第115話 モッフモフ
というわけで現在はアレックさんとルルネさんとフー助の背中に乗ってアレックさんの弟がいる村に向かうところだ。
「それじゃあフー助、頼む」
「ホー!」
大きくなったフー助の背中にゆっくりと乗り込む。フー助の背中は思ったよりもモッフモフで、まるで高級なソファに座っているかのような感触だ。
足は羽と羽の隙間に入れればしっかりと固定できるし、首元に両手を回せばフー助から落ちることはなさそうだ。
「フー助ちゃん、とってもモフモフしておりますね!」
「本当に大丈夫なのかよ……」
俺の後ろに2人が乗る。アレックさんは少し怖がっているようだ。空を飛んでいくのだから気持ちはわかる。俺も風魔法が使えなかったら間違いなくビビっていただろう。
「フー助、最初はゆっくり頼むな」
「ホー!」
フー助が翼を広げ、その大きな巨大が少しずつ宙へ浮かんでいった。
「こ、これは少し怖いですわね」
「お、おう……」
「……あのアレックさん、怖いのはわかるんですけど目を閉じていないで道案内をお願いします」
高度がだいぶ上がっており、下を見るのが怖いのはわかるのだが、道はアレックさんしかわからないからな。辺りもだいぶ暗くなってきて視界も悪くなってきた。
最初は風の抵抗もかなりあったのだが、障壁魔法でフー助の前に大きな壁を張ってから、かなりのスピードで進めるようになった。というかフクロウってこんな速いスピードで飛べるんだな。
「とりあえずあの大きな山までまっすぐで大丈夫だ。それを超えたらその先に大きな川があるからそこまで進んだら一度止まってくれ」
当たり前だがこの世界には大きな建造物などはない。山や川、大きな街などを目印に進んでいく。
「アレックさん大きな川まで着きましたよ」
「あ、ああ……す、すげえなもうこんなところまで来たのか」
アレックさんが驚くのも無理はない。フー助が飛び始めてから約1時間、俺が風魔法で足場を作って走るよりも断然速いスピードでここまで進んできた。
「あそこにある山を超えた先にもうひとつ山がある。その中腹あたりにある村に弟はいる。もう暗くてよく見えないが、村の入り口に松明を持った門番がいるはずだ」
確かにもうあたりはだいぶ暗くなっている。だがフクロウなら夜目が効くからフー助なら大丈夫だろう。
「フー助、あと少しだけよろしく頼むな」
「ホー!」
アレックさんの言うとおり、ひとつ山を越えた先の山の中腹に松明の火が見えた。いきなり村の中に降りると攻撃されてしまう可能性もあるので、一度村から少し離れた場所に降りる。
「ホー」
「フー助、ありがとうな」
「……フー助ちゃんの背中、とっても気持ちよかったですわ」
確かにフー助の背中の乗り心地はとてもよかったな。ネネアさん達も乗りたがっていたし、また今度落ち着いた時に乗せてもらうとしよう。
「む、誰だ!」
「俺だ、アレックだ」
「なんだアレックか。こんな遅い時間に何かあったのか?」
「高位の回復魔法を使える人を連れてきた、入れてくれ!」
「本当か!? 早くニルのやつを助けてやってくれ」
村の中に案内されてとある一軒の家に案内される。
「ニル、生きているか!」
「ゼェ、ゼェ……兄……貴…………」
うっ……
ニルと呼ばれた青年のその姿はかなり悲惨な状況だった。右肩から左脇腹にかけて大きな傷があり、包帯の上から血が滲み出ている。右手は半分以上千切れかけていた。頭にも包帯が巻かれているところを見ると、目も負傷しているのかもしれない。
「頼む……マサヨシさん。どうか、弟を頼む……」
「……全力を尽くします。ルルネさん、このまま回復魔法をかけても大丈夫ですか?」
「……念のために大きな怪我の場所の包帯は外して洗浄しておきましょう。それと回復魔法をかける際には、誰かが右手を支えておいたほうが良いですね」
「わかりました。みなさん、手を貸してください」
「がああああ……ぐぎいいい……」
「……ニル、耐えてくれ」
ベリッ、ベリッ
俺が身体を押さえている間に、アレックさんと村の人達が包帯を外していく。
だが傷口が癒着しており、なかなか外すことができない。傷口を水で洗浄するとニルさんが苦悶の声をあげる。あまりの苦痛に身体を動かそうとするが、その力もとても弱々しい。
「右手は俺が支えている。頼む」
「はい、いきます」
これほどの大きな外傷を回復魔法で治そうとしたことはまだない。いつも以上に魔力を込めて回復魔法を唱える。
「ハイヒール!!」
「すげえ、傷口がみるみる塞がっていく!」
「さすがマサヨシ様! 素晴らしい魔法ですわ」
ニルさんの身体の傷がみるみる癒えていく。すごいな、まるで怪我をした動画を逆再生しているかのようだ。
「あ……ああ……目が見える! それにどこも痛くない!」
「ニル!!」
「あ、兄貴!」
アレックさんとニルさんが涙を流しながら抱き合っている。アレックさんは口が悪いが、弟想いの兄のようだ。
「すまねえ、本当にありがとう!」
「本当にありがとうございました!」
そしてアレックさんが俺に土下座をし、それを真似てニルさんまで土下座し出した。だからそれはもういいって……本当に土下座の文化を流行らせたのはどこのどいつだよ。
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