519.事なかれ主義者は家にお邪魔する
タカノリさんのお嫁さんはタカノリさんと年の離れた若い女性だった。
真新しいワンピースに身を包んだ彼女は、人形のように整った顔立ちで、綺麗系というよりは可愛い系だ。
道中、タカノリさんに教えてもらったけど、彼女は高位貴族の御令嬢らしい。
ドレスではなく、真新しい簡素なワンピースを着ていたけど、それでもお金持ちの御令嬢っぽいオーラは隠しきれていない気がする。……事前に聞いていたからそう思うだけかもしれないけど。
二十代前半くらいにしか見えないけど、彼女の隣には彼女と同じく白い髪に赤い瞳の少年がいる。恐らくタカノリさんの話によく出てくるお子さんだろう。確か十歳だった気がする。
そうなると二十代前半だと計算が合わないので、見た目が若々しいだけで歳はタカノリさんと同じくらいなんだろうか?
それとも――。
「なにかな?」
「いえ……奥さんって随分若い方なんだなぁって思いまして」
「ちゃんと前世の法律は守ってるよ」
「そっか、そうだよね。タカノリさんは普通の人っぽいし、事案かと思っちゃったよ」
こそこそと話をしていると、咳払いが聞こえた。
咳払いしたのはタカノリさんの息子さんの隣に立って僕たちを見ていた初老の男性だった。
髪の毛は白髪なのか、それとも元々その色のなのか分からないけど全部真っ白だった。
年齢相応の皺が顔に刻まれていて、厳つい顔立ちがさらに強面になっている。
タカノリさんに促されたので、とりあえず挨拶をする事にした。
「初めまして、シズトです。本日は急な訪問にも拘らずお出迎え頂きありがとうございます。タカノリさんと話をしたり遊んだりするだけなのであまり気になさらないでください」
「タカノリの妻、アビゲイルです。夫がいつもご迷惑をおかけしております」
「ご迷惑だなんてそんな事ないですよ! しっかり仕事をしてくれていて助かってます」
タカノリさんのおかげでこっちでは今の所面倒な貴族対応をほとんどしなくて済んでいると言っても過言ではない。
キラリーさんもいるけど、彼女はどちらかというと国内の人たちの相手をしてもらう事が多いし。
「あ、これつまらない物ですがどうぞ」
話が途切れる前に持ってきたお土産を渡しておこう。
両手で抱えるくらいの大きさのドラゴンフルーツを差し出すと、アビゲイルさんは笑顔で受け取ってくれた。
「………ありがとうございます」
「シズトくん。その……紹介がまだ終わってないんだけど」
「ああ、そうだね。ごめん」
渡す事に意識が向いていたけど、出迎えてくれたのは他に二人もいる。
話では聞いていたのでお子さんの事は知っているけど、初老の男性はアビゲイルさんのお父さんだろうか。目元がどことなく似ている気がするし。
「レイです! 十歳になりました。まだまだ未熟者ですが、父上と同じ仕事をする予定です!」
「外交官希望って事?」
「ああ、違うよ。教会所属の鑑定士になる予定なんだ。ただ、君が作った魔道具『鑑定眼鏡』のおかげでどうなるか分かんないけど」
「それは……ごめん」
「いやいや、謝るような事じゃないよ。鑑定士の行き着く先は邪教徒狩りだからね。子どもができるまでは鑑定士として働いて、その後は邪神の信奉者を探す旅に出るんだ。可愛い子には旅をさせよ、とはいうけど流石にその度はさせたくないから、『鑑定眼鏡』を使った今の取り組みが上手く行ったら危険な旅に出さなくて済むしとても助かるんだよ」
「そうですね。加護を授かった者の宿命だと受け入れておりましたが、可能であればこの子には平穏な日常を送って欲しいですから」
アビゲイルさんが優しい微笑みを浮かべながら優しく我が子の頭を撫でる。
レイくんは嬉しそうな表情に一瞬なったけど、キリッとした表情で「その場合は父上と一緒に外交官として働きたいです!」とお願いしてきた。
「五年後、同じ気持ちでしっかりとスキルが身についてたら考えてもいいかな」
「頑張ります!」
五年後なんてどうなっているか分かんないけど、やる気満々で目をキラキラさせているレイ君を応援するしかなかった。
「……そろそろよろしいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
話が切れたタイミングで挙手をしながら初老の男性が口を開いた。
順番に自己紹介してもらうんだったら合間合間で余計な事を言わない方が良いよな、やっぱり。
いや、でも気になる事はすぐに聞いておきたいし、雑談が入ったからか場の空気もなんだか柔らかくなった気がするし、公式の場じゃないから別にいいか。
「アビゲイルの父ライアス・バンフィールドです。ウィズダム魔法王国では公爵家の中でも火を司っている家系です。本日は無理を言ってこの場に同席させていただきましたが、孫と遊びに来ただけの爺だと思って頂ければと思います」
「ご丁寧にありがとうございます。ライアス様さえよろしければ、非公式の場ですし普通に話してください。僕は敬語が苦手なのでその方が助かります」
「そうか。そういう事であれば、そうしよう。今日は話をするだけではなく遊びに来た、と言っていたが何をするんだ?」
「記憶を頼りに作ったボードゲームでもしようかなって」
アイテムバッグの中に入れてあるからいい暇つぶしにはなるだろう。
ゲームと聞いてレイ君がそわそわし始めたけど、ずっと玄関前で立ち話をし続けるのもアレだから、とタカノリさんに促され、とりあえず家に入る事になった。
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