58.事なかれ主義者の大きな木

 結局ラオさんには異世界転移者である事を隠すのは無理だと悟った。

 いやだって、レヴィさんの態度がねぇ……。

 と、言う事で3日間安静に過ごしたラオさんにラオさんがいなくなってからの事を話すついでに味方に引き込んじゃおう。治癒師の代金という貸しがある今のうちだよね、きっと。まあ、正直どのくらいのお金が動いたか知らないし、こっちの世界に来て一番お世話になっているといっても過言ではない人だから請求とかするつもりはないんだけど、ラオさんがどれだけ時間をかけてでも払うって言って聞かないし。

 冒険者の協力者を得ておくのは悪い事じゃないと思う。この国の権力を持った人とのつながりはある程度できたけど、この国から出る事になる可能性も考えなきゃいけないし。


「なるほどな。先祖からの教えや勇者の血が奴隷や亜人に対する接し方に表れているもんだと思ったが、勇者そのものだったわけだ。商人ギルドや冒険者ギルドの規則や国の事をろくに知らないくせに、読み書きができたり計算ができるのも納得だわな」

「ラオさん、本当にもう動いて大丈夫なの?」

「あの治癒師、めちゃくちゃ腕がいいんだよ。まあ、その分だいぶ金がかかるわけなんだが……そういった意味でもシズトには頭が上がらねぇな」

「いや、支払いをしたのはホムラだから」

「その金を稼いだのお前だろうが。それで? その異世界転移者であるって事以外に話したい事ってなんだよ」

「いやー、ちょっとね? よく分からない植物を育てているわけでして。冒険者でいろんなところを行ってるから、ラオさん知ってるんじゃないかなぁ、って。知ってたら教えてもらいたいなぁ、って」

「なんか気持ちわりぃな。またなんかやらかしたのかよ」


 いや、今回は僕は悪くないと思うんですよ。

 神さまから呼び出されたら行くしかないと思うし、祈ったら苗木を押し付けられるし、その苗木はぐんぐん伸びているし。

 ラオさんがお休みをしていた3日の間にもう僕の背丈を軽く超えてるし、神社とかに生えてる木の高さくらいまでいっているような気がする。比較する木が周りにないからよく分からないけどね。以前作った植物観察虫眼鏡を使うと、高さは十メートルを超えているのは知ってる。

 とりあえず実物を見せた方が早いのでラオさんと一緒に転移で移動しようとしたら、まずそこでため息をつかれた。


「転移陣を作ったって言ったら間違いなく騒ぎになるだろうが……王家が後ろ盾になってるってのはコレが理由か」

「そういえば、この転移陣も破格の技術でしたわね。でも、それとこれとは別の事ですわ! いろいろあったのですわ!」

「これも解析しようと頑張ったんすけど、ダメっすね。さっぱり分からない事だけが分かったっす。文字がつぶれて線になっているのか、ただの線なのか判別つかねーっす。それと比べると魔法のじょうろの方がまだ読み取れるっすね」

「複製期待してる」

「ドーラ様もご希望っすし、ちょーっとノルマを減らして解析の時間増やしてほしいなぁ、なんて言ってみたりしてみたりするっす~……?」

「マスター、今日も私はマーケットの方に行きます。何かありましたらご連絡ください」


 ホムラはノエルをスルーして別行動。

 ノエルはしばらくぶつぶつ文句言っていたけれど、ダメ元で言ったらしく転移後は気にした風もなく結界の魔法陣を見るために離れていった。


「水あげてくる」

「あ、じゃあお願い」

「私はたい肥を撒いてみるのですわ~」

「お手伝いいたします」


 ドーラさんは魔法のじょうろを手に謎の木の方へ歩いていく。

 それを追い越す形でスタタタタッと袋を担いで走っていくレヴィさんの後をセシリアさんがメイド服でついていく。

 神様から頂いた不思議な木の気になる事は、祈りだけでなんで成長するのか、という事だけではない。もう一つ気になる事として、大きくなる度にどんどん雑草が生える範囲が広がっている事だ。

 今はもう結界の8割ほどは緑化している。

 不毛の大地だが、雨が降らないわけではないので水やりもそこまで気にする必要はないのだが、ドーラさんは欠かさず水やりをしているし、レヴィさんは「たい肥の効果の実験をしてみるのですわ!」と意気込んでいる。


「それで、ラオさんに聞きたいのがあの木の事なんだけど……ラオさん?」


 ラオさんが口をぽかんと開けて謎の木を見上げていた。


「いや……そんなわけ……でも、確かに……」


 ふらふらとラオさんが木に近づいていく。

 どうしたんだろう? よく分かんないけど、とりあえず僕も祈りを捧げるために木の側に行く。

 この三日いろいろ試して分かったんだけど、近い方が祈りが伝わりやすいようだ。魔力の節約のためにもできるだけ近くによって祈りを捧げる事にしている。

 ラオさんは木をぺたぺたと触ったり、見上げて葉っぱを眺めているような仕草をしたりをしている。

 ニョキニョキ伸びるからちょっと離れてほしいんだけど……。


「シズト……これ、どこで手に入れたんだ?」

「神様から頂いたのですわ!」

「ラオさん、この木知ってるの?」

「……間違いねぇ。世界樹だ」


 …………やっぱり?

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