394.事なかれ主義者は分からない事は人に任せる

 よっぽど地面を覆った鉄で拘束されていたのが応えたのか、数日で捕虜たちは投降した。

 一定数いた女性はすぐに投降したいと申し出があったみたいだけど、男性陣は助けが来る事を信じて待っていたようだった。ただ、全く誰もやって来ない事が数日続いて、飲まず食わずだった事もあり諦めたようだった。

 もしかしたら罠かもしれない、という事でドローンゴーレムでしばらく様子を見ていたけど、どうやら糞尿による悪臭や、服の中でしてしまった気持ち悪さ、昼夜問わず近づいてくるスライムたち等、いろいろと限界だったみたいだ。

 僕も同じ境遇になったら降伏するだろうから気持ちは分かる。

 投降した兵士たちの数がとても多かったので北側の国々に協力を求めたら快く応じてくれたんだけど、終わった後にお礼の挨拶をしに行ったらなんかすごく距離を取られた気がする。

 軍のお偉いさんたちにお礼と共に何かあったか尋ねたけど理由は教えてくれなかった。

 まあ、何はともあれ南側の旧市街地にヤマトの兵士は見当たらなくなった。

 ドローンゴーレムでの偵察には限界があるので、ユグドラシルやファマリアから志願者を募って、警備をしてもらう事になった。ジュリウスが手紙を送っていたので、数日後には選定が終わっているだろう。

 また、捕まえた兵士たちの引き渡しが終わったので旧市街地に人気がなくなってしまったので、大市場で稼いだお金を使って、奴隷になってしまった元都市国家フソーの住人を買い集め、街の清掃活動に従事してもらう事になった。兵士が糞尿でだいぶ汚れてしまった所があるのでしっかり綺麗にしてもらいたい。

 気分的に、糞尿がまき散らされていた部分の鉄は触りたくないので……スライムを活用すれば見た目だけはとりあえず綺麗になるから、嫌がらずに頑張って欲しい。


「……ヤマト側がこのまま引き下がってくれるといいんだけどなぁ」

「これだけでは難しいと思うのですわ。それに、あの勇者がこのままやられっぱなしで引き下がるほど賢いとは思えないのですわ」


 寝泊まりしている建物の周囲を畑にして農作業をしていたレヴィさんが、僕の呟きに反応して近づいてきた。

 動きやすいように長袖長ズボンという格好だけど、規格外の大きさの胸の主張が激しくて目のやり場に困る。

 即席でベンチを作ってそこにドライアドたちと一緒に座って休憩をしていたんだけど、レヴィさんが僕の隣を陣取っていたドライアドたちをどけて腰かけた。

 ドライアドたちは抗議を特にせず、僕の膝の上に乗っかってくる。


「その手があったのですわ」

「ご遠慮ください。……修一さんはやっぱり何かしてくるかな?」

「アダマンタイトの檻は侵入者は通さないのですわ。でも、格子よりも小さな矢や魔法は通してしまうのですわ。こちらの勇者は風系の加護を授かっているという噂ですし、猶更攻撃はしやすいと思うのですわ。巨大竜巻や、雷を落とすとか……いろいろやりようはあるのですわ。あと、フクちゃんの出入りのためと、世界樹を傷つけないために作ってある上空の隙間には気づいているはずですわ。人海戦術で攻めたら大量に捉えられてしまったから、今度は少数精鋭で襲ってくるかもしれないのですわ」

「んー……ドーム状に覆っちゃって引き籠りたい」


 ただ、そうすると中が真っ暗になるんだよなぁ。

 ドライアドたちが日光浴するためには太陽光が通るようにしなきゃいけないし……あと単純に酸欠になりそう。

 魔道具で何とでもなるとは思うんだけど、そのためにはそこそこのランクの魔石が必要になるんだろうけど、今は大陸間の移動をするためにあんまり使いたくない。

 考え込んでいると、レヴィさんが僕の太ももを優しく撫でた。


「大丈夫ですわ。こうなるだろうと見越して、北側の国々にも協力を依頼したのですわ。準備が整い次第、駐屯地を作ってそこに派遣してもらう予定ですわ。城壁にも一定数の兵士を配置してもらうから、何かあったら対応してくれるはずなのですわ~」

「手伝ってもらえるのは良いけど……向こうにメリットあるの?」

「四ヵ国それぞれの同盟国とフソーを繋ぐ転移門の設置、それからそれらの国に対して大市場の参加の許可をしてほしいと要望が出ているのですわ」

「あの広間にあれ以上転移門は設置しない方が良いんじゃないかな?」

「そうですわね。今でも人が大量に行き交って賑わっているのですわ。だから、南側の開けた土地に作ろうと検討中なのですわ。……もちろん、シズトが嫌だと言えば、その他にも希望が出ているからそれと引き換えに街の警備をしてもらうのですわ。……どうするのですわ?」

「そうだねぇ……」


 転移門を繋げる事のメリットをヤマトにも理解してもらうためにも、大市場の増設……? をするのは確かにありかも。

 旧市街地の北側を防衛するために、僕たちがいない間に兵士の通過を一時的にライデンが許可してたみたいだけど、他国に対しても無制限に兵士の行き来を許可すればけん制し合って戦争も起きにくくなるかな? 何かあった時助け合う事もできるようになるだろうし……。

 ……影響がどう出るか分かんないし、ライデンのように今回だけ一時的に、にした方が良いのか。

 んー……わからん。


「とりあえず、転移門と大市場は作ろうか。転移のルールも今までと同じで、自分たちの国以外の所への移動は制限して。あと四ヵ国だけで防衛が難しいって話が出たら、新たに転移門を設置する国々の転移門を一時的に兵士の移動を許可して協力を募る感じで……。……兵士はやめた方が良いかな?」

「分からないのですわ。今回の大市場の恩恵を得るために下手な行動はしないでしょうけど、兵士の数などなにか制限は設けておいた方が良いかもしれないですわね」

「なるほど……いつも通り細かい所はお願いしてもいい?」

「分かったのですわ~」


 レヴィさんは席を立つと「お父様に手紙を出して相談してみるのですわ~」と言って出て行ってしまった。

 残された僕はドライアドたちに囲まれながら日向ぼっこをした後、彼女たちにお願いされるまま【生育】の力を使って、森の外縁部の荒れてしまった土地を治していった。

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