後日譚155.事なかれ主義者は対応方法を考えた

 オクタビアさんに協力してもらいながら、小国家群に『天気祈願』をして回っている間は、オクタビアさん夜になると僕と一緒に屋敷に戻って休む事が続いている。一緒にお風呂に入ったり、夜を共にする事はまだ婚約者なのでないけれど、食事くらいは一緒にしている。…………ラオさんたちとは婚約する前からお風呂に一緒に入っていたような気がするけど、藪蛇になりそうだったので口は噤んでおいた。

 皆でのんびりと食卓を囲みながら、今日の小国家群の様子――というか、ほぼ縁談の申し込みか一晩共にする事を求めてくる統治者たちの愚痴――を話していると、オクタビアさんが食事を終えたタイミングで翼人族のパメラが彼女に話しかけた。


「今日はパメラの日デース!」

「はい、そうですね。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

「ついてくるデスよ!」


 オクタビアさんはパメラに手を引かれて食堂を後にした。

 その様子を見送ってから座っている皆に視線を向け「……何の事? パメラが教えられる事なんてあるの?」と尋ねると、寝間着姿のレヴィさんが紅茶の入ったカップを置いて、口を開いた。


「遊びについて教える、という話ですけれど、遊び相手になってもらうつもりなだけな気がするのですわ」

「なんでそんな事になってるの? パメラの日とか何とか言ってたけど……」

「ノエルと私、それからランチェッタが日中色々教えているのを見て、パメラも加わりたいと主張したのですわ」

「ただ、今までは滞在する日数が少なくて時間は有限だったでしょう? だから、夜のまとまった時間は交代制で彼女に物を教える事にしたのよ。わたくしたち以外も参加してて、ジューンやエミリーは家事を教える予定みたいよ」


 話に加わってきたのは、寝間着姿のランチェッタさんだった。彼女は暑がりなため露出が多く、ガレオール人特有の褐色の肌と天然物の規格外な大きさの胸によって作られる谷間が普段よりよく見える。


「ちなみに、ランチェッタさんは何を教えているの?」

「統治者としての心構えや考え方、必要な知識よ。シズトも一緒にどうかしら? ああ、でも夜はやる事があるから難しいか」


 お嫁さんたちの中で妊娠していないのはジューンさんと、子どもができないと神様に言われたホムンクルスの二人を加えた三人だけだ。ジューンさんは焦っている様子はないけれど、妊娠できるお嫁さんの中で唯一妊娠していない。

 だから今はジューンさんは毎日部屋にやってきて、それにホムラかユキが加わる感じになっている。三人で、となりかけた時もあったけど流されるままの僕が三人を一気に相手する事なんてできる訳がないので遠慮してもらった。


「まあ、そうだね。心構えは勉強中だから、明日の移動中の時間にでもこっちに戻ってきて教えてもらおうかな」

「あ! 思い出したのですわ!」


 バンッと机に両手をついて立ち上がったレヴィさんが先程まで座っていた椅子は勢いよく後ろに倒れそうになったけど、控えていたセシリアさんが受け止めていた。

 流石だなぁ、なんて事を思いながらセシリアさんを見ていると、レヴィさんが「シズトに伝えなくちゃいけない事があったのを忘れていたのですわ!」と言った。


「なんかあったの?」

「どうやらカラバの使者が国に到着したみたいなのですわ。ドライアドが教えてくれたのですけれど、どうするのですわ?」

「あー……ちょっと小国家群の事で立て込んでるしなぁ」

「移動中だったら暇なんでしょう? それに、魔力は有限だから移動時間をさらに短縮してもできる事は限られているはずよ。大人しく対応しておきなさい」

「そうですわ。面倒な事はさっさと終わらせるのですわ」


 気乗りしないけど、やるしかないようだ。と言っても、僕にできる事なんてないので、ギュスタンさんを呼んだ方が良い気がするんだけど……彼も最近爵位を授かったとかで忙しいと言っていた。とりあえず状況だけ把握して、『生育』の加護持ちがいなくてもドライアドを鎮める事ができるのであれば頑張ってみようかな。

 世界樹を育てる事に関してはもうしばらくの間ギュスタンさんにめちゃくちゃ働いてもらう事になるんだし、出来る事はこっちで引き受けよう。


「じゃあ明日の移動中にこっちに戻ってきて対応するから、午前中の間にドライアドに協力してもらって向こうに予備の転移陣を設置してもらってもいい?」

「分かったのですわ~」

「そういう訳だから、勉強会はまた今度という事で……。まあ、統治する事はないんだけど、心構えくらいは、ね」

「分かったわ。明日は暇だから教える事をまとめておくわね」

「ランチェッタ様の口から『暇』という単語が出るなんて……明日は何か起こるかもしれません」


 ランチェッタさんの後ろに控えていた褐色肌のメイドさんであるディアーヌさんが大げさに言うと、ランチェッタさんが「うるさいわね」と睨んだ。


「子育てに少しでも協力できるように、下の者たちに任せられる物を全て任せてたらほとんどなくなっちゃったのよ」

「それだけ一人で抱え込み過ぎてたんですよ」

「オーバーワークはダメだからね」

「ほらほら、シズト様もこう仰ってますよ。大人しくしておくのが吉です」


 僕がディアーヌさんに加勢すると彼女は調子づいたけれど、ジト目のランチェッタさんが再び睨むと静かになった。


「……それにしても現地のドライアドたちは怒ってるのか……。加護持ち無しで、どうやって鎮めればいいんだろうね」

「とりあえず青バラちゃんを連れて行くのですわ! 明日の朝にバイトの内容変更を伝えておくのですわ」

「あとレモンちゃんも連れてけばいいんじゃないかしら? 人族で言うと人種が違うだけでしょう? 違う種族のドライアドが仲良く引っ付いていたらいきなり襲い掛かってくる事はないんじゃないかしら?」

「いやぁ、どうだろう? こっちに来てる子たちは縄張り意識がそこまで強くないけど、他の世界樹の根元まで行くとそこにいる子たちはここにいる時と違って縄張り意識が強くなるんだよ。普通に攻撃してくる可能性も踏まえて、レモンちゃんはお留守番をお願いしようかなぁ、って」


 ただ、置いて行く方法が問題だけど……。やっぱり引っ付く前にキャッチするしかないかなぁ。

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