534.事なかれ主義者は外で見る事にした
「ある程度の資金が集まりました」
明がそう言ったのは、イルミンスールのお世話を終え、ミスティア大陸から世界樹ファマリーの根元に戻ってきた日の夕方の事だった。
「明日にでも四十階層のフロアボスに挑む予定です」
「そっか。頑張ってね」
「万全を期すために、静人にも手伝ってほしいんですけどね。あの魔道具はダンジョン内だったら通話できるみたいでしたし」
「いや、『帰還の指輪』があるから大丈夫でしょ。危なかったらすぐに逃げればいいし、それが間に合わないんだったら僕にはどうしようもないよ」
魔道具『水晶型ビデオ通話機』が問題なくダンジョン内で作動すると分かってから何度か通話する度に提案されているけど、その度に必要ないからと断っている。
明も諦めればいいのに、とは思うけど、僕が明の立場だったらダメ元で頼む気持ちもまぁ分かる。
誰だって自分の命は惜しい。情報がない階層を進む際に僕が必要に応じて魔道具を作って共有化したアイテムバッグを経由して送れば格段と探索は楽になるだろう。
でも、ダンジョンとか危険な場所には出来れば行きたくない。
セーフティーエリアが安全だと言ってもダンジョンの活発期になったら関係ないらしいし、なにより子どもが生まれる予定なのに危険な橋は渡りたくない。
「気楽に使えばいいじゃん、って言いますけど、『帰還の指輪』がどれだけ高価か知ってて言ってるんですか? 万が一の保険としてホムラさんから借りてますけど、パーティー全員が使う事態になったら支払金額がやばいんですよ?」
「仮にそうなってしまっても奴隷落ちしないためにお金を貯めてたんでしょ」
「まあ、それもありますけど……」
僕……というか、ホムラたちがダンジョンの調査を依頼した事もあり、貸し出される魔道具はある程度安めで貸し出している。
今後、何かしら魔道具が必要になったらその都度他の依頼に割り込む形で魔道具を作って提供する予定だし、その魔道具の代金も普通に冒険していれば問題ない価格に抑えるようにホムラたちに言っておいた。
それでも明たちがなかなか次の階層に進まなかったのは万が一の保険として借りている『帰還の指輪』を使う事になった際に、使用料を払えるようにするためだ。
他の魔道具と違って『帰還の指輪』は使い切りの魔道具なので使ったら後払いで請求する、という形になっている。
ボッタクリだと陽太が主張したようだけど、危険に足を突っ込んだとしてもすぐに逃げる事ができる優れ物だ。それ相応の値段がするのは当たり前………と、ラオさんが言っていた。
「しっかり録画さえしてくれれば、何かしらは作るから頑張って」
「……はぁ。分かりました」
明はこれ以上話しても意味がないと悟ったのか、転移陣を使ってドランの屋敷に帰って行った。
次に明と会話したのは翌日の日がだいぶ傾いてきた時間帯だった。
随分と疲れた様子だったけど、無事にボスは倒したらしい。
「フロアボスは何だったの?」
「スケルトンドラゴンとドラゴンゾンビでした」
「へー。強かった?」
「当然強いに決まってるじゃないですか。相手はSランクのドラゴンですよ? しかも二体なんて、普通の冒険者は速攻逃げますよ。四十階層のボスの情報が全くないのも頷けますね。アレに全滅させられ続けたんでしょう。普通はフロアボスの階層に入ったら逃げる事なんてできないですから」
「倒せたの姫花のおかげなんだから、分け前は多めにしなさいよね!」
「そのための時間を稼いだのは俺たちだろうが!」
姫花と陽太の言い争いは放っておいて、実際どれくらい厄介だったのか聞いてみた。
「まず、ドラゴンゾンビですが、周囲に悪臭と共に有毒なガスを放出している、と読んだ事がありましたが、これらはどちらも静人の魔道具のおかげで問題なかったです。魔力消費量が上がっていたので相当空気は淀んでいたんでしょうし、ガスは充満してたんだと思います」
「炎系の魔法使ったら大爆発しそうだね」
「はい。ですから、ゾンビ系の魔物に効果的な火魔法は使えませんでした。まあ、こちらには姫花がいたので何とでもなりましたが、神聖魔法がなければ消耗戦が強いられて撤退していたでしょうね。回復速度も尋常ではないらしいですし」
陽太と不毛な言い合いを続けている姫花だけど、神様から【聖女】という加護を授かっている。
回復魔法で有名な加護だが、対アンデッドに効果抜群の神聖魔法も使うことが出来るらしい。後方に控えて治療する事がメインだから神聖魔法を使う【聖女】の加護を授かった人たちは多くないらしいけど。
まあ回復役が倒れたら大変だもんね。
庇護下に入ると自由が無くなるからと姫花はまだ明たちと冒険をしているけど、彼女もいつかはそうなるのだろうか。
「スケルトンドラゴンについても同様で、姫花のおかげで比較的楽に倒せました。厄介さで言うとドラゴンゾンビの方が上でしたね。博物館にある恐竜の化石、みたいな感じの見た目でしたが骨の硬度が尋常じゃなかったです。まあ、どちらも飛ばないですし、神聖魔法のおかげで何とかなりました。その時の映像は……カレンさん」
「はい。録画した魔道具はこちらになります」
明の近くに静かに控えていたカレンと呼ばれた女性が首飾りを外して差し出してきた。
以前、大国ヤマトとひと悶着あった際に首輪型の記録カメラを作っていたが、見た目を改良した物だ。
映像を見ながら解説してもらった方が分かりやすい、という事でジュリウスにスクリーンと投影機を準備してもらって、僕はサクッと椅子を【加工】で作った。
「ほんと、便利な加護ですね」
「明たちも椅子いる?」
「そうですね。あると嬉しいです」
「なんでこんな所で見るのよ。あっちの屋敷で見ればいいじゃない」
姫花が文句を言うと、先程まで言い争いをしていた陽太も同調した。
でも、陽太を入れるとなんか厭らしい目つきで女性陣を見そうだしな……という事で、二人の文句はスルーして明たちの分の椅子も作る。
まあ、椅子と言っても丸椅子なんだけど。
「おい、明らかに俺たちの分の椅子手を抜いてんだろ!」
「文句があるなら自分で作れば?」
僕は自分で作ったロッキングチェアに腰かけると、ぶつぶつ文句を言っている陽太を無視してスクリーンを眺めた。
そんな僕の様子を見て、ドライアドたちが集まり、膝の上とかに載ってきたのは言うまでもない事だった。
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