ぼくのお姉ちゃんは悪役令嬢

つこさん。

第1話 ぼくのお姉ちゃんは悪役令じょう


「ぼくからお姉ちゃんをとらないでください」


 帰ろうとしているをつかまえて、ぼくは『じきそ状』を提出した。


「なにを言っているのかわからないよ」


 しらばっくれても美形は美形だった。


 ぼくのお姉ちゃんは悪役れいじょう。

 それに気がついたのはぼくが小さいとき。

 ぼくはどうやら転生者というやつらしく、カゼをこじらせて死にかけたことで、お姉ちゃんについてだけはっきりと思い出せた。

 そう、『お姉ちゃん』は、ぼくが前の人生で『あくやくれいじょうイネッサ』ってよんでいた、その人だっていうことを。


 お姉ちゃんはツンデレをきわめちゃった性格で、弟のぼくのことを「わたくしの『どれい』」とよぶ。

『どれい』のぼくは「お姉『ちゃん』」と呼ぶように命令されている。

 理由は教えてくれない。

 そういうところがかわいいと思う。


 ああ、名乗りおくれたけれど、ぼくはレオニート・ジェグロヴァ。

 イネッサ・ジェグロヴァこうしゃくれいじょうという美しいしゅくじょの弟だよ。

 レオってよんでくれてかまわない。

 よろしく。


 この国はコマナシスタンと言い、ぼくが今お姉ちゃんといっしょに住んでいるのは、首都マメルーシだ。

 古里であるウニライナ州をはなれて、首都の家タウンハウスで生活し勉学にはげんでいる。


 ぼくたちが通っているクリユラシカ皇都学園は歴代の王も通う、ゆいしょある教育機関で、六年間の初等教育、三年間の中等教育、そして二年間の高等教育までを、みんな同じ場所ですごす。

 と言っても、それぞれ建物の入り口はちがうのだけれどね。

 同じ区画にある、総合教育場っていうかんじ。

 ぼくは十二才だから、今年の九月から、初等科で一番上の六年生だ! お姉ちゃんは、最終学年の十一年生になる。

 だから、いっしょに通えるのがあと一年で、ちょっとさみしい。


 そしてぼくのおくが確かならば、来年の五月末にある最後の終業の鐘ラストチャイムとよばれる学園の卒業式典で、お姉ちゃんはこん約者やくしゃの第二皇子に『こん約破やくはき』される。

 別にそれ自体はかまわないんだけど、問題はお姉ちゃんがそのあと修道院送りになっちゃうことだ。


 それはまずい、非常にまずい。


『どれい』あつかいされなくなっていいだろうって? ぼくのお姉ちゃん好きをなめないでもらえるかな。

 お姉ちゃんのことしか思い出さないてっていぶりだよ? そこいらのにわかとは気合いがちがう。


 なんとか修道院送りを止めるため、がんばることにしたのさ。


 あ、うん、『こん約破やくはき』はしていいよ。

 ぼくがずっとめんどうを見るから。


 とりあえず第二皇子(美形)をつかまえた。

 今は夏休み中で、ときどきうちに遊びに来るからね。

 お姉ちゃんとお茶して、どうでもいい話して、帰っていくんだ。

 それがこん約者やくしゃに対するどーのこーのらしいんだけど、なにか意味があるのかわからない。

 だってお姉ちゃんがはずかしがってツンツンしてるの、皇子はさっぱり理解してないっぽいからね。

 何回来たって同じだよ、この皇子になんてお姉ちゃんを任せられない。

 だから、帰るとき馬車に乗るところを待ちぶせた。


『じきそ状』を受け取ってこまったような顔をしている第二皇子(美形)にぼくははっきりと意見する。

 最初がかんじんっていうからね、きっちりわからせてやるのさ。


「あなたは卒業パーティーラストチャイムでぼくのお姉ちゃんを『こん約破やくはき』して修道院に送る気でしょう。

 修道院はだめです、会えなくなります。

 国外追放もやめてください、遠すぎます。

 領地で引きこもり命令にしてください。

 いっしょに幸せにくらしますから」


「なにを言っているのかわからないよ」


 しらばっくれても美形は美形だった。


「とにかくそれを読んでください」


 用がすんだからさくっと家にもどる。


 何日かたってから皇子の従者が変な顔して手紙を持って来た。

『じきそ状』の内容についての問い合わせだった。


「バカだな、こんなこともわからないなんて!」


 ぼくはありったけのお姉ちゃん愛をたたきつけて返信してやった。

 ここはわからせてやらないと。


 そしたらまた何日か後に質問の手紙がとどいた。

 やれやれ、なんて物分りが悪いんだ。

 これがコマナシスタン皇国の第二皇子でんだというのだから先が思いやられるよ。

 しかたがない、ぼくが教えてあげなくちゃ。

 前の人生と合わせたら、たぶんぼくのほうがちょっと年上だしね!

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