81.事なかれ主義者はリッチと戦う
テントの中に敷かれた布団をアイテムバッグに片付けて外に出ると朝ご飯を食べる事になった。
臭いを感じないように魔道具で嗅覚遮断の効果がある結界を作ってその中でご飯を食べるんだけど、やっぱり美味しくない。時間経過がないアイテムバッグを作る事が出来ればいいんだけど……。
そんな事を考えている間に、早く食べ終わったルウさんとラオさんはテントを片付けて出発の準備を整えていた。
「次はフロアボスだったよね?」
「ああ、リッチとそれが生み出すアンデッドどもの相手だったはずだ。リッチ単体でもCランクの魔物だからそろそろコレも効かなくなってもおかしくねぇし、どうする?」
ラオさんが神聖ライトを振りながら尋ねてきたけど、魔物退治の専門家じゃないのでどうする? って言われてもどうしよう? って感じなんですけど?
「とりあえず、中の状況次第だけど神聖照明弾を使って様子見るとか?」
「それもありだと思うけど、セイクリッド・サンクチュアリが付与された魔道具はどうかしら。弱い魔物は触れただけで倒せてしまうし、魔道具の中に叩き込めば弱体化くらいはするんじゃないかしら?」
「そうかもね。ただそうなると、魔道具が効かなかった場合はもう逃げるしかないよね」
「なぜ?」
ドーラさんが不思議そうに首を傾げている。
なぜって、魔道具じゃ倒せないんだったら無理じゃん?
そう思ってラオさんとルウさんの方を見ても不思議そうに首を傾げていた。
「今までの魔物もそうだったけどよ、リッチなら魔道具なくても倒せるだろ。ただ、それが効率が悪いからそうしてこなかっただけだ。そもそもリッチの厄介な所は遠くから魔法を使いつつゾンビを生み出して壁にしたり、物量で疲れさせようとしてくるところだ。遠距離タイプだから、アタシかルウのどっちかがリッチに辿り着けばだいたい何とかなる」
「大丈夫、その時はお姉ちゃんが何とかしちゃうから。私のかっこいい所、しっかり見ててね!」
過半数以上が大丈夫って言ってるけど、不安しかないんですけど……。
そんな不安を抱えつつも、作戦はある程度まとまった。
まあ、作戦と言えるほどのものではないけど。
二十階層は変わらず広い沼地だったが、遠く奥の方にポツンと黒いローブを身に纏った怪しげな骸骨がいた。ここも情報通りで活発期の兆候は見受けられない。
先制はルウさんがする事になっていた。そのルウさんがすごい速さで遠くにいる骸骨に向かって駆けていく。ただ、骸骨もそれを待っているだけなわけがない。目があったはずの窪みが怪しく光ったかと思えば、持っていた身の丈以上の杖でトンッと地面をついた。それだけでそこら中からいろいろなゾンビが湧き出してくる。レイスも、その上位種も空を飛び交う。
ルウさんがアンデッドに囲まれて孤立してしまう形になってしまったが、予定通り。
「行くわよ!」
その掛け声とともに、ルウさんに渡していた予備のアイテムバッグから取り出した神聖照明弾が打ち上げられ、一定高度まで到達すると強い光が視界を覆った。
光が収まると、ルウさんの周囲でゾンビが燃え上がり、空中からはホーリーライトに耐えきれなかったレイス系の魔物の魔石が降ってくる。
ただ、光が届かなかったのかリッチは健在だ。
「やっぱそう上手くはいかねぇよな」
「ちょっと広すぎたね。リッチのとこまで光が届くくらい近寄ってから使う事ができたらよかったんだけど……。まあ、次の作戦で行こう。底なし沼もありそうだし浮遊台車でルウさんの後を追いつつ神聖照明弾を使っていこっか」
「分かった」
ホムラが押す浮遊台車には僕が乗り、ラオさんが押す浮遊台車にはドーラさんが乗る。
ルウさんの後を追うように進み始め、ルウさんも僕たちの到着を待っていた。合流する際に僕の台車を押していたホムラが僕のすぐ前に腰かけてルウさんが台車を押す。時々沼の上を進みつつ、ゾンビの集団が迫ってくるのを前方を進むドーラさんが神聖ライトと大きな盾のコンボで弾き飛ばしつつ突き進む。
テーマパークのアトラクションみたいな気分を少し感じつつも、またゾンビの集団が前方に肉の壁のように広がっている。
その目の前に僕が神聖照明弾を投げると、また強い光が世界を覆った。流石に目を瞑ったまま進むのは危険という事で一度止まり、光が収まる頃に周囲を確認するとリッチまで光が届いたようだ。
だが、リッチは無傷。周りのゾンビやレイスはどんどん倒す事ができたが、リッチは魔法で凌いだようだった。リッチの周りを黒い影のようなものが囲んでいたが、だんだんと消えていく。……防いだって事は神聖ライトが効くって事なのかな?
そんな疑問を感じていたら、完全にリッチの周囲から黒い影のようなものがなくなっていた。
リッチの様子を見ていると再び地面をコツンッと杖で突いた。
「物量作戦か」
「シズトくん、どうしようかしら?」
「神聖照明弾の残りの数はそこまで多くないけど、それで隙を作るからラオさんとルウさんがやる感じで行こ。ただ、どうしようもなくなる前に籠城作戦で行くかもしれないから、ホムラはいつでも聖域を作れるようにしておいて」
「かしこまりました、マスター」
魔法を使う骸骨を倒すためにやるしかない。
そうやって意気込んでいたらポンッと僕の頭に手が置かれた。
「ほんの少し肉壁がいない状況を作ってくれれば大丈夫よ。そこからはお姉ちゃんたちに任せて? かっこいいところを見せちゃうんだから!」
「ほら、バカやってねぇでさっさと進むぞ。沼に落ちねぇように掴まってろよ」
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