149.事なかれ主義者は蚊帳の外

 町に着くと護衛としてついて来ていた近衛兵たちが僕たちの周りを囲む。

 体格がいい人が多くて周りがよく見えない。町の人たちの視線が集まっているような気がする。

 レンガで舗装された広い道を歩いていると、道の端の方で露天商が店を開いていた。

 いい匂いが漂ってきて、それにつられてフラフラと匂いのもとに近づいていくと、周囲の近衛兵たちも僕の動きに合わせてフラフラと進む。


「ちゃんと歩け」

「いたっ」

「人数分貰うのですわ!」

「その前に毒見をしますのでしばしお待ちを」


 ラオさんに小突かれた頭をさすっている間にレヴィさんが注文を終えていた。

 毒見役としてついて来ていたのか分からないけど、近衛兵がセシリアさんの発言よりも先に既に動いていて、露天商のおじさんに話しかけている。

 おじさんは明らかに挙動不審になっていた。大人数の屈強な男たちに詰め寄られたらそうなるよね、分かります。

 万が一毒があったとしてもエリクサーで何とでもなるだろうからそこまで神経質にならなくてもいいと思うんだけど、立場的にそうも言ってられないんだろうなぁ。レヴィさん王女様だし。

 それか、毒検知器的な魔道具でも作ろうかな。自分専用の食器に付与すれば食べる前に気づけるだろうし……毒って言う概念が広すぎるのか思いつかないな。

 無難に状態異常無効のアクセサリーを付けるとかそんな感じ?

 うーん、と首を傾げて考え込んでいる間に毒見も終わったようで、レヴィさんからお皿を渡された。

 屋台の近くに置かれていた木箱に座り、箸でうどんを啜る。

 うどんは普通にうどん。味が変という事もなく、可もなく不可もなし。

 ただ、やっぱり謎肉が入っていた。普通においしいからいいんだけどね。


「オークのお肉、久しぶりに食べたわ~」

「最近は全然食べる機会ねぇもんな」

「これ、オークの肉だったんだ」

「魔物のお肉は美味しい物もあるのですわ。魔力が含まれているから美味しく感じるのではないか、とかいろいろ議論があるのですけれど、美味しければ何でもいいのですわ」

「そうだよね。……美味しくないのもあるの?」

「ゴブリンのお肉は美味しくないわね。どうしても食べ物がなくなってしまった時くらいしか食べたくないわ」

「ダンジョンには必ずいるから、アレが食用になったらいいって研究は進んでるらしいけどな」


 ラオさんとルウさんは既に食事を終えてしまったようで、おかわりを貰いに席を立った。

 相変わらず食べるのが早い。

 レヴィさんと並んでちゅるちゅると食べ進める。


「ちょっと量が少ないね?」

「そうするように頼んだようですわね。他にもたくさん屋台が出てるから食べ歩きした方が楽しいと気を効かせたのかもしれないのですわ。セシリアの好きな辛い物もあった気がするのですわ」

「セシリアさん辛いの好きなの?」

「嗜む程度です。わざわざそのお店を探しに行くほどではないですよ」

「ふーん……」


 うどんに赤い調味料を大量投入してたのチラッと見てたけど、お店の人怒らない? 大丈夫? スープの色変わってなかった? っていうか、その調味料アイテムバッグの中に入れてたの?

 既に汁まで完食したセシリアさんはすました顔で食器を返しに行った。




 ファマリアを歩いているとやっぱり目に付くのは奴隷の首輪をつけた女の子たちだ。幼い子どももいれば、僕と同い年くらいな気がする子もいる。ただ、大人は見当たらない。

 っていうか、なんでこんなに女の子ばっかりなんだろう?


「男もいる。怪我がひどいから外で活動してない」

「怪我してんの!?」

「怪我と言っても部位欠損とか見た目が悪いやけどとか。働ける程度には元気。じゃなきゃ買わない」


 ドーラさんは何でもないように言うけど、部位欠損ってやばくない?

 ポーションで治るのかなぁ。……最悪、エリクサー?


「実験すんなよ」

「お姉ちゃん、人数が多すぎると思うなぁ」

「褒美ならあり。まだ早い」


 褒美って言っても、長年頑張って働いてくれたね、じゃダメだよね。

 んー……大会の景品とかにでもしちゃう?

 いや、それはそれでなんか問題になるかなぁ。

 うんうん唸りながら歩いていると、レヴィさんにキュッと手を少し強く握られた。


「町のお祭りを盛大に行うのはどうですわ? それで何か催し物を開くのですわ! その時に神様たちも広めていくのですわ~」

「催し物……大会とか?」

「一般参加者も募ればたくさん集まるんじゃね?」

「でも、同じ大会に奴隷が参加してたら文句を言う子も出てくるんじゃないかしら?」

「部門を分ける」

「それが無難ですわね。平民の中に貴族がいるだけでもややこしい事になるのが目に見えるのですわ。それが奴隷だと猶更やばいですわ」

「やるのはいつにすんだ? イザベラに話を通しておきたいんだが」

「そうねー。もしかしたら何か協力してくれるかもしれないわ」

「レヴィア様、国王陛下にもお伝えした方が都合がいいかと」

「あー……お父様には手紙で十分ですわ。ただ、一週間から二週間後を目安に考える事にするのですわ」


 ……なんか、僕の手に負えない話になってきたぞ?

 え、賞品準備するだけでいい?

 それなら頑張れそう!

 頑張らなくていい? 程々で?

 ……ちゃんと事前に賞品はそれでいいか確認してもらう事になった。

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