108.事なかれ主義者はからかわれたくない

 結局安眠カバーを使ってベッドの端っこで寝たんだけど、起きた頃には既にレヴィさんはドレスを身に纏い、準備が終わっていた。

 金色のツインドリルがどうやってセットされているのか、知る機会を逃した! と思ったけど、早く起きたら身支度終わるまで外に出るしかないから結局分からないか。

 寝間着から普段着に着替えてしばしベッドでボケーッとしていると、セシリアさんが近づいてきた。


「シズト様、朝の身支度をさせていただきます」

「はい?」

「まずはその可愛らしい寝癖を直しましょう」


 ピョンピョンと跳ねている寝癖をそっと手で押さえてクスッと笑うセシリアさんマジ綺麗。

 切れ長の目と短く切り揃えられた前髪は薄い青色で、空の色に似ている。端正な顔立ちで、可愛いというよりもカッコいい感じ。高校にいたら王子とか言われそう。

 どうでもいい事を考えながら見惚れている間に、温かいタオルを髪に当てられる。抵抗しても無駄だと今までのやり取りで学んだのでされるがまま。

 その後もなんか色々されている間に、寝癖防止魔道具を思案する。

 寝癖がつかないナイトキャップとか。寝癖を一瞬で治す櫛とか。

 ただ、こうやって温かいタオルを当てられるのも捨てがたい。蒸しタオルって言うんだっけこれ。


「終わりました。お食事にしましょう」

「あ、はい。ありがとうございます」

「仕事をしただけですので、お礼は不要です」

「それでも、やってもらった事なので」

「……そうですか。どういたしまして」


 一瞬きょとんとした表情になったセシリアさんだったけど、すぐに微笑みを浮かべた。

 そんな僕たちのやり取りをジーッと見てるレヴィさん。


「私も寝癖の直し方を覚えた方がいいような気がしてきたのですわ」

「それは私の仕事ですので、レヴィア様は別の事で頑張ってください」

「私もシズトの寝癖治したいのですわ~」


 王女様はお世話される側なのでは?

 セシリアさんはレヴィさんを軽くあしらいつつ、テキパキと朝食の準備をしていく。

 以前作った魔動コンロを使ってくれていて、それで鍋を温めている。

 見た目鉄板だけど、魔力を一定量流すと熱を発する。……ホットプレートって名前にした方がいいような気がしてきた。それか、せめてコンロみたいに火が出るようにしたいけど、小さなテントの中でも温められるようにするために作った物だし、名前を変えるのが手っ取り早いよね。


「まあ、ほとんどの魔道具名前変えられて売られてる気がするけど」


 考えると悲しくなってくるので、思考を切り替える。


「今日中には国境に着くんだっけ?」

「そうですわ。予定通りいけば、ドラン軍と合流してその後は一緒に行動してユグドラシルを目指すのですわ」

「そんな事しちゃって大丈夫なの? たくさんの兵士が入ったら向こうを刺激しない?」

「そこら辺は話がついていて問題ないのですわ。ユグドラシル側は、シズトに来て世界樹を助けてほしいから、だいたいの事は飲むしかないのですわ。シズトが実際に世界樹を救う力を見せつければ、その時点で停戦状態になり、その後話し合いをして賠償内容が決まったら終戦になる予定なのですわ」

「周辺諸国の特使や勇者様たちもユグドラシルでお待ちになっているみたいですよ」

「は!? なんであいつらが?」

「エンジェリア帝国の特使として来ているみたいですよ。これで、我々も下手な事はできませんが、ユグドラシルも条件は同じでしょう」

「なんか一気に行きたくなくなってきたー……帰っていい?」

「んー……まあ、シズトがどうしても、というのならいいですわ。でも、そうするとこちらに疚しい事があるから来なかったのだとか、周辺諸国から言われるかもしれないですわね。まあ、そんな国とは関わらなくてもドラゴニアは問題ないから、何を言われようとどうでもいいのですわ」

「……ご飯食べたら行こうか、ユグドラシル」


 あいつらが来るならもう顔バレしてるし、変装の魔道具を使っても意味ないじゃん……。

 しょんぼりしながら、用意されたスープとパンをもそもそ食べた。




 近衛兵に囲まれた状態で馬車を進め、夕方頃になるとたくさんの兵士たちが窓の外に見えた。

 至る所でアンデッド退治をしている。


「大規模アンデッド討伐も本当にしているのですわ。エルフがこちらの領土に侵入しようとしている間は、ドラン軍しかアンデッド退治をしてなかったですけれど、最近は貴族連合軍も小遣い稼ぎをしているようですわね」

「ドラン公爵が治める領地ではなぜか魔石が高騰していますので、ゾンビの魔石だとしてもそこそこの値段で売れますからね」

「なんでだろうねー。僕分かんないや」


 そっぽを向いているけれど二人の視線をすごく感じるのは被害妄想っすかね。


「野営の準備が終わるまでは馬車の中で待つのですわ!」

「やっぱりここでも同じ天幕なんすね」

「同じベッドでもあるのですわ!」

「シズト様、大丈夫です。シズト様たちが中で過ごされている間は、天幕の中を誰も見ませんので」

「そっか、一緒に寝てないって言えば――」

「準備の段階で近衛兵にはベッドが一つしかないと知られてますけどね」

「ダメじゃん!!」


 レヴィさんと僕しかいないからか、ユグドラシルまでの移動中セシリアさんがよくからかってくる。

 レヴィさんがスキンシップが多いのと同じように、セシリアさんも僕を気遣ってくれているのかもしれないけど、そういうのに慣れてないから勘弁してほしい。

 その後も、準備が終わって迎えが来るまでレヴィさんとセシリアさんの三人で他愛もない話をし続けた。

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