77.事なかれ主義者は帰宅する
亡者の巣窟の第五階層から、ゾンビの上位種が出るようになった。動物系のゾンビや、巨大なゾンビ等、色々な種類がいる。中でもびっくりしたのは、今までのゾンビだと思って油断していたら、いきなり走ってこちらに向かってきた事。ゾンビは走るものじゃないって!
そんな僕の内心の焦りを気にした様子もなく、ルウさんがピカッと倒している。まだ神聖ライトは効くようだ。
「今まで通りの見た目でも馬鹿みたいに力が強かったり、今みてぇに機敏に動いたりするゾンビもいるから油断すんじゃねぇぞ」
「見た目同じでも油断ダメ」
「四足歩行型のゾンビも厄介ではあるのよね~。足元をちょろちょろされるとラオちゃんだと相手するのが大変だし」
ナニがとは言わないけど、大きいから下が見え辛いんですかね? あ、殴り辛いだけですか、そうですか。
そういう物だと分かっていれば、特に驚く事はなく俊敏に近づいてくる四足歩行のゾンビや、走ってくるゾンビの相手をしているルウさんをのんびりと見つめる。
神聖ライトでピカッとするだけなので、ここでたくさん魔石集めをしてもよさそうだけど、今は少しでも早く転移陣にたどり着くという目標があるので、最低限の敵の相手をしてサクサクと進んでいく。
第六階層以降も変わり映えはしない。宝箱もなく、洞窟は相変わらず迷路のように道が枝分かれしているけれど自動探知地図があるのでそれすら障害にならない。
サクサクと進んで第九階層も踏破し、第十階層に下りる前に小休止を入れたらフロアボスが待つ第十階層へ!
第十階層にはどんな敵が待ち受けているのか、不安を感じつつ皆の後ろをついて階段を降り切ると、事前の情報通り大きな広間となっていた。出てくる魔物も情報通り。
普通のゾンビはいなくって、走ってこちらに迫ってくる人型のゾンビや動物系のゾンビだけではなく、二メートル以上の大きさのゾンビ等たくさんいたけど、問題ない。アイテムバッグから取り出した神聖照明弾を構える。
ラオさんたちが警戒しつつも、いつでも強い光に対応できる様子を確認したらドーラさんに投げるのをお願いした。いや、どう考えても広すぎてちょっと届きそうにないし。
「最前線の敵の目の前でお願い」
「わかった」
その華奢な体のどこからそんな力が出るのか分からないけど、ほとんど弾丸の様な軌道を描きつつまっすぐに神聖照明弾は進んでいき、敵の最前線に着弾した。地面に当たると、垂直に跳ねる。
「今!」
僕も慌ててドーラさんの大きな盾の後ろに隠れ、光をやり過ごす。光が収まった時にはそれぞれ十数体いた上位種のゾンビたちも、魔石だけを残して消滅していくところだった。
「……フロアボスなのに簡単すぎない?」
「シズトくんの魔道具が強力って事ね~。お姉ちゃん、すごいと思うわ?」
ヘルメット越しに、ルウさんが僕の頭をポンポンと叩く。
ホムラ、真似しなくていいから。
「まあ、アレで最後だったから補充って意味でも帰らなきゃなんだけどね。……結局、フロアボスも特に記録と違いはなかったし、活発期に入ってないんじゃないかなぁ」
「油断はダメ。下の階層に異変があるかも」
「確かにな。ダンジョンの事はよく分かってねぇんだ。ある階層だけ活発期に入ってる事もあるかもしんねぇ。とりあえず今日は戻ればいいけどよ、明日以降も潜るぞ」
「お姉ちゃんと一緒に頑張りましょ、シズトくん!」
「明日から頑張るからとりあえずお風呂入りたい」
「今日は私が当番。早く帰る」
魔石をせっせと拾い始めたドーラさんの後に続いて僕たちも魔石集めを頑張った。
……戦闘よりも魔石集めの方が時間がかかってるし、これもなんか魔道具作った方が楽かな。
地下室に転移して戻り、一階に上がると既に日が暮れていて夜だった。
出迎えてくれたモニカは一瞬眉を顰めたけど、すぐに表情を戻す。僕じゃなかったら見逃しちゃうね!
とかあほな事を考えつつ、即行でお風呂に行く。今マスクを外すと大変な事になるのが分かっているのでまだ外していない。
「なんで皆来てるの?」
「なんでって、あんな臭い漂わせて屋敷内歩くわけにいかねぇだろ」
「装備の手入れもしておかないと臭いままだから大変だわ~」
「これだから不人気。街に戻るのも大変」
「え、後から入るんだよね? それか僕が後から入れば――」
「ご一緒します、マスター」
「不本意だけど効率的」
「たくさんシャワーがあったし、皆で入るために準備していたんでしょう?」
「グダグダ言ってねぇでさっさと脱衣所入るぞ。シンシーラがそこで吐いてるだろうが」
オロロロロッと、廊下の端で吐いているシンシーラに申し訳なさを感じていると、ルウさんに抱えられて脱衣所に運ばれる。
モニカが事前に準備してくれていたらしい湯浴み着をせめて着てもらおう。正直それでもいろいろと目のやり場に困るんですけどね!
「マスクはまだ外すなよ」
「そういうラオさんが外してるけど、平気なの?」
「まあ、慣れだな。冒険者をするんなら臭いだとか諸々慣れておいた方がいいんだよ。何があるか分かんねぇし、臭いで行動不能になっていたら致命的だしな」
「シズトが冒険者を目指すなら外せばいい」
「マスター、お湯加減はばっちりです」
「マスクつけたままでいい……ってちょっとホムラ、押さないで!」
ラオさんとルウさんとは違い、ホムラはドーラさんと同じようなワンピースの様な湯浴み着を着ている。ドーラさんと違うのは胸部が膨らんでいる事だろうか。
本当はお湯に入るのは体を洗ってからにしたいんだけど。
そんな事を思いつつ、ホムラが導くまま、大人しく湯船に浸かった。
……周りを囲むように入ってくるのは何か意図があるんですかね?
「私も一緒に入るのですわ!」
「もういっぱいいっぱいだから増えないでもらえます!?」
「私が増えたところで変わらないのですわ!!」
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