142.事なかれ主義者はちょっと不安
ファマリーの近くにできる町の名前を付けてから五日たった。
ファマリアには、少しずつ住民が引っ越してきているらしい。
どんな人が来ているのか気になったけど、魔剣がなかなかできないから泊まり込み始めたドフリックさんを追い返すためにも、魔剣の制作に集中した。
町の方はそのうち見に行けばいいや。
「それで、今日こそ出来上がった魔剣を見せてくれるんじゃろうな?」
当たり前のように食卓に混じって朝食を食べつつ酒を飲んでいるドフリックさんが聞いてきた。
もう武器を作らなくていいと伝えてから、こうして飲んだくれている。
夜ご飯を食べた後は、ドロミーさんが別館の方に引き摺って行く。別館は彼女らに現在貸し出し中だ。
「つけたよ」
「そうか。それで、どれに付与したんじゃ? やはり剣か?」
「全部」
「……?」
「だから、全部に付与したの。魔力を増やすための訓練のついでにね」
なにより、せっかく作ってくれたのに付与しなかったらもったいないし。
ちゃんとラオさんが仕事から戻ってきてから、近くで付与したので問題ないはずだ。……たぶん。
朝食後、今日の世話係のラオさんとドフリックさん、ドロミーさんを引き連れて不毛の大地に転移する。
転移直後に、フェンリルがのそっと起き上がって二人を見たが、すぐにまた丸まって眠ってしまった。
臨戦態勢になっていたドフリックさんを落ち着かせた後、聖域の外に出て実験をするために、浮遊台車を取り出して移動する事にした。
ドフリックさんとドロミーさんが不思議そうにしているけど、とりあえず親子で乗ってもらって僕が押す。ラオさんは走ってついてきた。
二人が落ちない程度の速度で、地面を蹴ってスイスイと進むと、聖域を抜けた。
子どもたちが皮でできた防具を身に纏い、不毛の大地を駆け回っている。
ニョキッと生えてきたゾンビ系のアンデッドにピカッと光を当てて燃やしたり、飛んでやってくる厄介なレイスにも落ち着いて対処して、光を当てて消していた。
突然アンデッドが大量に湧いて囲まれたのであろう子どもたちが、ダッシュで町の中に逃げ込んでいく様子もあった。
もちろん、子どもだけではなく大人の冒険者もいたが、だいぶ歳がいっているように見える。
歴戦の冒険者、という感じではなくてもう引退した人、見たいな見た目だ。
子どもたちが処理しきれなかったアンデッドの相手をしているから、子どもたちの用心棒的存在なのかもしれない。
「ここら辺でいいんじゃねぇか? あんまり離れすぎると不測の事態に対応しきれねぇぞ?」
「そうだね。じゃあ、使い方説明するから見ててね」
完全武装のラオさんが、周囲を警戒している中、僕はアイテムバッグから新しく作り出したミスリル製の魔剣……魔武具を取り出した。
どの武具も自動修復機能だけは付けた。大きな破損じゃなければ直る程度の物だけど、それを付けると二種類以上の付与になるから、ラオさんはあんまりいい顔しなかったけど、これだけは譲れなかったので押し通した。
「まず前提として、どの武具にも自動修復機能つけてある。ただ、原形をとどめてなかったり、半分以上なくなってたら直らないから」
「それでも凄まじいんじゃが……」
「んで、この剣にはそれに加えて『身体強化』の魔法を付与してる」
実験の時みたいに増幅機能を付けてないから、ラオさんがいう普通のレベルの身体強化だけどね。
ちょっと地味かな、って思って最初に説明したけどドフリックさんは満足げだ。
「二つ付与されてるだけでも珍しい部類だからな」
ラオさんが周囲の警戒をしながらボソッと呟いた。
……武具が壊れて使用者が死んじゃったら嫌だから、なんと言われても自動修復は外す気がない。聞こえなかった事にして、槍を手に持つ。これは僕が作った腕輪とセットの物だ。
「これは槍に魔力を込めておくと、対となる腕輪に魔力を流せばいつでも手元に槍が転移してくる物。『転移』の魔法を付与してる」
「なるほどのう。転移陣も作れるくらいじゃから、このくらいは楽に作れるという訳か」
実際は転移陣に付与している物とちょっと違うけど、説明が楽だからそういう事にしておいた。
槍って投げるイメージだからつけてみたけど、どうなんだろう?
槍投げるくらいだったら他の手段で遠距離攻撃すればいいのに、って思っちゃう。あんまり実用的ではないかな?
ドフリックさんはやっぱり満足そうな雰囲気だったので、気にしない事にした。次に作った物を取り出す。
「次はこの大槌。魔力を流す量に比例して重くなる『重量化』を付けてみた。あんまり流しすぎて地面を叩くと大惨事になるから気を付けてね」
【軽量化】と【怪力】の加護を持つらしいドーラさんが使ったらどうなるのかな、って思って試してみてもらった時の事を思い出して、ちょっと忠告しておく。
あの時はさすがのドーラさんも目を丸くしていたなぁ。
「大剣は普通に炎の魔剣だから、説明省略するね」
「さらっと人気の魔剣が流されるんじゃな……」
「双剣は、片方が『発熱』で片方が『冷却』の魔法を付与してる。ちょっとお湯が欲しい時や、氷を作りたい時にこうやって使うと便利だよ! あとは高熱で焼き切ったり、切りつけたところを凍らせたりもできる」
「……むしろ後者がメインのはずな気がするんじゃが?」
「盾は『反射』を付与しておいたけど、限度があるから過信は禁物かな。あと、ちゃんと盾に魔法を当てないと反射できないから、広範囲を攻撃してくる魔法系は無理。最後のガントレットは剣と似てるけど、『怪力』を付与してる。重いもの持つ時とか楽かなって」
実際にドフリックさんが試してみたいかな、って思ったけど、実演するだけで十分だったようだ。盾は魔法を使える人がこの場にいなかったから実演はできなかったけど……いいのかな?
引き渡しは屋敷に戻ってから、という事になったので浮遊台車にまた乗ってもらって屋敷に戻る。
最後の方は以前、魔道具で作った物と似た物になっちゃってるけど、言わなきゃばれないでしょ。
そう思いながら屋敷の地下に転移すると、モニカが控えていた。
「どうしたの? ここで待ってるって事は何か厄介事?」
「厄介……かどうかは私には分かりません。都市国家ユグドラシルの使者様がご来訪されました。今回の騒動に関する詫びの品を持ってきたそうです」
なるほど、とうとう来たか……。
ドフリックさんが反応するかな、って思ってチラッと見たけれど、魔剣の事で頭がいっぱいなのか魔剣のお披露目の後から戻ってくるまでずっと静かに何か考え込んでいる様子だ。
「ドフリックさん、一緒に見に行きます?」
「………」
「パパン、一つの事に集中するとこうなる。シズトさんたちだけで見に行って。ドロミーがパパンと一緒にいるから大丈夫」
そう?
じゃあ、僕たちだけで見に行こうか。
どんな物が送られて来たのか、…………ちょっと不安だ。
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