第六話
「先輩、先輩──っ」と夢芽の声がする。
「ん……」と目を覚ますと、真上には夢芽がこちらを見ていた。
ここは……。
そうだ、俺はたしか倒れたんだ。
「いてて」と頭を押さえる。
じゃあここは保健室ってことだよな。
「大丈夫ですか、先輩っ!」と俺に抱きつく夢芽。
ぷにっと胸が顔面に当たっている。
……今更だよな。
「う、うん。大丈夫。今はもう五時間目が始まってるよな」
俺から離れる夢芽。
「はい、十分前から始まってます。姉さんも先ほどまでいたんですけど帰って行きました」
「そうなんだ」
そっか、目を覚さなくてよかったと心から思う。
あの状態で真奈と出会っていたら多分俺の心は粉々に砕かれていただろう。
「って、なんで夢芽はいるんだ?」
「へへっ、サボっちゃいました♡。私って悪い子ですね。あっ、ちなみに保健室の先生は私のクラスの保険の授業で今はいませんよ♡。あとは保健室の鍵を内側から閉めておきました」
「そ、そうなんだ」
なんて返せばいいのかさっぱりわからなかった。
咄嗟に出た返事がこれだった。
「はい♡。今ならどんなに泣いても誰も見てませんよ?」
「え……」
ベッドに座り、俺の方を向き両手を広げる夢芽。
まるで抱きつくのを待っているようだ。
夢芽は天使のような微笑みで。
「だって、先輩の瞳から涙が流れてますもの」
目を触ると確かに涙が出ていた。
完全に無意識だった。
気づかないうちに涙が出ていた。
「ほら、先輩っ。私の胸で存分に泣いて大丈夫ですよ」
そのセリフを聞くと勢いよく大粒の涙が流れ出す。
もうトイレで出し切ったはずなのにどんどんと流れる。
「うあああ!」と俺は夢芽に抱きつき、まるで赤子のように泣いた。
これじゃあ、どちらが年上なのかわからない。
とにかく泣いた、泣けば楽になれると思ったからだ。
これからさらに辛くなる時があるだろう、このままじゃだめだ。
そう思いながら本気で泣いた。
○
私の胸で泣く先輩はまるで赤ちゃんのようだった。
はあ……先輩の涙と鼻水がついたワイシャツ……嬉しい。
嬉しすぎるよお、嬉しすぎて死んじゃいそう。
ああ、先輩っ♡。
本当に可愛い。
もっと困った先輩が見たい。
もっと私を必要とする先輩が見たい。
もっと私に依存する先輩が見たい。
もっと姉さんが嫌いになる先輩が見たい。
もっと壊れた先輩が見たい。
もっと、もっと、もっと、もっと、先輩とヤりたい──っ///。
もっと愛されたいです!
本当に姉さんは先輩という男がいながら他の男とヤるなんて頭がおかしいとしか思えませんね。
こんなことになるのだったら、もっと最初から付き合う前に私に先輩を譲って欲しかったです。
でもまあ……。
じゅるりと垂れる涎を吸い込む。
もっと壊れた先輩を愛したいです。
私なしでは生きれないほどに壊れた先輩を愛したいです。
だから、姉さん。
もっと、もっと、もっと、もっと、ヤって先輩を壊してください。
「あああ──ッ!」
「大丈夫ですよ、先輩っ♡。私がいますので。私はずっと先輩の味方です♡」
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