第3話 あたしはヒロイン
あたしはヒロイン。
誰がなんと言おうとこの世界の。
いわゆる転生者ってやつなんだと思う。
死んじゃった記憶はない。
トラックにひかれた覚えもない。
だけど数年前、気がついたら『ヤニーナ・ポフメルキナ』という栗色の髪に紫の瞳の美少女になってて、ぜんぜん知らない場所にいて、意味がわからなくてわんわん泣いた。
『前』の人生のこと、ぜんぜん忘れてない。
あたしは日本の普通のJCだった。
毎日学校通ってたし、友だちも多かったし、行きたい高校もあって、そこそこ勉強もがんばってた。
憧れてたバスケ部の先輩に告白して、OKだってもらえてたんだ。
……デートした記憶はないから、たぶんそのくらいに死んだんだろうけど。
今でもはっきり、『前』のことなんでも思い出せる。
でも『ヤニーナ』としてここで生きてきた記憶もいっしょにあるって気づいて、すっごく混乱した。
ポフメルキナ子爵家のひとりっ子ヤニーナ。
領民みんなから愛されてて、七歳で皇都に来るときにはいろいろな人がだっこして別れを惜しんでくれた。
『前』は食べられなかったチーズケーキが好きで、『前』とは違って数学が得意。
髪や目の色だけじゃない、声も背の高さも、すっごく寒がりだったのに暑がりだったり、モノの考え方だって微妙に違う。
うれしいと思うこと、悲しいと感じること、ぜんぶ違うのにぜんぶあたし。
『ここ』のパパとママはあたしのパパとママだし、『前』のパパとママも、あたしのパパとママだ。
あっちの友だちも、こっちの友だちも、あたしの友だち。
どっちも大事。
どっちも好き。
どっちもあたしで、どっちもあたしの人生だって思った。
だからあたし、どっちになったらいいんだろう、どっちが本当のあたしだろうって、ずっと迷って悩んでるけど、ぜんぜん答えは出ない。
とりあえず、生活はしなきゃいけないから、ずっと『ヤニーナ』をしている。
気持ちが落ち着いてきて、まわりのこと観察する余裕が出てきてから、いろいろ気づいたことがある。
ここ、あたしがやってたスマホの恋愛シミュレーションゲーム、『皇都に咲く花』が実写化したみたいな世界だ! てゆーか、ぜったいそうだ!
そして、あたしはたぶんその、プレイヤーキャラクターであり、ヒロインの『ヤニーナ』だ。
ノーマルモードでは名字が出てこないから、しばらく気づかなかったけど。
ゲームでは、『皇都マメルーシ』にある『クリユラシカ皇都学園』でシナリオが進んでいく。
今年の九月一日、知識の日。
『
やがてその中で『真の愛』を学んで、『聖女』として覚醒した『ヤニーナ』が、ヒーローとともに国の危機を救うっていうお話。
あたしの推しは、ぜったい第二皇子セルゲイ! ぜったいそのルート! キレイな金髪に薄いブルーグレーの瞳で、ジョー様にそっくりでかっこいいの! ジョー様っていうのは、前の人生でのあたしの推し。
主演映画ぜんぶ見たくらい好きなの! ちょうイケメン。
シナリオ始まるの待つ必要ないし、あたしは中等科九年生のときから、一年先輩で高等科のセルゲイ殿下に近づいてアピールしまくった。
もともと、『悪役令嬢』の
九年生のときは午前授業だったから、午後から登校してくる十年生のセルゲイをよく待ち伏せしてた。
それで知ってるんだけど、いつも挨拶交わす程度でセルゲイはイネッサ置いてさっさと歩いて教室行っちゃうんだよね。
親が決めた婚約者ってもしかしたらそんなもんなのかもねー、ちょうドライ。
イネッサは薄い金髪に、黒髪が混ざってる不思議な色のロングヘアで、きれいな緑の瞳。
めちゃくちゃ美人だけど、たぶん性格が悪いんじゃない? ゲーム内で、
セルゲイ殿下からあたしへの接し方は普通な感じだけど、好かれてはいるんじゃないかな。
一度「君は、私が好きなのか?」と尋ねられたから、「はい、大好きです!」と即答した。
セルゲイ殿下はすっごい動揺していたし、きっといけると思う。
ぜーったい、攻略してやるんだ! だって、こうなったら、全力で楽しむしかないじゃん! ゲームなんでしょ? あたしがこの世界での『
……どうせ、帰れないなら。
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