後日譚150.事なかれ主義者は提案してみる

 オクタビアさんがやってきてから二週間ほどが過ぎた。

 オクタビアさんは一週間ほど滞在した後は、エンジェリア帝国へと帰っていった。

 それから一週間ほどは『天気祈願』の依頼をこなしつつ、子どもたちのお世話をしながら妊娠している二人の様子を見ていた。

 ジューンさんとの間にまだ子どもはできていないので、夜はジューンさんに相手をしてもらう事が多い。そうなるとジューンさんと比べて他のお嫁さんたちの交流の時間が少なくなってしまうので、昼間は極力他のお嫁さんと交流する事も忘れない。

 そんな毎日を過ごしていたら、エンジェリア帝国へと戻っていたオクタビアさんから手紙が届いた。


「交渉は問題なく終わったのですわ?」

「うん、そうみたい。どの国も『天気祈願』の恩恵を受けている間は戦争行為を止める、という誓文を交わす事ができたって」


 小国家群はエンジェリア帝国とは表立って戦争はしなくなっていたみたいだけど、小国家群同士では土地の奪い合いをするために毎日どこかで小規模な戦闘が起きていたらしい。そんな国々に対して『天気祈願』を使ったらどうなるのか分からないので、『天気祈願』を望むのであれば今すぐ休戦する事、という条件を付けた。

 元々、雨があまり降らない地域らしく、水源争いや豊作になりやすい肥沃な土地の奪い合いをしていたらしい。水に関しては『天気祈願』でどうとでもできるし、肥沃な土地はなければ作ればいい。こっちにはドライアドお墨付きのたい肥があるから、それをエンジェリア帝国が援助する、という提案もしてもらっていた。そこまでメリットを提示すれば戦をひとまずやめる可能性が高い、との事だったけど狙い通りに交渉が進んだようだ。


「じゃあすぐにでも出発するのですわ?」

「んー……できなくはないけど、今日はとりあえずエンジェリアに魔動車を移動させてもらうだけにしておくよ」


 小国家群には転移陣も転移門も設置していない。数が限られているので設置する場所でもめる事が容易に想像できるから。ちょっと不便だけど、魔動車で巡ればあっという間だろう、きっと。


「それに、オクタビアさんも一緒に行く事になってるんだよ。急に出発するって言っても向こうが困るでしょ?」

「……まあ、そうかもしれないですわね」


 フットワークが軽すぎるどこぞの王女様とは違うんですよ、

 オクタビアさんには小国家群との間のパイプ役になってもらう予定だ。彼女も小国家群の使者の方々意外とは会った事もないそうだけど、オクタビアさんが強く同行する事を希望したので一緒に行く事になった。


「しばらくは帰って来られないのですか?」


 僕とレヴィさんの話に入ってきたのは、モフモフの白い尻尾を使ってシンシーラの子どもである真の遊び相手になっていた狐人族のエミリーだ。彼女は最近、体調が戻ってきたという事で厨房に再び立っている。無理はしてほしくはないけれど、エミリーのご飯に胃袋を掴まれているので強く止める事ができていない。

 僕の分のご飯をどうするのか聞きたいのだろう、という事で「日帰りにする予定だよ」と答えた。ブンブンと尻尾が振られて、動くものに強い興味を示す真がキャッキャと喜んでいる。畳の上で寝転がっていたドライアドたちはわさわさと髪の毛を動かして注意を惹こうとしているようだけれどモフモフの尻尾には勝てないようだ。流石僕の娘、と言った所だろうか。


「魔動車に転移陣を持ち込めば問題ないと思う。それに関してはオクタビアさんが同意を得てるみたい」

「そうですか、わかりました」

「オクタビアも日帰りにするのですわ?」

「どうなんだろう? そこら辺書いてなかったけど……任されている事が少ないっていってたし、オクタビアさんは日帰りはしないかも?」

「残念ですわ。またいろいろ農作物についてお話をしたかったのですわ」

「料理についてもお話をしたかったです」


 オクタビアさんは知識について貪欲に知ろうとするし、実際スポンジのように教えた事は吸収しているから自分の好きな事を話すのが楽しくなるよね、分かる。ノエルですら面倒臭がるけど魔道具についての知識を教えているみたいだし。まあ、彼女の場合は魔道具を作る事ができる人が増えれば自分が楽できるから、という下心が透けて見えるけど。


「んー、じゃあ、転移陣でこっちに帰ってきて寝泊まりすればって提案してみるよ」


 婚約者(仮)だけど、お嫁さんたちと仲良くなっておく事に損はないなずだ。それこそ、婚約を白紙に戻す事になったとしても、ランチェッタさんやレヴィさんと親しくなって置く事は今後の彼女には有利に働くだろう。

 どうせエンジェリア帝国に戻るわけじゃないのなら、寝泊まりする場所が小国家群か屋敷かの違いなだけなんだし提案するだけしてみよう。

 もうお泊りが確定したかのような雰囲気で「楽しみですわ~」「そうですね」と話し合っているお嫁さんたちに「まだ決定事項じゃないから」と釘を刺しつつも、手紙を書くために和室を出て自室に向かうのだった。

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