51.事なかれ主義者は影響力があるお手伝いを得た

「ドラン公爵から知らされてとても驚いたのですわ! あの時教えて欲しかったのですわ!」

「いや、レヴィさんが探していたのは勇者でしょう? 勇者って異世界転移者で戦闘系の加護を持っている人の事を指すって思ってたんだけど」

「それは私が早とちりしたのですわ……。異世界転移者は勇者だと思っていたのですわ」

「戦闘系の加護を持たないのは珍しい。すべての転移者が勇者と劇でも扱われてる」


 ドーラさんもその様子だと僕が異世界転移者って知ってたようだ。

 まあ、子孫だと思われてるって思って見た目とか言動とか気にしてなかったし、途中からあんまり隠そうとも思ってなかったし。そういう所で分かったのかな。

 とか思ってたんだけど、そもそもこの国の王家に最高神様から神託があって、異世界転移者が転移してきていたのは知っていたらしい。


「どうして隠してた?」

「いやー、なんも知らない状態で国に取り込まれるのやばいんじゃないかなって」


 そもそも僕が王様の所にいきなり転移されたくないって神様に希望を出したのは、その国がどんな国か分からなかったからだ。

 魔王がいて、大変な状況だと言われても、もしかしたらその国がただ近隣諸国を攻め落とそうとしている最中で、洗脳して扱き使うために召喚したとかネット小説で読んだ事あるし。

 他にも、戦争状態で追い込まれている所に転移してそのまま王族と一緒に捕まって処刑とかね。

 じゃあ今いるドラゴニア王国は、と聞かれたら中立的な立ち位置の国らしい。攻められたら追い返すけど、積極的に攻めない。ドラゴニア王国内にダンジョンが乱立している事や、希少金属が手に入る鉱山もたくさんある。国の領土を広げる必要性をそこまで感じていないんだとか。

 もちろん、貴族の中でもいくつか派閥が分かれていて過激派も少数だがいるので、そういう貴族たちとは関わりたくない。

 ただ、この領地の領主であるドラン公爵は僕が転移者だと知っていたようだったけれど、特に向こうからアクションはなかったし、どうなんだろう?

 ああ、でも浮遊台車を作れとは言われたか。


「まあ、確かに勇者を悪用して混乱を招いた国々はあるのですわ。ただ、現実的になかなか難しいと思うのですわ」

「今は勇者の子孫がいる。勇者に匹敵する加護を持つ者も」

「そうですわね。それに神様によっては加護の剥奪もあるらしいですわ。ほとんどない事でも、実例を元に物語にもなっているのですわ」


 なるほどなぁ。チートはチートだけれど、好き勝手出来るほどではない、と。

 この世界の人の中でも神様から加護を与えられる人は一定数いる、って神様も言ってたな。それに神様たちも悪い意味で加護が目立ったら信者が減りかねないもんね。そりゃ取り上げる事ができるなら取り上げちゃうよね。


「まあ、バレちゃってるならもういいか。確かに僕は異世界から転移、というか転生? 死んだ後にそのままこっちに来てるから生まれ変わりともいえるのかな? なんかよく分かんなくなってきたんだけど」

「私に聞かれても困るのですわ?」

「とりあえず、シズト様が異世界からいらした事には変わりないのでは?」


 困り顔のレヴィさんがメイドさんの方を見ると、メイドさんがレヴィさんに答えた。

 黒くスカートが長いタイプのメイド服を着こなし、クールビューティーな印象を受ける彼女は、僕と目が合うとぺこりと頭を下げた。


「私の侍女のセシリアですわ。話を戻すのですわ。異世界からやってきたのですわ?」

「まあ、そうなるねぇ」

「今後もここで暮らしていくのですわ?」

「そうなるかなぁ」

「なら、お手伝いするのですわ! シズトにはもう話してしまったけれど、私がダイエットを頑張ったのはすべてそのためなのですわ! 是非、お手伝いをさせてほしいのですわ!」

「手伝いって言ってもねぇ。特に今困っている事はないし……」

「これから問題が起こるかもしれないのですわ!」

「そうは言ってもねぇ」


 ですわですわと僕の近くでまくし立てる彼女を見ながら考えてみるけど、特に本当にこれと言って手伝ってほしい事なんてない。

 まあ、強いて言えば、貴族たちにバレてて特に向こうから何もしてこないのであれば、社交界に出て魔道具が売れるように宣伝してほしいくらい?

 あとは何か厄介事が起きた時とかに後ろ盾になってくれそうな人を教えてもらうとか?

 まあ、彼女がどれくらいの影響力がある女性か知らないから気休め程度になるかもだけど。


「レヴィア様、発言しても?」


 そんな事を考えていたら、侍女のセシリアさんがレヴィさんに発言の許可を得た。

 イザベラさんと同じくらい眼鏡が似合いそうな人だ。


「ご自身の事をまずは話されてはどうでしょう? シズト様のお力になれるはずだと、それで証明できるかと愚考します」

「そうでしたわ! まだ、自己紹介すらしてなかったのですわ! 私はレヴィア・フォン・ドラゴニア。ドラゴニア王国の第1王女なのですわ!」

「影響力大きすぎる人キターーーッ!!!」

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