143.事なかれ主義者は女の子が好き

 モニカに案内されて応接室に入ると、一人のエルフが立って待っていた。

 僕に気がづくと、エルフはその場に跪く。

 エルフの特徴である金色の髪は短く、端正な顔立ちから女性のようにも見える。伏せられた目を長い睫が縁取っていた。


「シズト様、お言葉を」


 スッと僕の耳元に顔を近づけて、ボソッと言うモニカ。

 どうでもいい事だけどいい香りがふんわりと漂ってきた。


「えっと……とりあえず、顔を上げてもらえます?」

「ハッ」


 短く発せられた声は低かった。

 多分男の人だろう。っていうか、どこかで聞き覚えがあるぞ、この声。

 跪いたまま、僕を見上げてくる綺麗な顔立ちのエルフをジッと見るが、生憎エルフに知り合いはいない。

 とりあえず椅子に座るように促して、僕も彼の正面に座る。

 ラオさんは僕の後ろに仁王立ちで控えている。そんな腕を組んだら、ただでさえ大きいモノが強調されるじゃん。

 チラチラとラオさんに意識が持っていかれていると、それに気づいたラオさんがコツンと頭をグーで小突いた。

 視線を目の前の人物に向けると、その人物は綺麗な姿勢で座っている。

 エルフって皆こんなきれいな顔立ちなのかな。そりゃ物語とかで狙われますわ。

 目の前のエルフさんは、その緑色の目で僕を真っすぐに見てくる。

 さて、なんて声をかけようか、と考えていると、誰かが廊下を走ってくる音が室内にまで聞こえてきた。

 その足音がこの部屋の前で止まると、少ししてからノックの音が部屋に響く。


「どうぞ」

「失礼するのですわ!」


 モニカが開けた扉から入ってきたのは予想通りの人物だ。

 作業服姿のレヴィさんが、軽やかな足取りで部屋に入ってくると、僕が座っているソファーに座る。ってか、近い。ちょっと腰を浮かして横にずれようとしたら、太腿の上に柔らかい物がそっとのせられた。大人しく座っとけって事っすね。


「シズト、自己紹介はしたのですわ?」

「今からしようかな、って」

「そうなのですわね。ユグドラシルの使者様のお名前を聞いてから名乗るのですわ」


 なるほど、そういうものなのか。

 エルフさんに視線を戻すが、目の前で聞いてたはずのエルフさんは言葉を発しない。

 レヴィさんが「シズトから聞くのですわ」と言われる。よく分からないけど、立場的なアレでそうするのかな。今度そういうマナーについて聞いといた方が良いかも。


「お名前を教えてもらってもいいですか?」

「ハッ。世界樹の番人のリーダーを務めさせていただいております、ジュリウスと申します。こうして顔を直接お見せするのは初めての事ですが、使徒……シズト様のお許しを頂ければ、身の回りの警護をさせていただきたく思います」


 ああ、だから声に聞き覚えがあるのか。


「前は禁足地の番人って聞いたけど、何が違うの?」

「世界樹の番人とは、世界樹と世界樹の使徒様をお守りする組織です。世界樹の使徒とは、世界樹を育む者の事。つまり、今はシズト様の事です。シズト様に気づかれず、無断で周辺警護をする事も可能でしたが、我々のしてきた事を考えるとそのような事できるはずもなく。……シズト様のお許しを頂くまでは、禁足地の番人として活動をしておりました。お許しが頂ければ、ユグドラシルだけでなく、ファマリーとシズト様の警護をと考えております」


 ……なるほど?

 ファマリーにはフェンリルがいるし、必要なさそうだけど、僕の周辺警護ってどうなんだろう?

 一人で行動しないようにはしてるけど、ラオさんたちがいない時もたまーにあったし。

 後ろに控えていたラオさんに視線を向けると、ラオさんが「発言してもいーか?」と聞いてきたので頷く。


「前回の邪神の信奉者の時に、そいつらの力量は見た。戦闘スタイルがちげぇから一概に言えねぇけど、そこに座ってる男は間違いなくアタシより実力は上だ。傍に置いて裏切られたらどうしようもねぇが、そこら辺はなんとでもなるだろ。そいつらが快諾するかは知らねぇが、奴隷契約でも結んじまうのが手っ取り早いと思うぜ」

「奴隷って……」

「シズト様がお望みとあらば」


 ジュリウスさんは少しも迷う事無く、そう言った。

 ノエルもそうだけど、エルフってなんか奴隷になりたがりがちじゃない? いや、ノエルはハーフエルフだけどさ。


「ただ、私以外は分かりかねますので、奴隷契約に関しては少々お時間を頂きたいです」

「なんか奴隷になる方向で話が進んでない? 別に誓文でもいいんだよ」

「契約の交わし方次第では抜け道ができてしまうのですわ。奴隷商に頼めばいつでも解放はできますし、そうした方が安心して皆過ごせるのですわ」

「お前、男の同居人が欲しいって前に言ってただろ? ちょうどいいじゃねぇか」

「……そちらの趣味がおありなのでしょうか? それならば流石に部下たちに強制する事は難しいのですが……」

「ちゃんと女の子が好きだし、強制しなくていいから!!」


 ほんとだよ! 最近たまにしか反応しないんだけどね!

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