56.事なかれ主義者はオブジェを作った
謎の木はニョキニョキ伸びて僕の身長を超えた。
水とかなくて大丈夫なんかな、と思いとりあえず【付与】で作った魔法のじょうろを使って、たくさん水を上げてみるけど、特に変化はない。本当に祈りだけですくすくと伸びているのを見ると魔法って不思議。
「シズト様~、ホムラ様が無茶苦茶なノルマ言ってくるっす~。少なくするように言ってほしいっす~」
「別に作る魔道具の数変えてるわけじゃないんでしょ?」
「1つも変えてないです、マスター」
「減らしてくれないと魔道具の解析の時間取れないじゃないっすか! って、また新しい魔道具作ってるっす!」
「魔力を使うとただ水が出てくるだけだよ」
「魔力を使うとただ水が出てくるだけ……ただ水が出てくるだけ!? ただ水が出てくるだけって言ったっすか? それがあればどれだけ旅をするのが楽か分かってるっすか!? 水の事で争っている村の争いを止める事だってできるかもしれないんすよ!? それを作ろうとどれだけの魔道具学者が躍起になったか分かってないっす! そんなポンポン作ってるから、それがどれだけすごい魔道具なのか分かってないっす!! っていうか、ボクだってそんなポンポン作ってみたいっす!!!」
ノエルが目と鼻の先の距離まで顔を近づけてきてまくし立てる。
まあ、言いたい事は分かる。ダンジョンに入った時、アイテムバッグがあるから全然そんな風に感じなかったけど、すれ違う冒険者たちは結構な大荷物だった。食べ物とか飲み物とか最低限必要な物を自分たちで運ぶ必要あるよね。
「ノエル、近いです」
「イタタタタタッ!!」
「まだ自分の立場が分かっていないようですね。マスター、少し教育してきます」
「もう分かったっす! 分かってるっす!! シズト様からも言ってほしいっす~~~~~~……」
「達者でね」
ホムラに引きずられていくノエルを見送って、木の周りに水を撒く。
その時にふと何か違和感を覚えて地面をじっくり見る。
「なんか周りに生えてる」
木の周りをじっくり観察して分かったのは、木の周囲1mくらいになんかの草の芽が出ている事。
何の草かよく分からないけど、不毛の大地って言われてるのに草が生えるって不思議だなぁ、なんて思っていたらやってきたレヴィさんが大騒ぎし始めた。
「ありえないのですわ! 神様から頂いた木はまだ分かるのですわ。でも、そこら辺に生えてる草が生えてくるなんてありえないのですわ!」
「ん~~~……加護の力かなぁ?」
なんか【生育】の加護を使う時にその余波で周りに草が生えたとか?
レヴィさんはひとしきり騒いだ後は、満足したのか僕に言っても仕方ないと諦めたのか分からないけど、草の観察をし始めた。後ろに控えていたセシリアさんと何か話しているけれど、とりあえず今日もお祈りをして、今日はフェンスの外側を整備しよう。
今の所はアンデッドばかりで結界内に入って来れなくて周りをうろうろしてたり、霊体の魔物は結界に触れて消滅しちゃってるけど今後はそうとも限らないし。
そんな事を悩んでいたら側に控えていたドーラさんがぼそりと呟くように話した。
「大丈夫だと思う」
「そうかなぁ」
「この結界を破る魔物はここでは出てない」
「え、別の場所には出てるって事?」
「ダンジョンの中とかによく出る」
何それこわ。やっぱりダンジョンに入らないようにしよ。
フェンスの向こう側に何を作ればいいか、と考えた時にちょっとでも魔物退治しやすいようにした方がいいと思ったので、とりあえず一面鉄の床にしてみた。
木もいいかな、って思ったけど普通に力の強い魔物が出たら壊されちゃいそうだし。
凸凹があったから戦いやすいかなあ、って思ったけど、こけたら痛そう。
ちょっと所々に【加工】でオブジェを作ってみる。なんかそれっぽい甲冑の像を作って見たり、それを複数作って並べてみたり。イメージが足りないのか、ちょっとへんてこな像……というか、可動域の事を考えてなかったから膝とか肘とか動かせない像ができた。
んー、今度ドーラさんにちょっと全身鎧身に付けてモデルになってもらおう。
そんな事を考えながら魔道具作りではなく、【加工】で遊んでいたら転移陣から慌てた様子のノエルが戻ってきた。
ホムラのお説教終わったのかな?
きょろきょろとしていたノエルだったが、遠くにいた僕を見て何か叫びながらこちらに駆け寄ってくる。あ、フェンスに阻まれて出口を探して右往左往してる。その後ろからホムラがノエルを飛び越して、フェンスも余裕で飛び越えた!?
魔法生物なら普通なのかな……ちょっと高さ増やしておこう。
「マスター、ラオ様がお帰りになりました」
「え、ラオさんが?」
「帰還の指輪を使われたようです、マスター。今はお休みになられています」
「シズト様ー!! ラオさんが怪我してるっす!!! 魔道具でなんとかならないっすか!!!」
「何でそれ先に言わないの!? ホムラ、運んで!」
「かしこまりました、マスター。失礼いたします。」
とりあずホムラへの優先順位の指導は後回しにして、ホムラに運んでもらってすぐ移動しよう。
って、ちょっと待ってホムラさん。お姫様抱っこはやめてほしいんだけど……っていうかこんな状態で5メートルジャンプやめてー--っ!!!
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