118.事なかれ主義者は特にほしいものはない

 お風呂を堪能した後、寝間着を着て部屋に戻ると、布団が人数分敷かれていた。

 二列に等間隔に並べられていて、修学旅行を思いだす。

 この世界に来る事になった高校の修学旅行ではなく、中学の修学旅行だけど。

 枕投げ禁止って先生に言われてたからやらなかったけど、やってみたかったんだよね。

 枕を持ったまま周囲を見ると、ホムラと目が合った。

 ……安眠カバーを構えて何をしようとしているのかな?

 そっちがその気なら、こちらも応戦しようではないか。

 枕を構えてホムラと対峙していると、黒くセクシーなネグリジェを着たレヴィさんが押し入れから枕を両手いっぱいに抱えて持ってきた。胸元が大きく開いていて、とても目のやり場に困る。


「合戦なのですわ!!」

「お供します」


 メイド服を着たセシリアさんもなんだかちょっとやる気みたい。

 ……寝る時もメイド服なのかな。

 そんなどうでもいい事を考えていたら、枕が顔めがけて飛んできた。

 持っていた枕をその場に落として、飛んできた枕をキャッチすると、枕がたくさん飛んできた。


「ちょ、レヴィさん、セシリアさんと協力するの卑怯だと思うんだけど!?」

「戦いに卑怯も糞もないのですわ!」

「お姫様が糞とか言わないでくれます!? お姫様のイメージ大事にしていこ?」


 あと寝間着とかも考えよう?


「農業をしている時点で、王族のイメージは崩壊してると思ってましたが?」


 ……うん、そうですね。


「ホムラ、一時休戦! 手伝って!」

「かしこまりました、マスター」


 うん、その安眠カバーはいったん置いとこうね?


「ドーラ! こっちの陣営に入るのですわ!」

「分かった」


 掛け布団を盾のように構えたドーラさん。

 人数で負けているから仲間に加わってもらおうとクーを見たけれど、すでに寝ていた。

 ラオさんとルウさんを見ると、窓際でのんびりワインを飲んでいる。


「あー、アタシはパス。見てるだけでいい」

「お姉ちゃんは、どうしようかしら~」


 顔が赤くなっているルウさんがうーんと小首を傾げて考えている。

 椅子に座って足を組み、人差し指を顎に当てて、こちらに流し目をしてきた。

 剥き出しになっている太ももに視線が行かないように気を付けつつ、ルウさんの返答を待った。


「……ルウおねえちゃん、一緒に遊んで。って言ってくれたら頑張るんだけどな~」

「よっし、じゃあホムラ。二人でがんばろ~」

「ちょっとくらい考えてくれてもいいと思うのだけど……まあいいわ」


 頬を膨らませて拗ねた様子だったルウさんは、すぐにクスッと笑って僕をじっと見ながら酒を飲み始める。

 その日、夜遅くまでやるつもりだった合戦は、いつの間にか紛れ込んでいた安眠カバー付きの枕が背後から当たって、終わっていた。


 ホムラさん、ホムラさん?

 ちょっとこっち来てもらっていいかな。

 どうして味方に枕を投げたのか説明してくれますか?

 ……寝不足は体に悪い?

 まあ、そうだけど夜遅くまでやりたかったんだから、次からは止めてね?


「………」


 あ、これ次もやる反応ですね。

 スッと握りこぶしを胸の前で構えると、ホムラも慣れた様子で頭を差し出してきた。

 うん、これは素直だよね。




 朝食を食べた後は、旅館でのんびりと過ごした。

 旅館からも世界樹が見えたけど、結構距離がある。

 距離があっても一応使えるから祈ろうと思ったらレヴィさんに止められた。


「シズトがここにいる状況で、加護を使った時の反応がまた出たら面倒な事になるかもしれないのですわ。今日は生育の加護は使わないでほしいのですわ」

「わかった。じゃあ、神様の像でも作ろうかな」


 ここは観光客も来るみたいだし、神様たちを有名にするには丁度いいだろうし。

 アイテムバッグから木材の端材を取り出して、とりあえず作ってみた。

 もう加工の加護は、暇つぶし兼魔力を使い切るために使いまくってるから細部までしっかり表現できるようになった。


「ファマ様の像をここにも飾るのですわ?」

「うん、なんか信仰されるだけでも力がつくらしいし、ファマ様の像だけでもどこかに飾っておこうかな、って。本当はこの神様たち、仲良しっぽいしみんな一緒に飾りたいんだけどね」

「飾っても問題はないとは思うのですわ。とりあえず、それを飾るところを準備してもらうのですわ。それと、シズトが欲しい物を教えてほしいのですわ」

「欲しい物?」

「濡れ衣を着せられたから賠償請求をしっかりするのですわ。お金が無難ではあるのですけれど、お金じゃ買えないものもあると思うのですわ」

「濡れ衣って言われても、勇者たちと再会する事になった事以外、そんなに嫌な事起こらなかったし……」

「周辺諸国もシズトが禁足地に入った後に、世界樹が息を吹き返したのは見ていたのですわ。だから盗人呼ばわりはしないとは思うのですけれど、それでも何かしら賠償してもらうべきなのですわ。じゃないと、今後も舐められるのですわ」

「うーん、欲しい物、ねえ。ありがたい事に、お金がめちゃくちゃ溜まってるから別に欲しい物があれば自分で買っちゃうし……」

「特にないのであれば、良い感じに対応しておくのですわ。ただ、何か欲しい事があったらいつでも言ってくれれば対応するのですわ!」


 んー、思いつかないし、誰かに聞いてみるかなぁ。

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