531.事なかれ主義者は予想していた

 世界樹フソーのお世話を一週間ほどした後は、世界樹イルミンスールの世話をするために再び別の大陸へと転移した。

 世界樹イルミンスールは僕たちの拠点であるドラゴニアから海を渡って北に進んだところにあるミスティア大陸にある都市国家イルミンスールの象徴としてある世界樹だ。

 他の世界樹と比べてもとても大きくて、そのおかげか世話をする時の消費魔力も少なめで済むから助かる。

 余った分の魔力は、今までこちらで蔓延していた呪い対策用のポーションの材料を作るために使っていたけど、こっちの大陸は転移門を設置していなかったから僕の魔道具のせいで呪いが蔓延している所はほとんどなかったのでそれもする必要が無くなってしまった。

 ウィズダム魔法王国とドワーフの国であるルンベルク、それからダークエルフたちが治めているノルマノンに設置した転移門の門番のために『鑑定眼鏡』を作ったくらいで後は自由だった。

 だから明から届く報告書をもとに何かしらの魔道具が作れないか考える事にしたんだけど……。


「手紙でやり取りするのってめんどいよね」

「代わりに代筆しましょうか?」


 そう申し出てくれたのは明から届く手紙を読んで要点をかいつまんで説明してくれるジュリウスだ。

 有難い申し出だったけど、手紙よりももっと手っ取り早い解決方法は既に思いついているので断った。


「またなんか作るつもりかよ」

「今度は何を作るのかしら?」


 エンシェントツリードラゴンのドラちゃんが食事をしている風景を眺めながら雑談に興じていた赤髪の女性二人組が僕の方に視線を向けてきた。

 またか、といった感じで呆れた目で見てきたのは赤い髪が短い方の女性、ラオさんだ。

 Bランク冒険者として活動していた彼女は背丈が二メートルほどあっていろいろと大きい。

 暑がりで、タンクトップやらおへそが出ている服やらを着ている事が多い彼女だったけど、最近は今日のようにお腹を締め付けないワンピースとかを着ている事が多い。スカート姿のラオさんって新鮮だなぁ、ってじろじろ見ていると小突かれるので、ラオさんと体格が似ている隣の女性に視線を移した。

 困った子ね、とでも言いたげな感じなのは赤い髪を腰ぐらいまで伸ばしているルウさんだ。

 ラオさんと同じく冒険者として活動している彼女は、普段は髪を結んでいる事がほとんどだったけど、最近はそのまま下ろしている事が多かった。レヴィさんと一緒に農作業をする時はポニーテールにする事もあるけど、今は食後のティータイムをしていたので真っすぐ下ろしている。

 ラオさんと同じく背は高く、胸もお尻も大きい。違うのは目つきと筋肉の付き方くらいだろうか。ラオさんは拳で、ルウさんは脚で戦うスタイルなのでそれぞれちょっと違う。

 そんな殆どそっくりな冒険者姉妹がなんかやらかす前提で見てくるのには癪だけど、自覚はあるので何も言えない。


「手紙じゃなくて話をしたいから、そういう感じの魔道具を作ろうかなって」


 もうイメージはできている。

 後は作るだけなのだが、ジュリウスに出してもらっているちょっとした間にテントから誰かが飛び出してきた。


「新しい魔道具を作るんすか! ボクも見たいっす!」

「それじゃあ試験もお願いね、ノエル」

「人を実験動物のように扱わないで欲しいっすけど……まあ、いいっすよ。ただし、完成したらしっかりと見せてもらうっすからね」


 鼻息荒く、興奮状態なのはハーフエルフのノエルだ。

 ジューンさんほど長くはないけど、ボサボサの髪からひょこっと出ている耳は細長くて尖っている。

 エルフ特有の金色の髪は手入れが面倒だからと寝癖で所々跳ねているけど、元々癖っ毛なのか波打っている。

 緑色の瞳はこれから作られるであろう魔道具が楽しみなのか、エメラルドのように煌めいているようにも感じた。


「それで、今回は何を作るんすか?」

「遠くにいても話せる魔道具」

「……それ、前にも作ってなかったっすか?」

「そうだね。だから今回は顔を見て話せる機能もつけようかなって」


 以前、映像を撮るドローンやらカメラを作ったり、その映像を移す投影機やらスクリーンを作ったりしたので問題なくできるはずだ。

 ただ、その複合的な魔法を何に【付与】するかが悩みどころだ。

 スマホみたいな感じで板に【付与】してもいいけど、ビデオ通話のイメージでいくとノートパソコンくらいのサイズは欲しい気もする。

 ……別に相手の動きとかが分かって会話さえできればそれでいいからそこまで大きくなくてもいいか。大きさがどうでもいいかなら、魔道具の見た目をいかにも魔法っぽいって感じにしたい。

 そう思ってジュリウスにアイテムバッグから取り出してもらったのは同じくらいの大きさの水晶玉二つだ

 それを手に取って【付与】でそれぞれ魔法陣をいくつも刻んでいく。

 あっという間にできたそれをノエルに渡そうとしたら、ノエルはジト目で僕を見ていた。


「なんで水晶玉の内側に魔法陣を刻んでるんすか。これじゃあ読み取ろうとしても分からないっすよ!」

「……ごめん」


 とりあえずタブレットくらいの大きさの鉄板にも同様に【付与】したけど「細かすぎて読めないっす!」と言われた。だよね、知ってた。

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