後日譚172.事なかれ主義者は再び国を巡る
「ドライアドたちに特定の作物を育てさせる方法?」
世界樹カラバのお世話をし終えたギュスタンさんが聞いてきた事をオウム返しすると、彼はゆっくりと頷いた。
「うん。何かコツとかあるのかな? ほら、シズトくんの屋敷の近くにある家庭菜園はドライアドたちもお世話をしてるでしょ? どうやってコントロールしているのかなって」
「いや、特にこれと言ってしてないけど……。あそこは僕たちの畑だよって伝えてるくらいかな?」
「レモ!」
僕の手を握って隣を歩いていたレモンちゃんが同意するかのように声を上げた。いつもの定位置じゃないのは僕がクーを背負っているからだ。幼児くらいのサイズしかないレモンちゃんだけど、流石に彼女を肩車しながらクーをおんぶするのは無理だ。
「ギュスタンさんの所の畑は勝手に何か植えられちゃったの?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。珍しい物を育てるのにドライアドたちが手伝ってくれたら領地が潤うのに、ってルシールが残念そうに言ってたからね」
「珍しい物って例えば?」
「例えばポーションの材料になる薬草とか」
「あー……どうなんだろう? 物を用意すれば勝手にお世話とかしない?」
「手伝ってくれる物と手伝ってくれない物があってね。いくつか苗を手に入れて植えてみたんだけど、手伝ってくれない物は枯れちゃったんだよ」
「……なるほど? なんで手伝ってあげないの?」
僕が尋ねたのはギュスタンさんではなく、彼の体に張り付いている褐色肌のドライアドにだ。レモンちゃんほど幼くなく、身体もそこそこの大きさのドライアドは僕の問いかけにすぐに答えてくれた。
「手伝っても意味ないからだよ?」
「意味ないってなんで?」
「育たないからだよ。人間さんが町の外に植物を植えても私たちは手伝わないよ?」
「町ってファマリーの周りの町?」
「そうだよー」
「……なるほど。じゃあ手伝わなかったものは、ギュスタンさんの土地では育ちようがない作物だった、って事?」
「そうだよー」
「なるほどなるほど。……あれ? でもファマリーの周りではどんな植物でもとりあえず育ててなかった?」
「ファマちゃんの周りはだいたい何でも育つんだよ。リコちゃんもそうだよ! ユグちゃんもそうなんじゃないかなぁ」
「れーもも」
「それは肯定してるの? 否定してるの?」
「れーもー」
「こーてーだってー」
「なるほど」
「えっと……つまりルシールが用意した多くの貴重な薬草は育たないから手伝ってくれなかった……って事で合ってる?」
「合ってるよー。それをするくらいなら他の事をした方が恩返しになるからね~。カラちゃんのお世話してくれてるお礼なの~」
「そっか。とりあえずこの事はルシールに伝えておかないと……」
「新しく枯れちゃう作物を仕入れる前に、だね」
転移陣に乗ってファマリーに戻ると、ギュスタンさんは挨拶もそこそこに帰っていった。
さて、僕はどうしたものか……と思案していると、肩をトントンっと叩かれた。
「あの……小国家群の方の対応をお願いしたいのですが……」
「はい」
現実逃避していたけれど、そろそろそちらも再び回らなければならない。
カラバの方の対応に専念していた……というよりも理由をつけて小国家群に行くのを後回しにしていたので、当初の想定よりも若干遅れが出ているそうだ。
まあ、遅れているとはいってもそこまで緊急性の高い所はない。布教のついでに『天気祈願』をしていくだけだ。だからこそ、後回しにできていたんだけど……そろそろ限界のようだ。
その事は朝ご飯を食べている時に話に上がっていたのでしっかり覚えている。
ただなぁ。口を開けば「子ども同士で婚約を」と言われるのが嫌なんだよなぁ。レヴィさんやランチェッタさんは「そう言われるのが嫌ならとりあえず決めておくと良い」と言っていたけど、本人たちに決めてもらいたいし……。
考え事をしているとそのまま転移陣に乗って小国家群を渡っている魔動車に設置した転移陣とリンクしている物の所まで来ていた。
世界樹の世話をする時は世界樹の使徒として真っ白な服を着ているのでこのまま行っても問題ないんだけど……。
「とりあえずクーはお留守番かな」
「えーーー」
耳元で抗議の声がするけど、正直ジュリウスがいるのならクーはいなくても大丈夫だ。
むしろ成人に達していないように見えるクーを背負って会談に臨んだら、それこそ『そういう趣味』だと誤解されかねない。レモンちゃんは「ドライアドはそういう種族だから」で押し通しているけど、クーは見た目が人族だからその手も使えない。
「こればっかりは駄々をこねても聞きません! 朝早くにやって来た時からずっと負ぶってるんだからもう満足でしょ?」
「全然足りないし! もっと構え~」
「余裕がある時は遊んでるでしょ」
「アンアンやパメパメとまとめてでしょ! あーしはお兄ちゃんを独占したいの!」
「それは諸々の事情で無理なんじゃないかなぁ……」
一日のほとんど誰かが側にいるし。お嫁さんの内の誰かと一緒にいなかったとしても、大体レモンちゃんは僕の肩の上にいるし。仮にクーと二人だけで遊んでいたとしても、どこからともなくパメラが飛んでくるだろうし。
でも、ホムラやユキと違ってクーは体の関係を求めてくるわけでも、婚約をしたいと言ってくるわけでもない。他のホムンクルスたちもそうだけど、それぞれ何かしらのご褒美を用意すべきなのかもしれない。
「でもまぁ……そうだね。とりあえず考えてみるよ。だから今日はもうお終いね」
「…………ふん!」
唐突に背中が軽くなった。どうやら妥協して貰えたようだ。
クーが背中からいなくなると、当然のように僕の体によじ登る存在がいるけれど、この子たちの事はもう諦めよう。
そんな事を思いつつも、これ以上纏わりつかれるのは勘弁、という事でオクタビアさんと一緒に転移陣に乗って小国家群へと向かうのだった。
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