第155話 決闘開始
「それではまず、両国の王族の方々は前へ出てきてください」
広いベージル平原の真ん中に数十人の人達がいる。彼らはバードン国ともエドワーズ国とも関係ない国の者だ。この国同士の代表者による決闘を取り仕切るために、別の国から集められている。
サーラさんや国王達が前に進んでいく。同じように向こうの陣営からも、いかにも身分の高い者らしい格好をした者達が中央へ移動する。
「それではこれよりバードン国とエドワーズ国の代表者による決闘を行います! ひとつ、決闘に敗れた国は勝った国の属国となること。ひとつ、敗れた国の王族の処置に関しては、勝った国の指示に従うこと。
ひとつ、その他の敗れた国民に対する規定に関しては、事前に通達した互いで定めた条文に従うこと。バードン国国王であられるサラエル=バードン殿、以上のことを誓いますか?」
「ああ、誓おう!」
相手国の王族はまだ決闘が始まっていないにもかかわらずニヤニヤと笑っている。おそらく事前の情報により自国の勝利を疑っていないのだろう。
「エドワーズ国国王であられるエドバ=エドワーズ殿、以上のことを誓いますか?」
「……ああ、誓おう!」
「それでは皆さま、こちらをお付けください」
進行役の他国の人達が、両国の王族達に金属でできた腕輪をひとつずつ渡していく。これは国同士の決闘で使われる特殊な魔道具で、勝負が決まると負けた国のこの腕輪を付けた者は、勝った国の代表の命令に絶対服従となる。たとえそれが、自害せよという命令でさえも、強制的に従ってしまう。
この魔道具さえなければ、いざ負けそうになった瞬間にサーラさんだけを連れて逃げるということもできるんだけどな。敗北後に逃亡や負けたことを有耶無耶にすることを防ぐための魔道具でもあるわけだ。
「ここにバードン国とエドワーズ国の代表者による決闘を宣言致します! 両国の代表者は前に!」
いよいよ決闘が始まる。決闘のルールは事前に聞いている。一対一なら武器を使おうと魔道具を使おうと、なんでもアリ。代表者が死ぬか、降参するまで行われる。
国を賭けて戦うわけだし、大抵の場合代表者は死ぬまで命を賭けて戦うか、降参という言葉を発する前に殺される。お互いに相手の降参という言葉を待つほど、呑気な戦いではないというわけだ。
「行ってきます!」
「マサヨシ殿、どうかこの国を頼む!」
「マサヨシ様、どうかご無事で!」
国王やサーラさんに見守られて前に進む。同じようにバードン国の陣営からもひとりの男が前に出てくる。
遠目から見ても小柄な体躯をしており、黒色のローブを羽織っている。相手が近付いてくるに連れてその全貌が見えてきた。
俺よりも20cm以上は低い身長で顔立ちも幼く、いいとこ中学生くらいにしか見えない身体。そしてサーラさんと同じように長く尖った耳をしている。美しい金色の髪に、この世界でも初めて見る燃え盛る灼熱の炎のような赤き瞳。
この世界にはエルフという種族が存在する。エルフの特徴としては、尖った耳をして碧き瞳を持ち、人族よりも魔法に長けて、寿命も人族の倍はある種族だ。ハーフエルフであるサーラさんも普通の人族よりも長い寿命を持っているらしい。
そんな特別なエルフという種族の中でも、さらに特別なエルフが存在する。
そして普通のエルフよりも魔法の扱いに長け、エルフが人の倍の寿命を持つのに対し、ハイエルフの寿命はそのさらに倍で、400年以上生きたハイエルフも過去に存在したという記録が残っている。身体的成長は今目の前にいる男のように、子供のうちに止まるらしい。
大魔導士を継ぐ者、そう噂される歴戦の強者の正体は、悠久の時を生きるハイエルフであった。そう、ボリスさん達から貰った資料にも記載されており、ここに来るまでにパジアさんからも、その情報を聞いていた。
実際にこの目で見てみると、本当に小さな身体をしている。しかし、身に纏うその雰囲気は、つい昨日まで訓練で戦ってきたギルダートさんやリリスさん達、その誰よりも強い。
「……あんたが大魔導士を継ぐ者か?」
「………………」
俺の問いかけに相手は何も答えない。その燃え盛る炎のような赤き瞳で、こちらをじっと値踏みするように見ているだけだ。
「それではこれよりバードン国とエドワーズ国の代表者による決闘を開始致します! 始めえええ!」
すでに決闘を取り仕切っていた他国の人達は離れている。そしてサーラさん達もかなり後ろの方へ下がり、サーラさんの肩の上にはフー助が、そしてその前には護衛の騎士団がいる。これで後ろのことは気にせずに戦える!
「ホーリーチェーン! パラライガ!」
先手必勝! サーラさん達の命がかかっているんだ、悪いが遠慮は一切しない!
ドラゴンすらも身動きひとつできなくすることが可能な上級拘束魔法であるホーリーチェーン、これにより光り輝く鎖が相手をグルグル巻きにして拘束する。さらに上級状態異常魔法であるパラライガにより、相手を麻痺させて身動きひとつ取れない状態にする。
「ライトニングキャリバー!」
上級雷魔法であるライトニングキャリバー、拘束された敵の遥か上空に巨大な雷の剣が現れる。
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