隠すことでもない。


「……くっくっく、ハーハッハッハッ!」


 ……なんだ? いきなり敵が笑い始めた。今の隙に攻撃できたりしないか。いや、先程はかなりの速度であったストーンバレットをあっさりかわしている。おそらく向こうも見切りスキルを持っていると考えたほうがいい。不意打ちはあまり効果はないだろう。


「……はあ。そうか、マサヨシと言ったな。くっくっく、確かに貴様の師は大魔導士だ……!」


「っ!?」


 俺と同じ!? どういうことだ、まさか継承魔法によって俺以外にも大魔導士の力は継承されていたのか!?


「……改めて自己紹介しよう。我の名はアンデ、なり!」


「一番弟子だと!?」


 どういうことだ!?


 大魔導士には弟子がいただと? そもそも大魔導士を継ぐ者とは、極大魔法を使え、大魔導士に匹敵するほどの強さを持っているから、噂でそう呼ばれ始めただけではないのか?


 それに大魔導士は過去の人物だ。ジーナさんから聞いた話では100年以上も前に歴史からは姿を消している……ってそうだった、アンデはハイエルフだ! 寿命もとてつもなく長い。確かに200年近く生きていれば、本当に大魔導士の一番弟子だった可能性はある。


「……まさか師匠が我の他にも弟子を取っていたとは驚きだ。我の知る限り、師匠は我以外の弟子を取っていなかった。つまり、貴様は我が師匠と別れたあとに取った弟子ということになるな」


「あ、いや……」


 確かに俺は継承魔法により大魔導士の力を継いだが、弟子というわけではない。


「……師匠はどこにいる? あるいは師匠の最期を看取ったか?」


「……大魔導士は寿命ですでに亡くなっている。俺がこの手で埋葬した」


 俺がこちらの世界に来た時に、すでに大魔導士は寿命で亡くなっていた。今では俺の家の天井と繋がった、破滅の森にある大魔導士の家の庭に埋葬している。


「……そうか。師匠ほどの力があれば、寿命を延ばすことなど造作もないことであっただろうに……。やはり師匠は、人としての寿命にこだわっていたか」


 悲壮な表情をして天を仰ぐアンデ。一番弟子というだけあって大魔導士とはかなり親密な仲であったのだろう。


「……師匠の墓はどこにあるのだ? できれば墓参りに行きたいのだが」


「………………」


 大魔導士の墓か……それは今俺の家と繋がっている大魔導士の家の庭にある。その場所を教えるということはあの異世界へ繋がる扉についてや、俺が大魔導士からいろいろな力を継承したことについても話さなければならない。


 ……そうだな、この人には知る権利があると思う。大魔導士の何代も離れた子孫とかではなく、生前の大魔導士を直接知る弟子だもんな。


「この国の破滅の森という高レベルな魔物が多く存在する場所に、大魔導士が亡くなる直前まで使っていた家がある。その家の庭に俺が作ったお墓がある」


「……破滅の森か。噂では聞いたことがあるが、まさかそんな場所に家を建てるとはな。……まあ師匠らしいと言えば師匠らしい」


 記憶の中の大魔導士を懐かしみながら、クスリと笑うアンデ。


「……ということは貴様も見た目通りの年齢ではないということだな。エルフ族が姿を偽装している……ようには見えぬから、その姿で100を超えているということか?」


「あ、いや。そういうわけじゃないんだけど、説明が長くなりそうだな……」


「……まあよい、今話すことでもないか」


「アンデはなんで強い者と戦っているんだ?」


 なんとなくだが、俺が一番気になっていることを聞いてみた。大魔導士の弟子という彼なら、先程のように大魔導士の力に匹敵するかもしれない強大な力を持っている。それなのになぜまだこれ以上の力を望んでいるのか、俺にはわからない。


「……我はな、我らハイエルフの一族の中でもクズの出来損ないであった。魔法が他の種族よりも遥かに優秀な種族であるはずなのに、幼き頃はまったく魔法が使えなかった。そのことでよく周りの者に蔑まれていたものだ」


「………………」


「……最終的には両親にも見捨てられ、ひとり集落を追放された。魔法を使えぬハイエルフなどいいカモだ、集落を出てすぐに奴隷として捕まった。好きものの貴族に買われる直前に、運良く師匠がその奴隷商を壊滅させて救われたのだ。


 その後はいろいろとあって我も魔法が使えるようになり、師匠に無理やり弟子にしてもらった。師匠は我に、事あるごとに男なら世界最強を目指せと言っていた。世界最強になってお前を馬鹿にしていたやつらを全員見返してやれ、すべての理不尽をぶち壊してやれとな。


 師匠が我や妻達を置いて旅立ったあの日から、我はひとりでひたすら己の身を鍛え続けた。我は才能がそれほどなかったが、愚直に我が身を鍛えることだけはできたようだ。師匠の残した魔法を学び、身体を鍛えあげ、長い時をかけようやく師匠に匹敵するほどの力を手に入れることができた。あとは強き者と戦い、それを証明していくだけだ」

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