152.事なかれ主義者は目がチカチカした。

 以前、ラオさんからジュリウスさんがとても強いと聞いていたので今回実験に付き合ってもらおうと思ったんだけど、ジュリウスさんの実力を知らない事に気づいた。


「ジュリウスさんってユグドラシルの中だとどのくらい強いの?」

「強さの基準にもよりますが、総合力で言えば私よりも上の者はいないと自負してます」


 考える素振りも見せず、謙遜する事なく答えるジュリウスさん。すごい自信だなぁ、って思っていたら「長生きしてますから」と付け加えた。

 話をしている間に、ラオさんはアイテムバッグの中に入っていたアダマンタイト製の物をすべて出し終わったようだ。クーを抱え直して僕の方を見てくる。

 ちょっと他の金属と比べると量が少ないから勝負で使えるか不安だけど、足らなかったら守りはコレを使って、攻めは鉄とかミスリルとか使えばいいや。

 とりあえずお試しで一塊にしてしまおう、と加工の加護を使う。


「ドワーフの悲願をこうも容易く……」

「プロス様から頂いた加護は、木や金属を自由に加工できるんだよ。って、思ったよりも量があるな。これアイテムバッグに入らないし、やっぱ延べ棒にしとくべきかな? でもそうすると一個ずつ触れないと一気に加工できないし」

「魔道具の持ち込みは問題ねぇはずだし、その塊に転移を付与しておけばいいんじゃねぇか? 前作った槍みたいに」

「確かに。腕輪は大きくて邪魔だし、指輪にしとこうかな。なんか見た目がよさそうな指輪がバッグに入ってた気がするけど……」

「選んどいてやるからさっさと実験の準備しろよ」

「……実験に付き合ってほしい、という事でしたが私は何をすればよろしいのでしょうか? 『龍の巣』の模擬戦ですか?」


 アダマンタイトを加工したのを見て何事か考えていたジュリウスさんだったが、気持ちを切り替えたのか首を傾げて尋ねてきた。

 龍の巣、ねぇ。


「それ、まだよく分かってないんだよね。陣地にある卵に見立てた何かを守りつつ、相手のとこにある卵を割ったり決められた場所まで運んだら得点になるんだっけ?」

「ざっくり言うとそうだな。加護持ちが殺し合わねぇようにって誓約で縛られて試合するけど、殺すつもりがない攻撃で死ぬとかはあるし、防御系の魔道具も作っておけよ。万が一がないように審判もいるし、アタシらもいつでも動けるようにはしてっけど、怪我は普通にあり得るからな」


 痛いのは嫌なので、そこら辺は自重するつもりないっす。


「危ない時は主審として止めますので」

「ジュリウスさん審判なの? っていうか主審?」

「第三者としてユグドラシル側から人員を出してほしいと依頼が来ております。ドラゴニアの中の実力者と比べても、私は上位の方ですので」


 第三者とは。がっつり身内じゃない?

 まだ奴隷じゃないからセーフ?

 そういう物なのかなぁ。

 そう思いつつも時間が時間なのでアダマンタイトの耐久テストをする事にした。


「いえ、普通に無理ですよ。確かに精霊魔法の中で火が一番得意ですが、アダマンタイトを溶かすほどの熱量は出せません」

「それは分かってるんだけど、アダマンタイトで包んだ中身が無事なのかを試したいの! ほら、アダマンタイトでこう卵を囲っても、中が灼熱地獄だったら守り切れないかもしれないじゃん? 実際に卵を使う訳じゃないからどうなのか分かんないんだけどさ」


 温度計なんてものはないので、とりあえず鉄を加工して即席で作ったたらいの中に水と氷をたっぷり入れて、その周囲をアダマンタイトで覆う。厚さは……どのくらいが普通なんだろう? ざっくりと半円状のドームを作っているとラオさんが後ろからアドバイスをしてくれた。


「地面を覆うのも忘れんなよ」

「はーい」


 さて、そうしてできた金色のドームからラオさんと一緒にめちゃくちゃ距離を取る。

 このくらいの場所でいいかな、と思ったけどまだ駄目だったようで、ラオさんに小脇に抱えられてその倍以上離された。

 ダンジョンの壁付近まで下がったところでラオさんがジュリウスさんに合図をすると、彼は頷いて金色のドームに向き直る。

 ジュリウスさんが手を前に突き出すと、彼の周囲に何か赤い光が集まっているように見えた。


「……アレは火の精霊だろうな。アタシたちでもぼんやり見えるくらい強い力を持ってる精霊は珍しいな」

「そうなの?」

「ノエルとかジュリーンが魔法を使う時はあんな光見えねぇだろ? あの二人はそこら辺にいる精霊に魔力を与えて力を貸してもらってるだけだから、たまたま力の強い精霊が側にいないとああなる事はねぇな。ジュリウスの場合は契約を交わして常に強い精霊に側にいてもらってるんだろうよ」


 ラオさんの解説が終わると同時に、正面がとても熱くなった。

 そちらに視線を向けると、金色のドームを中心に火柱が立っていた。どんどんと火力が上がって行くのが肌で分かる。ちょっと、っていうかだいぶ痛いって思っていたら、いきなりその熱さを感じなくなった。


「流石、最強を自負するだけあるな。複数の精霊と契約して同時使役とか見た事ねぇよ」


 ラオさんの視線の先には、僕らの周囲をくるくると飛び回る青い光と緑色の光。どちらも丸い。こうやってみると蛍の光を思い出す。まあ、本物を見た事ないから想像なんですけどね!

 あほな事を考えていたのが精霊たちに伝わったのか、僕の目の前をブンブン飛び回る。

 ちょ、眩しいからやめて!

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