122.事なかれ主義者はせっせと作った
意味深な事を言って僕の匂いを嗅いでいるクーを体から無理矢理引き離す。
「なんとかするって、どうするの?」
「説明面倒だから、やってあげるね、お兄ちゃん」
首を傾げてどういう事か確認しようとしたら、風景が一変した。
慌てて周りを見ると、周囲は暗く、月明かりが世界樹を照らしていた。ファマリーよりも遥かに大きく、葉っぱがついていないその姿には見覚えがある。
「え、ユグドラシル!?」
「そうだよ、お兄ちゃん。あーし、一度行った事がある場所だったら跳べるんだ。便利でしょー」
急な転移で、椅子に座っていた状態だったから尻餅をついた体勢でいると、手を繋いで一緒に転移してきたクーが目を細めて笑う。
せめて一言、やる事を説明してから転移してほしい。
「説明がめんどーだったんだもん。百聞は一見に如かずって言うんでしょ?」
「そうだけど、心の準備とか必要なんだよ! それに、こっちに転移した瞬間に魔物の目の前とかだったら大変でしょ!? ってか、護衛の皆置いてきちゃってるし、早く戻るよ!」
「はぁーい」
「あ、戻ってきたのですわ!」
リビングに戻ると真っ先にレヴィさんが反応した。
酒盛りをしていたはずのルウさんが抱き着いてきて、ラオさんがドカッと椅子に座り直している。
「見てたから状況は分かるけど、ちゃんと手綱握っとけよ?」
「いきなり消えるんだもの。お姉ちゃんびっくりしちゃったわ。クーちゃん、二人だけで転移しちゃメッよ?」
ルウさんルウさん、クーに注意するのは良いんだけど離してもらえません? お胸がですね?
ってか、クーもそっぽ向いてないでちゃんとルウさんの話聞いてあげて。じゃないとこのまま解放されない気がするから。
「あーし、お兄ちゃん以外転移させるの嫌。面倒だもん。自分で走って行けばぁ?」
「転移した先が危ない状況だったら心配だわ!」
「あーし一人で何とかなるし? お兄ちゃんには指一本触れさせずに逃げ切る自信あるし? なんだったらあの変なのみたいに、存在事バイバイできちゃうし?」
「ルウ、諦めろ。ホムラやユキと一緒でシズトの言う事くらいしか聞かねぇぞ、そいつ」
「当然です。マスター以外の命令など聞く必要ありませんので」
ねぇ、ホムラ。最近、僕の言う事聞かない時あるよね?
……ちょっとこっち向いて?
「……そうね、諦めるわ。飲み直しましょう」
「その前に僕を離してもらえます?」
「ダメよ。心配だもの」
「今日は私が世話係。私が見張ってる」
「残念、そうだったわ。それじゃ、ドーラちゃん、お願いね?」
「ん、任せて」
ルウさんから解放されたけど、今度はドーラさんが手を握ってきた。
まあ、抱き着かれるよりかは、マシか。
ソファーに座ってのんびりしている間、ずっとドーラさんが手をニギニギとしてきた。
小さくて柔らかい手だった。
夜の間に速達箱を使ってドラン公爵とドラゴニア国王に手紙を出したが、翌朝には返事が来ていたらしい。
朝食を食べながらレヴィさんが報告してくれる。
「大丈夫だったのですわー」
「公爵は街の中と繋げてもいいと言ってる」
「ただ、シズトが使わない時は使えないようにしておいてほしいそうなのですわ」
「特にユグドラシルのは必須。悪用されないために必要」
「まあ、そうだよね。……うん、できそうだから作っちゃおうか」
「お兄ちゃーん。あーし、次はお肉食べたい」
「はいはい」
「じゃあ今日は魔道具作りと設置に専念するのかしら?」
「そうなるかな」
「またアンデッドでも狩ってくるか」
「そうね、そうしましょ」
「お兄ちゃん、次はパン食べたい」
「はいはい」
これから一仕事があるクーが「ご褒美ないのぉ?」と催促してきたので、絶賛今ご奉仕中。
自分の食事をしつつ、隣に座って口をひな鳥のようにカパッと開けたクーの小さな口に、クーの前に置かれた食事を入れていく。
もぐもぐと動く小さな口がまた開かないうちに、自分も食事を口に詰め込む。
忙しない朝食が終わると、レヴィさんが「エルフに話をつけに行くのですわ!」と出て行った。作業着だったんだけど、良いんだろうか。セシリアさんが何も言わずについて行ったから、まあ、大丈夫なんだろうけど。
ラオさんとルウさんは武装してアンデッド狩りに行く。これからどんどん魔石が必要になるからたくさん狩ってきてほしいけど、兵士たちがたくさん動いているから難しいかもしれない。
ドーラさんは僕の護衛として側に控えていて、ホムラは商人たちに魔道具を売りに行った。
リビングのソファーに座り、クーを太ももに乗せながら、アイテムバッグを漁る。
「とりあえず、転移陣作るか」
「どうするの?」
「悪用されない方法? こう、嵌め込んで魔法陣が完成するようにしておいて、使わない時は取り外してもらおうかなって。ほら、ドライアドたちが『道』を使って行き来できるらしいし、お願いしたらやってくれそうだからそれで十分かな、って」
眠たそうな目で僕を見ていたドーラさんが、納得した様子で頷くのを確認してから作業をする。
そうして作業をすると十分程で、転移陣のセットが二つできた。
世界樹ファマリーを経由する事で、丸い毛玉と化しているでっかい狼に番をしてもらおうかと思う。
万が一、エルフ側か人間側が勝手に軍隊を転移させてもフェンリルが追い払ってくれるだろう。
大量に転移する事ができないように、一度の人数制限も設けておいたし、少数精鋭で攻め込まれない限りは大丈夫だろう。
世界樹ファマリーの防衛班として魔法生物を置いてしまってもいいけど、窓からフェンリルとドライアドに問いかけたら、必要ないらしい。
その後は、魔力が続く限り建設中の街に設置予定の聖域の魔道具を量産して時間が過ぎていった。
良いお値段で買ってもらえるそうなので頑張った。
……どのくらいの値段かは知らない方がいいと思って聞いてない。
「知らない方がいい事ってあるよね」
「?」
クーは不思議そうに僕を見上げてきたけど、何でもない、と頭を撫でる。
クーはすぐに目を瞑って寝息を立て始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます