第38話 ワイバーンの群れ


「っ!おい、そこのあんた! 早く逃げろ、ワイバーンの群れだ!」


「うおおおおお!」


「死ぬうううう!」


 上の方から冒険者達が走り降りてきた。そして彼らの後ろからは10近くのワイバーンが彼らの後を追っていた。


 おお、あれがワイバーンか!


「ギャアアアアアオ!」


 体長は3〜5mほど、身体の表面はびっしりと緑色のウロコで覆われている。コウモリのように指の間の皮の膜が翼となって、それを上下させて宙を舞う。そしてその大きな口の隙間からは鋭い牙が見え隠れしている。


「おい、さっさと逃げろ! 死ぬぞ!」


 おっと、ついついワイバーンをじっくりと観察してしまった。見た目はワニみたいに結構グロテスクなのに、なんでその肉はあんなに美味しいんだろうな?


 見たところそれほどの脅威は感じない。少なくとも破滅の森にいた魔物の方が圧倒的に脅威である。


「ウインドカッター!」


 風魔法の初級魔法を発動させる。


「んな!?」


「なんだあれ! なんて数の魔法だ!」


 風魔法の初級魔法であるウインドカッター、この魔法は風の刃を作り出し敵を切り裂く。それを同時に20。魔法を同時発動するとその分魔力を消費するが、大魔導士から継承した魔力があればまったく問題ない。一度だけ発動した上級魔法でようやく少し魔力を消費した感覚があったくらいだ。


 ワイバーンがどれほどの強さなのかはよくわからないが、少なくともこの魔法で翼を傷つけ地に落とすくらいはできるはずだ。そのあと追撃の魔法を放ち完全に仕留めよう。


 20もの風の刃が宙を舞うワイバーン達を襲う。


「ギャアアアアア!」


 ザザザザザザン


 ボトッ、ボトッ、ボトッ


「「「………………」」」


 なんか普通に全部倒してしまったんだが……






「「「………………」」」


 あっ、逃げてきた冒険者達が完全にフリーズしている。


「えっと、大丈夫ですか?」


「……はっ! いっ、いやすまん、助かった!……助かったんだよな?」


「……俺、夢でも見てんのかな? ちゃんと昨日は睡眠とったはずなんだけど」


「……大丈夫だ。俺も今、現実にはあり得ない光景を見ているから」


「……よかった、俺の目がおかしくなったわけじゃないんだよな」


 みんな目の前の光景が信じられないといった感じだ。まあ正直俺も初級の風魔法がここまで威力があるとは思っていなかった。


 というかこの魔法は絶対に人相手に撃たないと今心に深く誓った。スプラッター映画まっしぐらになってしまう。


 目の前の冒険者4人をよく見てみる。20代後半から30代の男の4人組。武器は剣にアックスに小型ナイフに弓、どうやら杖を持つ魔法専門職はいないようだ。土や泥にまみれて、ところどころに小さな傷があるが大きな怪我はないようだ。


「みなさん無事ですか?」


「……あっ、ああ。無事だ! 俺の頭は無事なんだよな?」


「……俺の眼も無事なんだよな?」


 疑問形かよ! 頭も眼も無事だからいい加減に正気に戻ってくれ。


「みなさん無事で何よりでした。ワイバーンの群れはもういませんか?」


「ああ、俺らが追われていたのはあれで全部だ。ワイバーンは基本的には群れることがないが、稀に強い個体が現れるとそれを中心に群れになると聞く。どうやら俺達はよっぽど運が悪かったようだな」


 ふむふむ、確かにあんな空から襲ってくるやつが群れていたら、対応できる冒険者は限られるのかもしれない。


「いや、でもリーダー、ワイバーンの群れに遭遇して生き延びたんですから、俺達めちゃくちゃ運がいいですよ!」


「そうだな! ワイバーンの群れに遭遇したのは運が悪かったが、あんたに助けてもらえたのは本当に運が良かった!」


「本当にありがてえ! おかげで命拾いしたよ!」


「あれほどの大魔法だ、さぞ名のある魔法使い様なんでしょう!」


「それは何よりです。自己紹介が遅れましたが、私はマサヨシと申します。旅をしているただの旅人ですので、どうぞよろしくお願いします」


「マサヨシさんか。俺達はCランク冒険者パーティ『鋼の拳』だ。リーダーをやっているイアンだ。改めて命を救ってくれて感謝する。あのままだったら、俺らの中の誰か一人が犠牲となり、その一人を見捨てて逃げなければならないところだった。そして最悪の場合は全滅だったな」


 このあたりはだいぶ高度が高くなってきたせいか、高い木々がないため、空からワイバーンに狙われ放題である。もう少し下の森に入るまでに誰かが犠牲となり、その一人が襲われている間に残りの3人が逃げるしか選択肢はなかったのだろう。


 全滅するよりはマシだが、仲間を見捨てるという最悪の選択をしなければならないところだったようだ。


「マサヨシさん、あんたは命の恩人だ! ぜひ礼をさせてほしい!」


「いえ、ちょうど俺もワイバーンを狩りに来ていただけなので、むしろ一気に倒せて助かりましたよ。あっ、お礼と言うならあの倒したワイバーンはいただいても大丈夫ですかね?」


「そんなのは当たり前だ。ワイバーンはすべてマサヨシさんが倒してくれたのだからな。残念だが今は現金は少ないんだ。申し訳ないが、街に預けている金を下ろすまで待ってくれないか?」


 ……サーラさん達もそうだが、この世界の人達はお礼を大事にしすぎじゃないか? 日本よりも圧倒的に危険な世界だから、命を助けてもらった者にはできる限りのお礼を、みたいな考えでも広まっているのかな。


「いえ、お金とかは本当に大丈夫です。そうだ! 実は俺は解体とかしたことがないんで、ワイバーンを解体するのを手伝ってくれませんか? とても俺一人では解体できる気がしなくて……」


「そんなもんでいいならお安い御用だ! なあ、みんな!」


「おう、任せてくれ!」


「お安い御用だ!」


 解体作業なんかしたことがないから、ワイバーンを倒した後にどうすればいいか悩んでいたところだ。うん、やはり人助けはしておくべきだな。

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