後日譚166.事なかれ主義者は本当に大丈夫なのか心配
ギュスタンさんに都市国家カラバで世界樹の世話をしてもらえないかとお願いしたら二つ返事で了承された。
ただ、その代わりにギュスタンさんから紹介された三人の婚約者との結婚を承認して欲しいと言われ、流れで結婚式後のパーティーに参加する事になってしまった。
「スピーチは無理だからね?」
「見届け人になってくれればそれで大丈夫だよ」
「ならまあいいけど……。見届け人って何をすればいいの?」
「とりあえず参列してくれればそれでいいよ」
「そっか。それなら僕にもできそうだね」
そう安請け合いしたけど、今後悔している。
よくよく考えれば分かる事だったけど、現時点で『生育』の加護を授かっていて、意思疎通ができる唯一の貴族であるギュスタンさんの結婚式は、彼が望もうが望まなかろうが勝手に規模は大きくなっていく。
当然のように各国の王族は誰かしら参列しているし、高位貴族もいた。
「場違い感が半端ない……」
結婚式に参列する当日、会場に通される前からその気配は感じていたんだけど、会場入りする時に改めて実感した。
既に入場していた大勢の王侯貴族の方たちからじろじろと視線を向けられているのが分かる。
っていうか、世界樹の使徒である事を表す胸よりも高い所まで金色の刺繍がされた白い服を着ているけどこれを着てていいんだろうか?
もう『生育』の加護はなくなっているんだし、世界樹の使徒と言えないのでは?
ジュリウスに「加護を失っても我々エルフの目を覚まさせてくださった方である事に代わりはありませんから」と迫られてそういう物なのかと納得したのが良くなかったのかもしれない。
なんて、何度も繰り返し思った事を再び考えながら入場すると拍手で迎えられた。これって新郎新婦がされるべき事じゃないんすかねぇ!
「シズト、集中するのですわ~」と、僕の右隣を歩くレヴィさんが言った。彼女は珍しくドレスを着ていた。流石に結婚式でオーバーオールを切る事はないらしい。
「背筋を伸ばしなさい」と言ったのは左隣で綺麗な姿勢で歩いているランチェッタさんだ。胸元が大きく開いている大人っぽいドレスを着ていて、尚且つ王冠も頭に載せている。
「お澄ましですよぉ」と言ったのはジューンさんだ。後ろに目がついているのだろうか? と思いつつもジューンさんを先頭にトコトコと歩いて行く。……新郎新婦が来るであろう一番近い所に座らされた。
ふと窓を見ると見覚えのある子たちが中の様子を窺っていた。流石に参列させるわけにはいかないからと粘り強く説得して置いてきたレモンちゃんを筆頭に、ドライアドたちが中の様子を窺っているようだった。
僕と視線が合うと「やべっ」と言った感じで引っ込んだけれど、しばらくするとそーっと顔を出して中の様子を見ているのは頭の上に咲いているお花で丸分かりなんだよなぁ。
でも警備っぽい人たちが何もしていないからきっと大丈夫なんだろう、なんて事を考えていると楽器を持った人たちが指揮者の合図とともに演奏を始めた。
扉が開かれて、おめかしをしたギュスタンさんとそのお嫁さんたちが入場した。
ギュスタンさんはエルフの正装っぽい服を着ていた。真っ白なタキシードなんだけど、ズボンの裾から胸元よりも少し上くらいまで金色の糸で蔦のような刺繍がされている物だ。エルフの国の価値観で考えた際にはギュスタンさんよりも僕の方が身分が上、という事になると思うんだけどそんな服を結婚式後のパーティーに着ていていいのだろうか……。
悩ましい所だけれど、お嫁さんたちは誰も止めなかったし、隣に座っているレヴィさんはそっと僕の太ももに手を置いて来ているしきっと大丈夫だろう。……たぶん。
ギュスタンさんのお嫁さんたちはタイプの違う美人さんだった。あんまりドレス姿をじろじろ見るのはどうかと思うのでギュスタンさんの方を見るようにしておこう。
溢れんばかりの拍手と共に入場したギュスタンさんたちは、僕たちのすぐ近くを通って彼らが座る所定の位置へと……って、なんかギュスタンさんの背中に張り付いている子いるんですけど!?
「シズト、平常心ですわ」
「あらあらぁ」
「ギュスタン様は分かってやっていると思うわよ」
「そうかなぁ……あ、降りた」
ギュスタンさんが座るタイミングで背中に張り付いていた子は離れて床に着地した。褐色肌の子で、満足気である。
ギュスタンさんが何かしら彼女に言葉をかけたかと思うと、ドライアドがトテテテテッと駆け出した。向かう先はギュスタンさんの席から一番近いバルコニーに通じる大きなガラス張りの扉だ。
「え、良いの? 大丈夫なの、あれ?」
「ギュスタン様が指示してるから大丈夫だと思うのですわ」
「ドライアドたちのお披露目の目的もあるのかしら」
「楽しそうですねぇ」
開け放たれた扉からは大きさも肌の色も様々な子が入ってきた。ただ、無秩序に、ではなくちゃんと並んでおすまし顔で行進している。……一人だけその列から離脱してこっちに向かってきているのはレモンちゃんだ。
「駄目だよ」
「れもん? れももん。れもん! れーも!」
「ギュスタン様が良いって言った、と伝えたいようなのですわ」
「……便利だね、その加護」
「シズトのおかげでそう思えるようになったのですわ」
「れもーん」
定位置に収まったレモンちゃんは、気持ち小さめの声で雄たけびを上げるのだった。
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